novel

□Episode7(7)
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「…にしても、まさか三人でケフカと戦う羽目になるとは思わなかったぜ」
 荒れ果てた塔の最上階を目指しながら呆れたような口調で呟いているセッツァーに、エドガーが真面目な顔のまま返した。
「言わば俺たちは囮だからな。三闘神を倒した後で他のメンバーも来てくれることにはなっているが…それまでは、ケフカにはこのメンバーがすべてだと思わせる必要がある」
「三人でこの塔に乗り込んだって思わせるのね」
 意気込んでいるティナに、セッツァーがため息交じりに言った。
「人生最大の大博打だな。ったく、どこのどいつだよ、ラスボスに三人で挑もうなんて考える大馬鹿野郎は」
 その言い草にほんの少し笑って、エドガーが呟いた。
「すまん」
 ハッと鼻で思いっきり笑い飛ばしてセッツァーが叫んだ。
「ここまできて何言ってやがる。とんだ貧乏くじだが…分の悪い賭けは嫌いじゃねぇ。とことんまで付き合ってやるぜッ!」
 セッツァーに同意するようにティナが思いっきり頷いた時だった。
 乾いた風が吹く曇天の塔に響き渡る耳障りな笑い声。忘れもしない…あの、笑い声。
「ようこそ諸君。ひょひょひょッ!! これは愉快ッ!! たった三人で神に挑むおつもりですか?」
「ケフカ……ッ!!」
 身構えて叫んだティナの横でエドガーが朗々と言い放った。
「貴様の破壊をこれ以上見過ごすことはできん。たとえ三人だろうと…」
「ひょひょひょひょひょッ!! 皆さんが必ず来ると思って相応しい言葉を一生懸命考えていたというのに、これでは盛り上がりに欠けますね」
「そのまま一人で盛り下がってろよ、道化野郎ッ! どのみちテメェは独りよがりなだけのピエロだッ!」
 セッツァーの放ったダーツを軽くテレポートでかわしてケフカがゆっくりと語り始める。
「私は最高の力を手に入れた…。この素晴らしい力…お前らなど、問題にならないッ!!」
 ケフカが詠唱を始めると同時にエドガーとティナが剣を抜いた。





「我まどろみの時は終わった…」
 悠々と響く鬼神の声。
「我が与えるは『勝利』の祝福…」
 構えながらマッシュが背後のロックとセリスに呟く。
「魔封剣の方は頼んだぜ」
 セリスが頷いてロックが小さく叫ぶ。
「任せとけよ。魔封剣を掲げている間、セリスは俺が守る」
 そしてその間に、他のメンバーで鬼神と戦う。
 圧倒的な威圧と共に、鬼神の叫び声が響き渡った。
「我は鬼神ズルワーン。全ての神々の頂点に立つ者にして…貴様らを奢る者なり…ッ!!!」
「鬼の神か…。相手にとって不足はねぇッ!! 行くぜッ!!」
 マッシュに続くように騎士たちが剣を抜いてかけていく。





 同刻、既に魔神との戦いが始まってかなりの時間が経っていたセフィロト組がかなりの苦戦を強いられていた。
「ええい…よもや魔神がこれほど頑丈とは思わなかったでござる…ッ」
 そもそも物理防御力はそこまで高くなかったはずなのだが…巨大な体を持つ魔神はただ純粋にタフだった。
「い、いかん…フォースフィールドがもうもたんゾイッ!」
「この歳で魔力を使いっぱなしはこたえるゾイ…」
 …もはや戦っているメンツには聞こえてくる声のどちらがストラゴスでどちらがゴゴなのかわからない。
「が、頑張れクポッ!!」
 必死に踊りながらモグがストラゴスを振り返った瞬間だった。
 魔神の巨大な腕がモグにヒットする。
 ぺちーん。と、巨大な平手打ちを小さな全身で受けてしまい、コミカルな音を立てて吹っ飛んでいくモグ。
「モグッ!! しっかり、しろッ!!」
 慌ててガウが助けに行こうとするが、魔神に阻まれてなかなか助けに行くことすらできない。回復魔法もここからでは届きそうになかった。
 モグはぐったりと白い塊になって地面に横たわったままピクリとも動かない。
「…これは…まずいゾイ」
「う…うむ。なんとかせんとこのままでは勝てんゾイ」





