novel

□Episode6(2)
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「だ…誰か…ティナと一緒に寝てあげてクポ…」
 朝。ティナにフカフカされすぎて腰が砕けてよろよろと食堂に現れたモグにセリスがにっこりと微笑んで言う。
「いいわよ。今日から私とティナが同室ね」
「え? いいの? ロックは?」
 目を点にしているティナに、セリスが力いっぱい言った。
「いいの。…あんな奴…」
「え? えええ?」
 セリスから立ち上る黒いオーラを遠目に眺めながら、グレシアが向かいに座ったロックに半眼になって呟いた。
「最低…と、言いたいところだけど。まぁ…男なんてそんなもんか」
 嗚呼…こういう時、無性にレオが恋しい。胸中呟いているグレシアに、むくれているロックが呟いた。
「なんでだよ…」
 ロックの右に座ったセッツァーが面白くなさそうに言った。
「おい、一緒にすんな、グレシア。俺はロックみたいな節操なしじゃねぇ」
「俺だって節操くらいあるってッ!! なんなんだよッ! 俺が悪いのかよッ?!」
 ロックの左に座ったマッシュがしみじみと呟く。
「悪いんじゃねぇか? 現に相手怒らしてんだから」
「いやいやいや、そりゃいくらなんでもあんまりだろッ?!」
 遠くを通りかかったエドガーにロックが叫ぶ。
「エドガーッ!! なんとかしてくれよッ!」
 ふっと笑ってリズミカルに舌を鳴らしながら人差し指を振って王は語った。
「…ロック。長い付き合いのお前なら、こういう時に私がレディとお前のどちらを取るか、わかるだろう?」
 ロックがしみじみと呟いた。
「…お前に助けを求めた俺が馬鹿だったよ」





 マランダの町でカイエンの情報を探しがてら、カフェのテラス席でセリスと二人で昼食をとる。
 グレシアが小さく呟いた。
「…やりすぎたかな?」
 今朝のロックの件である。
「いいのよ。たまにはみんなからあのくらい言われるのもいい薬よ」
 まだ怒っているらしいセリスに、グレシアが小さく訊く。
「それで? ロックは一人でどこに行ったんだ?」
「知るわけな…」
 そこまでセリスが言いかけた瞬間だった。
 町の主婦が遠巻きにセリスを見てコソコソと家に逃げ帰っていく。
 近くを通りかかった男が小さな声でぼそぼそと訊いてきた。
「な、なぁ…。アンタ…セリス将軍だろ? 帝国の…」
「………人違いだ。帰りな」
 セリスを庇う様に鋭い目で言ったグレシアに、更に男が言った。
「アンタ、知ってんのか…ッ?! この国を昔滅ぼしたのがいったい誰なのかッ! あんなに人が良かった国王もその家族も一族ごとみんな一人残らず皇帝に惨殺されたッ! 町も焼かれて、何人死んだか…ッ、うちの親だってなぁ…ッ」
「…………」
 セリスは無言でただ俯いて耐えていた。
 グレシアが立ち上がって朗々と言った。
「……知っている。だが、皇帝はもういない。私の兄が倒した。今は、皆が安心して暮らせるようケフカを倒すために準備を進めている。…ここにいる彼女も、同じだ」
「兄って…まさか。アンタ…」
 声を聞いて寄ってきた子供が叫ぶ。
「この前のお歌のお姉さんだーッ!」
 グレシアが家出旅をしていた頃、マランダにも立ち寄っていた。目の前にいた男が震える声で言った。
「あの…フィガロの……王女か…」
 しゃがんで子供の頭を撫でてやっていたグレシアが立ちあがって男に言った。
「あなたの言うことはもっともだ。…私も…皇帝から受けた仕打ちを忘れた日はない。だが、今はこの子たちの為に前を向いて歌っていたい。子供たちに…大人の恨みつらみを聞いて育って欲しくはない。この場は、退いてもらえないか?」
 しばらく俯いて黙っていた男が、苦い顔で言った。
「俺の…一年前死んだかみさんが…アンタのファンだった。拉致事件の話を聞いたときは…俺もかみさんと一緒に泣いたもんだ。…そのアンタがたった一年で立ち直ってこの前この町で歌ってるのを聴いた時は…どんだけ勇気づけられたか…。…わかったよ…。アンタの顔を立てるよ…。…その代わり、歌ってくれよ。これからも……」
 肩を落としてそれだけ言って去って行った男に胸中感謝しながら、足元でわぁわぁ言っている子供たちの相手を軽くして帰らせる。その間、ずっと俯いていたセリスに言った。
「一足先に、二人で飛空艇に戻ろう。カイエンは…エド兄達が見つけてくれるよ。きっと」
 セリスの背中を撫でながら、かがんでセリスの顔を覗き込むように見たグレシアに、いつの間にか泣いていたセリスが小さく頷いた。
 いつも兄たちにしてもらっているように、セリスの身体を抱いてそっと髪を撫でる。
「……グレシアの身体って…あったかい…」
 壊れそうな声で呟いたセリスに、グレシアが呟き返す。
「……誰でも同じだよ」
「…知らなかった…。誰かにこんな風に慰めてもらったこと…なかったから」
「…そうか」
 ぐっと腕に力をこめると、腕の中から軽い嗚咽が聞こえてきて、しばらく顔を見ずにずっと、セリスを抱いていた。





