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□酔っ払いはお断り
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うふふふ、と陽気な笑い声が耳元で聞こえるのを鬱陶しく思い、もたれかかる体から少し離れようとするも、しつこく追いかけてくるのに呆れ果てて息を吐く。
「あーもう、お前一体何杯飲んだんだ。夜中に押しかけてくるとか大概すぎるだろ」
うんざりと小言をぶってみるも、既に脳味噌まで酒に浸りきっているらしい酔っ払いには聞こえない様だ。
「水持ってきてやるから離せ」
とうとう腰にまで伸びた腕を叩きながら言えば、きょとん、とした顔と目が合う。
「みず?」
舌ったらずな言葉違いに反射的に頭を抱えた。
酒の飲み過ぎで陽気どころか幼児帰りを起こしてやがる。
その状態で、オネーチャンに引っかかりも引っかけもせず家路に着いたのはある意味素晴らしいが、勝手に頼みの綱にされてはたまった物じゃない。
「頼るんなら、シラフの時にしろよ馬鹿」
「んー、なぁにぃ?」
「なんでも。ほら、ベッド貸してやるからそっちで寝ろ」
勝手に頼みの綱にされるのは困る。
困りはするが、されなくなったらなったで、寂しく思うんだろうな。とどうしようもない感情にため息を吐いて、ぐだぐだに力が抜けて無駄に重たく感じる体を無理やり引っ張って立ち上がらせ、今度こそ寝室に引きずって行った。

「なーんでこんなに毎回酔っ払って来るかな……」
重い重い。と溢しながら無事酔っ払いをベッドに叩き込み、肩で息をしながらボヤく。
「あろまー」
「だーから、寝ろって……わっ」
ペットから伸びた腕が胸倉を掴んできたと思えば、そのままグッと腕が引かれた。
「あっぶね……」
ふっと酒の匂いが強くなる。
とっさに枕に手をついて激突は避けられたが、酷く近い顔に眉をしかめた。
「離せや、酔っ払い」
「酔ってなかったら、離さなくていい?」
先ほどの幼さが鳴りを潜めた低い問いかけに眉をしかめる。
「……脳味噌アルコール漬けにしといてよく言う」
そうでもしなければここに来ない男の秀麗な顔を睨みつけ、離せ。と言うも、胸倉を掴む腕が離れるそぶりを見せない。
相手は酔っているはずなのに、その手は力強く振り解くことを許してくれない。
「はいはい、仕方ないからもちょっと詰めろ」
ついでに動けないから手ェ離せ。
再度言えば、納得したのか今度は手を離し、いそいそと体を端にやったのに長々とため息を吐いて布団をめくり上げているスペースへ身を横たえた。
ぎゅ、と抱き枕がわりと言わんばかりに抱きしめられる。
「好きだよー」
「あーはいはい。俺も好きだぞ」
素面なきっくんには決して言えないだろうな。と甘んじて抱き枕になりながら、そっと自嘲の笑みを漏らした。
酔っ払いの頼みの綱にされるのも嫌では無い。むしろ嬉しいが、態度に表さない様常よりも倍増しに冷たい態度で挑んでいる。
「あろま」
「んー?」
「今度さ、酒飲んでない時にくるから」
「うん」
「話、聞いてくれない?その時に」
「あぁ。素面な時にくるなら大歓迎だ」
腹に回された腕の力が強くなったのにどこか心地よさを感じながらしばらく来ないだろうと思っていた眠気に意識を委ねた。


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