「無知なる者たちよ…。叡智の前にひれ伏しなさい」
 嘘のような光景だった。
 巨大な顔の上に乗った女神が美しい声を張り上げる。
「我が娘よ、叡智を伝えるのです…ッ!」
 女神が娘と呼んだ巨大な顔から放たれるビームが空間ごと大量の人をのみ込み、焼き尽くしていく。先陣を切って突入した騎士たちはほぼ壊滅していた。圧倒的とはこのこと。まさかこれほどの破壊力があるとは。元々威力調査時の情報が少ないことは承知の上だったが…。
「……ッ! 散開ッ!」
 慌てて散るも、読んでいたかのように女神の無慈悲な声が響く。
「無知の罪は、あまりにも重い…。死しても呪いは消えぬのです」
 女神の歌に今度はゾンビ化した騎士たちがそこら中で同士討ちを始めた。
 たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化した戦場で逃げ回っていたリルムがハッと顔を上げるとゾンビ化した騎士の一人が斬りかかってきていた。
 ばっとリルムが反射的に顔を覆いそうになった時だった。騎士の背後から思いっきり聖水をぶっかけてグレシアが叫ぶ。
「リルムッ!! 歌うから援護を頼む…ッ」
「……ッ!! わかったッ! まっかせといてッ!」
 聖水で正気に返った騎士が襲ってくる別の騎士に更に聖水をまく。ゾンビ化の情報が事前に手に入っていたのがせめてもの救いだ。聖水だけは大量に用意してある。
 グレシアの歌声が響く。それはもはや通常の吟遊詩人を超え、あらゆる苦痛を超越した先にある悟りの境地。クリアマインド。神の歌すら凌駕する歌声が、荒れ果てた塔に響き渡る。
 ゾンビ化するものがいなくなり、聖水によって全員が正気に返る。娘の巨大なビームも一度見てしまえば対応できる。
 体勢を立て直して攻撃してくる騎士たちに、女神は美しい顔で邪悪に微笑んだ。
「我が命により降りし星々によって、死の重みを知りなさい…!」
 瞬間、割れた空から現れた大量の隕石が降り注ぐ。
「…………ッ!!」





 とっさにリルムを庇ったことだけは覚えていたが。グレシアがゆっくりと顔を上げると、シャドウが自分とリルムを庇うように上にかぶさって倒れていた。慌てて体を起こし、状況を確認する。
「……ぁ…」
 それは…いつぞやに見た光景だった。
 割れた地面と大量の瓦礫と…そして、騎士たちの遺体。
「……あ…ぁ…ッ」
 サマサの村が崩壊するときに焼き付いた光景がフラッシュバックしかかっているグレシアにシャドウが怒鳴る。
「落ち着けッ!! ここはまだ戦場だッ!!」
 思わずハッと我に返ったグレシアを無視してリルムに回復魔法をかけるシャドウ。
 シャドウに礼を言うか迷ったが、すぐにグレシアは立ち上がって走った。ここは、しなければならないことをなすのが一番の礼だ。
「……ッ!」
 倒れていたアシュレーにとどめを刺そうとしていた女神に素早く何本も矢を射って止める。
 対峙したグレシアに、女神は微笑んでいた。
「まだ息があります…ッ!」
 女神から目を離さないグレシアに声が飛んでくる。…ギャレットだった。
 アシュレーの容態を確認しているらしい彼の方を見ずに訊く。
「蘇生できるか?」
「少しでも息があるなら…必ず助けますッ」
「…頼む」
 治癒魔法のエキスパートが言うのだから、本当に頼もしい限りだ。
 グレシアは安心して女神に集中できる。
 そっと呼吸を整えて、再び意識をクリアマインドの境地まで一気に高める。
 しかしその瞬間、女神がまっすぐにグレシアの目を見て言った。

「貴女の魂を量りましょう…」





「う…そ…だろ…」
 鬼神の槍に貫かれたロックが喉の奥から鉄の味のする深紅の塊を吐いて、どさっと地面に倒れる。生暖かい液体が傾斜になった地面を細く下へ下へと流れていった。
「ロック…ッ!!!」
 セリスの悲痛な叫び声が響き渡る。
「………ッ!!」
 マッシュや他の人間が何か言う前に彼女は剣を下ろしてロックに必死に蘇生魔法をかけていた。うわ言のようなロックのかすれた声が喉の奥から洩れる。
「………セリ…ス…剣を…俺はいい…。自分で…な…とか………」
「喋らないでッ!!!」
 泣きだしそうだった。既に内臓はぐちゃぐちゃで…即死しなかったのが奇跡に思えるほど、傷は深かった。
 地面を揺るがすような鬼神の低い声が不気味にこだまする。
「我が怒りは、炎となって燃え上がり……」
「まっずいな……魔封剣なしだと…」
 戦いながらマッシュが顔をしかめる。
「我が嘆きは、氷となって凍り付き……」
「くっそ…ッ!!」
 マッシュの夢幻闘舞の直撃を受けてさえ、鬼神の詠唱は止まらない。
「すべてを超越するッ! 解放しようぞ、我が力ッ! この者たちに、死の運命を……ッ! 南天よ輝け、サザンクロスッ!」
 鬼神と戦い続けていたマッシュや騎士たちも、倒れているロックを必死に助けているセリスも…そこにいたすべての人々に赤い光が天上から降り注ぐ。





 地面にどさっと転がったセッツァーの眼前にパラパラとカードが落ちる。
「…く……ッ!」
 必死に腕を伸ばすがもはや身体が言うことを聞かない。
「セッツァーッ!!」
 叫ぶティナだが、彼女もケフカの攻撃から身を守るので精いっぱいだ。
 ちなみに、向こうでドリルと共に転がっているエドガーは既に意識がない。
 ケフカがくつくつと喉の奥からこみあげてくる笑いを漏らしながら、やがてその顔を狂気に歪ませて全身で高らかに声を上げて笑いだした。
 そのあまりの狂いように気おされて、蛇に睨まれた蛙のように一瞬にして全身を凍りつかせたティナの目を妖艶な細い目で見つめて、狂神は言った。


「みんな壊れてしまえ。全てはいずれ壊れゆく」



 


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