novel
□Episode6(7)
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飛空艇から降りたエドガー達の目の前にある塔の前で、怪しげな集団が呪文を唱えながら行進を続けていた。
「えっと…。これって、信者の人たち…よね?」
目を点にしているセリスにティナが叫ぶ。
「あ、あそこッ!! ストラゴスさんがいるッ!!」
「ええ…ッ?!」
一行が凝視してみると、確かにストラゴスらしき人物がぶつぶつと経だか呪文だかよくわからないものを唱えながら行進にまじっていた。
慌ててロックとエドガーが近寄って声をかけるが全く反応がない。
「まさか…リルムが死んだと思ってるんじゃ…」
青い顔で呟いたセリスにリルムが苛立った顔で叫ぶ。
「もうッ!! しっかたないなぁ…ッ」
次の瞬間、全信者が固まるほどの大声でリルムは叫んだ。
「こらあッ!!! くそじじぃぃッ!!!!! しゃきっとせんかあッ!!!!!」
目が落ちそうなほど思いっきり見開いてストラゴスが硬直する。
「り…リルム……?」
周囲はエドガー達も含め全員が固まっていた。
「リルムッ!! い…いき…生きて…」
うるうると涙の溜まった目でリルムを見つめているストラゴスに、リルムが凛とした声で怒鳴った。
「ボーっと生きてんじゃねぇッ!!」
「ま、間違いない…リルム…リルムじゃ…ッ!」
どどどど、と音を立てて走ってくるストラゴス。
「リルムーーーーッ!! 生きておったかぁぁぁぁぁッ!!」
ガバッとリルムを抱きしめておいおいと泣くストラゴスに周囲の信者たちから何故か感動の拍手が巻き起こる。
リルムが優しい声で言った。
「バカね。おじいちゃん。元気だしてよ」
「お、おおお…わしゃ…わしゃてっきり…」
ぽろぽろと涙が地面に落ちる。
「おじいちゃんより先にいくわけないでしょッ?! この老いぼれッ!」
憎まれ口を叩いてふふっと可愛らしく笑うリルムに、ストラゴスが嬉しそうに叫んだ。
「相変わらず口の悪い子じゃ。……嬉しいゾイ」
熱い展開に巻き起こるもらい泣きと拍手の渦。
「またいっしょにいこうよ。みんなといっしょにッ!」
うおぉぉぉぉぉッ!! ストラゴスの熱い叫び声が響く。
「元気が出てきたゾイッ! よ〜し、わしもがんばるゾイーーーーーーッ!!!」
ぱちぱちぱちぱち。
誰かが叫んだ。
「そうだ…ッ! 俺達もこんなことしてる場合じゃないッ!!」
「そ…そうよ…ッ。ボーっと生きてたらあの子に怒られちゃうッ!!」
「帰ろうみんなッ!!」
おー。歓声を上げて方々に帰っていく人々。
あとに残されたエドガーが目を点にしたまま呟いた。
「…一件落着…なのかな?」
「リルムすげぇ…」
呟いているロック。しかし、ストラゴスが真剣な顔で言った。
「いや、教団を倒さねば解決とは言えんゾイ」
「ストラゴス。教団のトップは何者だ?」
唸りながらストラゴスがエドガーに答える。
「うー…む。おそらく人間ではない。この塔は暴力を禁止する教団の厳しい戒律によってありとあらゆる物理的な攻撃ができない結解に守られておる。このようなことが一介の人の身にできるとは思えんゾイ」
「ふむ…」
考え込んでいるエドガーにロックが言った。
「エドガー。ここはセリス達に任せようぜ。攻撃手段が魔法しかねぇってんじゃ俺たちの出る幕じゃねぇ」
「そう…だな」
少し申し訳なさそうにしているエドガーにティナが優しく笑った。
「それに、エドガーさんはまだ休んでた方がいいと思う」
「そうそう。帰ったらまたグレシアの分まで働くんでしょ? 今のうちに休んでた方がいいわ」
セリスの言い様に笑いながらロックが後を続ける。
「ま、帰ったらグレシアの件は俺たちに任せて心置きなく働いていいぜ、王様」
「……お前ら…」
いつの間にか…仲間みんなが優しかった。
人前では見せることのなかった砕けた顔で微笑んでエドガーが礼を言う。家族だけでなく、仲間全員とこうして再会できて、本当に…幸せで。
セリスとティナに着いて行く気満々のリルムとストラゴスにも礼を言って、ロックと二人で飛空艇の中に戻る。
飛空艇の中から様子を見ていたシャドウとセッツァーが二人で肩をすくめていた。
小屋で一人、夕食の支度をしていたカイエンの背後から小さな声がする。
「…良い匂い」
「グレシア殿か。修行の調子はどうでござる?」
朗らかに笑って振り向いたカイエンが硬直する。
「……どうだろ…。ごめん…少し…疲れた…」
壁に寄りかかって呟いたグレシアは、今まで見たことがないほど、ぐったりしていた。
