novel

□Episode1(3)
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 地下の隠し部屋を出てから、更に神官長と話す。
「つまり、元の世界に戻る方法を探すにはグレシアがこちらの世界でも生きていたら何が起こっていたかを考える必要があるな…」
「ええ。そしてエドガー。特異点が元の世界に戻れなかった場合、それは…」
 元の世界での死を意味する。
 真剣な顔でエドガーは言った。
「わかっている。なんとかして彼女と直接話さなければ…」
「お願いします。もしグレシアが…わずか半日も生きられなかったあの子を…あの時、助けてやれて元気に成長している世界がどこかにあるのなら…どうか、せめてそちらだけでも幸せになって欲しい。今まで隠しておきながら身勝手な願いだということはわかっています。ですが…今どこかの世界であの子が死にかけているというのなら…救ってあげてください」
 いつもの毅然とした姿ではなく、母親の表情で必死に頼む神官長に、彼女が育てた息子は朗々と答えた。





「城に帰ってくると自分が特異点なんだってことがすごくよくわかるな…。ここまで誰も私を見て何も言わないとは…」
 人の多い城内を歩きながらグレシアが呟く。
 フィガロ城は一般人でも出入りの自由のエリアが比較的広く作られている。むろん、王族専用の立ち入り禁止エリアや政治にかかわる人間のみの関係者エリアはあるものの、兵やメイドなど城内で働く人間以外にも、商人や機械技師など毎日多くの人間が一般人エリアに出入りして店や工場で働いており、小さな町のようになっていた。
「やっぱりみんな顔見知り?」
 ロックの問いかけに小さな声でグレシアが答える。
「ああ。よく見かける顔が多い。というか、ロック。本当にこの先のエリアに進めるのか? 元の世界ではロックが一人でここを通った事って多分なかったと思うんだけど…。いつも私かエド兄が一緒にいたような気が」
「ああ。エドガーと一緒に通ったことならあるから大丈夫だと思うぜ。まぁまかせとけって。このロック様の顔パスで……」
 見張りの兵の冷たい声が響いた。
「ダメです。ここから先は関係者以外は立ち入り禁止となっております」
「なんでだよッ!! 前に通っただろッ?!」
 ロックの目には見張りの兵隊はすべて同じ顔をしているらしい。
「残念ですが、記憶にありません」
 至極当然のことを言っている兵隊にロックが怒鳴り返しそうになった瞬間、グレシアがボソッとつぶやいた。
「……やかましいぞ、ピーター。またベッドに機械のサソリ放り込むぞ?」
「え? えええええッ?! な、なぜ私のなま…いや、そのことをッ?! あ、あれは大昔エドガー様が…」
 ものの見事にうろたえている兵隊の前でグレシアが少し驚いた顔で独り言のようにつぶやく。
「あ、私がやらなきゃアレ結局エド兄がやってたのか」
「な…な…な………」
 すっかり混乱しきっている気の毒な兵の肩をポンと叩いてロックが淡々と言った。
「こう見えて俺たち、エドガーの個人的な知り合いなんだ。通してくれよ」


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