novel

□Episode4(1)
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「へぇ…じゃ、やっぱりレオ将軍は」
 船の中で夕飯を食べながらロックとグレシアが話していた。
「悪い人じゃなさそうだ。…流石にアレが演技だともうどうしようもないな」
 楽しそうに笑いながらロックが返す。
「想像以上の堅物だったってわけか」
「そんなんじゃないって。でも…ありがとう」
「ん?」
「今日見張っててくれたでしょ?」
 軽い口調でロックが笑った。
「ああ。ま、俺が行かせたようなもんだしな。それに、俺が遊んでる間にお前になんかあったらエドガーにのこぎりでバラバラにされちまう」
 楽しそうに笑ってグレシアが返す。
「それはないって。エド兄はああ見えて、私に何かあっても全部私の自己責任で片づけてくれるよ。…いつもそう言われてるし」
 へぇ…と呟いてから、ロックが意外そうな口調で言った。
「結構厳しいんだな。そういや前もそんなこと言ってたっけ…」
 あれは魔導研究所に行く前だった。何かあった時、エドガーは…はっきりとそうは言わなかったが、グレシアを見捨てるというような発言をしていた気がする。まぁ、もちろん単なる脅しだとは思うが。
 胸中呟いてから、ロックは話を戻した。
「それにしても随分盛り上がってたじゃねぇか」
 レオとグレシアの会話である。
「うーん…つい話し込んじゃったな。機械の話になるとついつい色々聞きたくなっちゃってさ。この軍艦のこととか魔導アーマーのこととか色々と…彼も結構機械好きらしい。会話のテンポもちょうどいい具合に速くてさ。なかなかやるよ、あの人。ちょっと真面目すぎるのが気になるけど、頭は固くないみたい。戦術面でも結構柔軟思考だし、相手の国のことまでちゃんと考えて戦ってる。道理でサウスフィガロが無傷で占領されただけで済んだはずだよ。…あの町を焼かずに綺麗に残しておいてくれたのは、ホントに感謝しかないな。それに騎士道一直線かと思いきや、音楽にも詳しいんだ。音楽の趣味も私と似ててさ、私の好きな昔の音楽家とかの話、全部わかってくれた人なんて初めてだよ」
「へぇ…。なんか…お前、いつもより口数多くねぇ? そんなに…男の話したことあったっけ? お前」
 ついでに言うと、こんなに機嫌がいいのもかなり珍しい。なんだか…妙な予感がする。
 そのまましばらくテンションの高いグレシアと話して、グレシアが先に席を立った後、ロックがたまたま隣のテーブルに座っていたシャドウに訊いた。
「なぁ……レオ将軍ってさ…身長どのくらいだっけ…?」
「…………………何の話だ…?」
「いや、やっぱいい。訊かなくてもわかる」
 誰がどう見てもエドガーよりでかい。マッシュといい勝負だ。
 これは、本格的に来たのかもしれない。
 あの男、少なくともグレシア側の基準はすべてクリアしている。
 犬に夕飯を食べさせているシャドウに、ロックが更に訊く。
「なぁ……レオ将軍ってさ…エドガーとマッシュ………倒せるんじゃね…?」
 しかもその後ちゃんと文通もしそうだ。
「……お前も食べるか?」
 何故か、ゆで卵を差し出すシャドウにロックが渋い顔で返した。
「…もらうよ」





 晴天の夜。満天の星の下でグレシアが歌っていた。甲板に出てきたセリスが呟く。
「…相変わらず、いい歌ね」
 歌い終えて、ハープを片手に持ったままグレシアがセリスに言った。
「生きててくれて良かった」
「…どうしてあの時、私が裏切ってないってわかったの?」
「…冷静に考えればわかる。セリス、あの時ロックが冷静になれなかったのは…」
「わかってる。…本当はわかってるの…。ロックは…優しいから。近くにいる女の子を誰彼構わず守ろうとするのも、昔助けられなかった子のことをいつまでも諦められないのも…優しいからだって」
「セリス…」
「私が大切にされていないわけじゃない。でも私は…」
 仲間としてそばにはもういられない。
 ロックはティナにもグレシアにも優しいけれど、そんな大勢の中の一人ではなく、彼にとって特別な存在でありたかった。一番大切な人に…なりたかった。そう思ってしまった時点で…仲間には戻れなかった。
「セリスがいなくなった夜、ロック、珍しく沈んでたよ」
「え…?」
「ロックって呆れるくらい明るいだろ? いっつも。他の誰がいなくなったって、きっとあんな顔で落ち込んだりしない」
「…ありがとう。ねぇ、グレシア…」
 柔らかく微笑んで、セリスが言った。

「もう一曲、歌って?」





 グレシアの歌声が船首から聞こえてくる。
 その歌声を静かに聞いていたレオの背後から、ティナの声がした。
「…あなたも、歌が好きなの?」
「美しいものを嫌いな人間はいないさ」
「うん…。私も、好き」
 透き通った声で話すティナに、レオが静かに訊いた。
「感情が戻ったそうだな」
「……不思議なものね。帝国に利用され、思考までコントロールされていた私が、こうしてまた帝国の人間と共に行動しているなんて」
「帝国の人間とて、同じ人間だ。全てがケフカのような奴ばかりではない」
「…私を利用していたのは…ケフカだけじゃない」
「……ティナ。お前が幻獣とのハーフであり魔導の実験台として苦しめられているのを知りながら…それを止められなかった事は、俺の罪だ。許してくれとは言わない。だが、償わせてくれるなら、俺にできることは何でもしよう」
 その目は嘘をついていなかった。
 少し考えてから、ティナは訊いてみることにした。
「…グレシアを愛しているの?」
「…………すまない。答えられない。女性として…素敵な方だとは思っている」
 あの時、グレシアとティナが話した時、彼女は言っていた。昔、愛した人に裏切られたと。
「…私はまだ愛という感情を知らない」
 たとえ愛を知っても、裏切られて泣く日が来るのだろうか。
「お前はまだ若い。……いずれわかるようになる。きっと……」
 レオのいなくなった甲板でティナのつぶやきが歌声に交じって消えて行く。

「でも……私は、今知りたい……」





 


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