「まさか、今朝から何も食べずにずっと修行していたでござる?」
壁に背を預けたままずるずるとその場に座り込んでグレシアが天井を見上げる。
「………」
見かねたように、昼食の残り物をカイエンが差し出すと、グレシアが小さな声で呟いた。
「ごめん…いらない…」
ほんの少し笑ってカイエンが言う。
「以前と…立場が逆転したでござるな」
一瞬目を丸くしてから、グレシアの口からふふっと乾いた笑いがこぼれる。
「懐かしい…」
「拙者でよければ、話くらいは聞くでござるよ」
「……ありがとう」
小屋から離れた森の中、ダンカンとマッシュの叫び声が響く。
ガウの見守る中、ダンカンの気持ちのいい叫び声が響いた。
「そこまでじゃッ!!」
ピタっと静止して軽く息を荒げているマッシュが姿勢を正す。ダンカンが続けた。
「よくこの短期間でここまで体得した。マッシュよ、あと一息じゃ。これが最後の…ゴホッゴホッ」
「おっしょうさまッ?!」
しかし、心配しているマッシュを静止してダンカンは続けた。
「し…心配いらん。お前は自分のことに集中せい。いいか、マッシュよ。今までわしの全てをお前に教えてきた。これがわしがお前に教えるべきことの最後…最終奥義じゃッ!!」
言い放ってダンカンがマッシュの目の前で最終奥義を打つ。
「こ…これが…」
「これが最終奥義ッ! 名付けて…夢幻闘舞じゃッ!!!」
「が、がううぅぅッ!?」
ガウが目を丸くする中、無数のダンカンがあたりを舞う。
ぼろぼろと泣きながら笑っているグレシアの肩を抱きながら、カイエンが静かに言った。
「……そうか。噂には聞いておったが…かように辛い目にあっておったとは…」
カイエンは、落ち着いた表情をしていた。
「なんだか……父さんに慰めてもらってるみたい…」
カイエンが朗らかに笑う。
「まさか拙者にこんな立派な娘ができるとは思わなかったでござる。いやはや、なかなか嬉しいものでござるな」
「…カイエン」
「ん?」
「ごはん…食べてもいい?」
朗らかに笑う声が、夕焼けに響いていた。
カイエンとグレシアが二人で縁側に並んで瞑想していた。
カイエンに教えてもらった瞑想の仕方はドマの侍由来の独特のものだったが、今のグレシアの心に沁みるように染まっていった。
「心頭滅却すれば火もまた涼しでござる」
「不思議だな」
「…………」
「今まで辛いことは人に話しちゃいけないと思ってた。相手が悲しい気持ちになるからって…父が言ってた。でも、兄貴達に話して…カイエンに話して。…口にすればするほど、心が落ち着いていく気がする。…今なら、本当に心頭滅却できそうだ」
「心が…決まったようでござるな」
目を開けて、綺麗に微笑んでグレシアがカイエンに礼を言おうとした瞬間だった。
玄関が乱暴に開いて、マッシュ達が騒々しく戻ってきた。
「どうしたの?」
ダンカンを寝かせてから、心配そうに見守っているマッシュに小声で訊く。
「…病気?」
「わからん。医者に診せたいところだが…おっしょうさまのことだから病は気合いで治すとか言い出しかねねぇ」
「そんなこと言ってる場合か…ッ?!」
本気で心配しているグレシアに軽く笑ってマッシュが言った。
「…そうだな。ま、明日も具合が良くならないようだったら力づくでも医者にみせるか…。…なかなか厄介そうだが」
「う…うん…。でも、なんで突然…今朝まで元気そうだったのに…」
すると、マッシュが気まずそうに語りだした。
「…実はな」
マッシュの短い説明が終わってグレシアが小声で叫ぶ。
「全力で手合わせした…ッ?! 師匠とッ?!」
「ああ。奥義継承の最終試練としてな。だが…その最中で突然おっしょうさまが…」
しばらく黙っていたグレシアが何か言いかけた瞬間だった。
「…マッシュ」
「おっしょうさまッ!!」
「ゴホ…ッ、す、すまぬ…あと一歩のところで…」
「いえ、残りは自力で修行しますッ! おっしょうさまはどうか安静に…」
「マッシュよ。案じずともよい。こんなこともあろうかと、わしのかわりを呼んである」
「え…? おっしょうさまの…かわり…ですか?」
思わずグレシアと顔を見合わせるマッシュ。ダンカンは続けた。
「さよう。明日、わしを倒す代わりにその者を倒すのじゃ。さすれば奥義の会得も…ゴホッ」
「…おっしょうさま。その方は…何者なのですか? おっしょうさまがそれほどまでに信頼するほどの使い手がこの世界にいると…?」
しかし、ダンカンはマッシュの質問には答えなかった。代わりに一言。
「明日になればわかる」
それだけだった。