「それで、セリスは?」
 夜。飛空艇に戻ってきて心配そうに訊いたエドガーに、グレシアが答える。
「部屋でティナと二人で話してる。…今はもうだいぶ、落ち着いたみたいだ」
「…俺が迂闊だった。マランダを落としたのがセリスだったことは知っていたのに…」
 マランダにセリスを連れていくべきではなかった。
「それを言うならエド兄だけじゃない。…私だって」
「…ロックは?」
「…まだ戻ってきてないみたい」
 二人そろって小さく息をつく。こんな時に限っていったいどこをほっつき歩いているんだ…。
 デッキの方からマッシュとセッツァーが二人で戻ってきた。
「一応やっといたぜ? ホントにあんなんでうまくいくのかよ…」
 ぶつぶつ言っているセッツァーにマッシュが返す。
「仕方ねぇだろ? 飛空艇で延々鳩追っかけるわけにはいかねぇんだから」
「マッシュ兄、セッツァー。何の話?」
 鼻で笑ってセッツァーがグレシアの横に座って教えてくれた。
「それがな…昼にマッシュと二人でマランダのローラを訪ねたんだが、モブリズの彼氏から手紙が届いてるらしいんだ」
「…何…? それ…まさか…」
「ま、カイエンが彼氏のふりして書いてるんだろうな。んで、どっから送ってきてるのか居所を突き止めようってことになって……」
 しゅるしゅるしゅるしゅる…。箱からはみ出ている一本の糸がどんどんデッキの方へ吸い込まれていく。大量の糸が入った箱を見せてセッツァーが続けた。
「ローラからの返信の伝書鳩の足に糸をくくりつけて、ついでにカイエン宛の俺らの手紙も同封してみたってわけだ」
「なるほど…。仮に糸での追跡に失敗しても、その手紙を見てカイエンが連絡をくれるかもしれない」
 エドガーが苦笑した。
「鳩には少々可哀そうだが、仕方ない」
「徹夜で糸を追跡して舵取りする俺は可哀そうじゃねぇのか?」
 まだ文句を言い続けているセッツァーをなだめて、ロックがいないまま飛空艇を発進させる。
 グレシアがごくごく小さく、息をついた。





 翌日、徹夜で鳩を追い続けたセッツァーが部屋で眠っている中、一行はゾゾ山でハイキングを楽しんでいた。
「久しぶりの…ケーキがありますッ!!」
 どどん。山頂でお弁当を食べた後、飛空艇の厨房で焼いたケーキを取り出すグレシアに、拍手するティナとモグ。歓声を上げるウーマロ。
 セリスが水筒から紅茶をついで配ってくれて、他愛無い話をしながらビニールシートの上でお茶をしている五人をよそに、エドガーとマッシュが洞窟の中でカイエンと話していた。
「まさか拙者の書いた手紙を皆が読むとは思わなかったでござる…」
 エドガーが声高に笑う。
「はっはっは。なかなか個性的なラブレターだったよ」
「しかも造花までつけるなんてな。上手じゃねぇか、カイエン」
 笑顔のマッシュに言われてカイエンが照れながら言った。
「こ、これは…趣味の一つでござるよ」
「この読書も趣味の一つかな?」
 エドガーがパラパラとめくっている本の表紙には『これで機械おんちがなおる!!』と書かれている。
「こっちはマンガで書かれた機械の解説書か…。カイエン、頑張ってんだな…」
 パラパラと本をめくっているマッシュに苦笑してカイエンが言った。
「歳を理由にいつまでも苦手だと言ってはおれぬと…勉強を始めたものの、なかなか難しいでござるよ…」
「いいじゃねぇか。大事なのは精進しようって心意気だぜ。カイエン、俺にわかることならいつでも訊いてくれよ。兄貴ほどじゃねぇけど、俺も並みの奴よりは詳しいぜ」
「マッシュ殿…かたじけない」
 朗らかに笑っているカイエンに、別の本を見せながらエドガーが呟いた。
「ほう。では、機械の授業はマッシュに任せるとして…私はこちらの授業を担当しようか」
 ニヤり…とあくどく笑ってエドガーが見せた本には『ちょっとエッチな本』とタイトルが…。
 カイエンの叫び声が響く。
「そ…そそそ、それは見てはいけないでござるッ!!」
 気にせずに本をめくるエドガー。
「…ふむ。カイエンはなかなか偏った趣味のようだ」
「エドガー殿ッ!!! 返すでござるッ!!」
 エドガーとマッシュの楽しそうな笑い声がいつまでも洞窟に木霊していた。





 


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