novel

□Episode7(1)
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 モブリズの村の様子を見にいって戻ってきたティナたちと、サマサの村の様子を見に行ってきたストラゴスたちから話を聞きながら、久しぶりに全員で顔を合わせてフィガロ城で夕飯を食べる。
 どちらの村も、今のところ深刻な被害はないそうだった。
 エドガーがカイエンの顔を確認してから静かに告げた。
「それと、今日入った情報だが…ドマ城が見つかったそうだ」
「なんと…ッ、ドマ城はいまだ健在であったか…」
 世界崩壊にも巻き込まれず、天変地異で周囲の地形が大きく変化した中、偶然にもその部分だけ無事で残っていたらしい。
「場所が以前とはかなり違っているが…なんでも、ニケアのすぐ近くまで陸地が動いてしまっているそうだ」
「よ…よく無事だったな、それ」
 ロックが思わず呟く。マッシュが静かに言った。
「…見に行ってみっか」
「見に行っても…何もないでござるよ」
 切ない顔で呟いたカイエンに、ガウが無邪気な顔で言う。
「ドマ城ってカイエンの家か? おれ、見たい。カイエンの家、みてみたいぞ」
「む…むむ。ガウ殿、家といってもずっと戻っておらぬゆえ中は到底見せられるような有様ではござらぬぞ」
「見たい! 見たい! 見たい!」
 連呼し続けるガウを豪快に笑ってマッシュがぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
「だとよ。いいんじゃねぇか? 最近みんなも働き詰めだったし、視察ってことで息抜きがてらみんなでいってみんのも」
「そうだな。もしかすると、付近で生存者が村でも作っている可能性だってある。俺はドマ城だけでなく、その周辺も少し見てみたい」
 エドガーに頷いて、グレシアが続けた。
「ニケアから西のエリアは戦争末期に帝国領になったからまだ帝国の調査もほとんど入っていなかったはずだ。当然、世界崩壊後の調査もあまり行き届いていない。北西部の小大陸も含めてこの機会に目で確認しておきたいな」
 皆から視線を向けられてセッツァーがまんざらでもなさそうな顔で言った。
「仕方ねぇな…。夕飯食べたら準備して乗りな。寝てる間に飛ばしてやるよ」
 …もはやすっかりフィガロのお抱え運転手である。





 飛空艇に乗ってからずっと、カイエンの家、楽しみだ! とひたすら連呼して楽しそうにしているガウの部屋で、マッシュとグレシアが三人で話していた。
「家って言っても、お城だけどね」
 苦笑しているグレシアに、ガウが訊く。
「グレシアとマッシュの家も城だぞ? 家ってみんな城じゃないのか?」
 困ったような顔でマッシュが返す。
「あ、あー…そうだな。普通は、違うな」
「そうか…おれの家は、城じゃないのか…」
 きょとんとした顔でよくわからない理解に仕方をしているガウに、グレシアが試しに訊いてみた。
「モンスターと一緒にいる時は、家があるのか?」
「ある奴もいるし、ない奴もいるぞ! ない奴は草原で群れの中から見張りを立てて寝るんだ。おれも見張り、したことある」
「ほう。んじゃ、ある奴はどんな家に住んでんだ?」
 訊いてきたマッシュの顔を見上げてガウが説明し始める。
「洞窟ッ! あと、羽がついてる奴は藁を集めて作った寝床に寝るんだ。土の穴の中に家がある奴もいるし、でっかい木の穴の中に住んでる奴もいるぞ」
「ま、それも立派な城だよな」
 楽しそうに笑って聞いているマッシュに、ガウが少しいつもと違うトーンで言った。
「おれの家も、城か?」
「んー…? まぁ、お前がそれでいいなら、この旅が終わったら俺とフィガロ城に住むってのでも俺は構わねぇぜ。カイエンがどうするかはわかんねぇが…」
「…………」
 黙りこくっているガウに、マッシュと軽く顔を見合わせてからグレシアが慎重に訊いた。
「ガウは、カイエンと一緒に住みたい?」
「…カイエン、家に帰っちゃうのか?」
「……ッ」
 驚いて二人で顔を見合わせてから、グレシアが言った。
「帰らないよ。…ああ、いや、たとえ帰るとしても、ガウも連れて行きたいって言うと思うよ」
 エドガーが将来的にドマ城を北西部の管轄拠点として人を送って利用する可能性はある。その場合、本人の希望があればカイエンあたりが総督として着任する可能性も高い。
 しかし、ガウの返事は二人が想像しているものとは違っていた。
「カイエンは…おれがムスコみたいだって言った。でも、おれ、わからない。カイエンは、おれのオヤジなのか?」
「…………」
 思わず言葉に詰まってしまっているマッシュの言いたいことを、グレシアが代弁した。
「…私は、カイエンがたまに父さんみたいに思える時、あるよ。本当の父さんじゃなくても、そんな風に思える時ってのがあるんだ。ガウもそう感じるなら、親父さんだと思えばいいし、そうじゃないなら仲間だと思っててもいい。ガウが決めていいんだよ」
「……がうぅぅ……むずかしいぞ…」
 悩みこんでしまったガウに、マッシュとグレシアが同じような顔で苦笑してから温かい目で何か言ってやろうとした時だった。
 軽いノックの音がして、エドガーが顔を出した。
「やはり二人ともここだったか」
 苦笑しているエドガーにマッシュが訊く。
「兄貴、カイエンを見なかったか? いつもならとっくに部屋に戻ってくる時間なんだが」
「…ああ。さっきまでデッキで話していた。もう少ししてから部屋に戻ると言っていたから、じきに戻ってくるだろう」
「で、エド兄は部屋に戻ったものの一人で寂しくなっちゃったわけか」
 あくどい目でグレシアが言ってやると、人差し指を振りながら格好をつけて彼は言った。
「門限を守らない弟と妹を迎えに来てやったのさ」
 楽しそうに笑うマッシュとグレシアの声が部屋に響く。
「んじゃ、帰るとするか。カイエンももうすぐ戻ってくるって話だしな」
「はーい」
 笑顔でガウに「おやすみ」とだけ告げて、三人が部屋から出て行く。
 急にがらんと静まり返った部屋の中で、ガウが静かに呟いた。
「家族…」





 エドガーの希望で、飛空艇はナルシェを経由して更に西へと飛行を続ける。陸伝いにそのまま南へ移動してドマ周辺に到着予定だった。
 ところが、グレシアが飛空艇の上から一軒の家を発見したことで予定が変更になる。
 生存者が孤立しているのか、それともただの空き家か。何しろ周辺に村もなく、ただ家だけが一軒ぽつんと建っている。
「デッキの上からよく見つけられたな、あんなの」
 呆れたような声で感心しているロックにグレシアが楽しそうに笑う。ロックも仕事柄、目は相当鍛えているがやはり弓兵にはかなわないらしい。
 ロックやセリスと様子を見に行ったマッシュとグレシアが珍しく神妙な様子で黙りこくって戻ってきたのはその半日後のことだった。
「ボケたジジイが一人いただけだったぁッ?! なんだそりゃ」
 セッツァーが叫び終わるのを待ってから、エドガーが静かに訊いた。
「生存者ならフィガロで保護したいところだが…無理そうか?」
 ロックが唸る。
「ちっと厳しそうだったなぁ。完全にボケちまってる上にこっちの話を全然聞かねぇんだ」
 セリスが頷いて、困ったような顔で続けた。
「グレシアの事を修理屋と間違えてて、あれを直してくれこれを直してくれってそればっかり…」
「んでしかもグレシアがそのたびに全部直していくっていう」
 苦笑して笑い合っているロックとセリスにエドガーが苦笑してグレシアに言った。
「それは大変だったな。まぁ、一人暮らしで壊れたものが修理できなくて困っていたのならその人も助かっただろう」
 しかし、グレシアは考え込んでいた顔を上げて、真面目な顔で言った。
「エド兄。さっきマッシュ兄と話してたんだけど……………」
 マッシュが静かに呟く。

「あの人、ガウの親父じゃねぇか?」

 ガウがぴく…と反応する。
「オヤジ……? ガウの……オヤジ…ッ?!」
 カイエンが叫ぶ。
「まことでござるか?!」
「ああ。昔、カイエンとガウとグレシアと四人で旅をしてた時に、それらしい人の話を聞いたことがあるんだ。たまたまそん時はグレシアと二人で聞いたんだが」
 ロックが呆れた声で呟いた。
「まじかよ…」
「待って。それなら子供がいなくなったショックでああなったんじゃない? なら、ガウに会わせてあげれば、話ができる状態に戻るかも」
 明るい声で話すセリスにエドガーが頷いて言った。
「本当にガウの父親なら、なおのことあんな場所に一人で置いておくことはできない。無論、会うかどうかはガウ次第だが…。ガウ、会いに行くかい?」
 全員の視線を浴びて、ガウは力いっぱい吠えた。
「ウ〜〜ガウッ!」





 


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