novel

□Episode2(9)
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 雪が降り積もる山に、帝国兵の軍靴が雪を踏む音だけが大量にこだまする。
 静かな緊張感が続いた後、やがて何人かの帝国兵から悲鳴が上がった。
「…トラップかッ!!」
 次々と足を取られていく兵隊たち。しかし、トラップにかかった仲間には目もくれずにトラップを免れた兵たちが先へと進もうとする。
 その瞬間だった。
「……ッ!」
 何人かの兵が悲鳴も上げずにバタバタと倒れていく。慌てて確認すると、彼らの身体には矢が刺さっていた。
「待ち伏せか…ッ!! 散れッ! どこかに身を隠せッ!!」
 隊長クラスの兵が叫ぶ声を聞く間にも、次々と飛んできた矢によって兵が倒れていく。
 はるか遠くの高い丘から弓を持ったグレシアが呟いた。
「…隠れたか。まぁ、その方が都合がいい」
 隣にいたエドガーが連射して少し熱くなっているオートボウガンに矢を補充しながら頷いた。
「慎重に進んでくれた方がこちらは時間が稼げるからな」
 他の道はないのかと叫んでいる隊長に苦い顔で兵隊が返す。地図にある他の道は…すべて厚い氷で閉ざされていた。
 エドガーの背後からティナが出てきて小さく訊いた。
「本当にブリザドでよかったの? 雪山なのに氷の壁って…。ファイアとかで雪道を崩すのかと思ったけど…」
 軽く笑ってからエドガーが言った。
「そうだな。私としては雪崩にあって君と二人で雪の中で温め合ってビバークするのも悪くはないが…」
 ロックがわざわざティナとエドガーの間に入ってから、ティナに言った。
「この気温だからな。氷の壁は固くてまず溶けない。でも雪を崩したり振動を発生させると俺たちも雪崩に巻き込まれる危険性があるんだ」
「そっか…」
 ティナの画面内にエドガーを入れないように自分の身体で隠しながらアップで説明しているロック。
 三人にグレシアが静かに言った。
「動いた。どうやら連中、腹をくくったみたいだ。強行突破してくる」
 言いながらもすごいスピードでどんどん矢を射るグレシアの横で、エドガーも射撃を再開していた。
「この下まで突破されたらいったん次のラインまで下がるぞ…ッ!」
 エドガーの言葉に頷いて、ロックが言った。
「そろそろ俺の武器も射程だな。ティナも魔法の射程に入ったら頼む」
 いくつかの防衛ラインを設定してあるとはいえ、この短い道のりでそう何度も後ろには下がれない。どんどん後ろに追い詰められていけば最後に待っているのは氷づけの幻獣と断崖絶壁だ。緊張した顔でティナがロックに頷いて詠唱を開始する。





 雪の降る山の中、静かな場所でケフカがいらいらしながら叫んだ。
「えーーーい、寒いッ!! こんな場所でこの私を長々と待たせおって…兵はいったい何をモタモタしている。…ほれ、肩の雪ッ!!」
 ケフカの怒鳴り声と共に、フィガロで靴の砂を払っていた兵が今度はケフカの服についた雪を払ってやりながら言った。
「報告兵によると、どうやら敵の待ち伏せにあったようです。トラップも仕掛けられていたとか」
 楽しそうに高笑いしてケフカは言った。
「無駄なあがきを…。そんなチンケな時間稼ぎで本気で軍隊を止められると思っているのか? これは愉快…」
 再び楽しそうに高笑いしていたケフカの耳に低い声が入ってくる。
「…なんで時間稼ぎしてるのかって? それはなぁ…」
「……ッ!?」
 慌てて周りを確認しようとしたケフカの後頭部に思いっきり蹴りが入った。
「てめぇをぶっ飛ばすためだッ!!」
 マッシュに蹴り飛ばされて飛んで行ったケフカが柔らかい雪の中にぼふっと頭から埋まる。ケフカが慌てて雪の中から顔を出して顔の雪を払って周囲を確認した時には、自分と一緒にいた兵はすべて雪の上に倒れていた。
「な……な…」
 ケフカが体勢を整えて見ると、刀を構えた侍が鋭い眼光で言い放った。
「我が妻と子の仇……覚悟されいッ!!!」
「フン。誰かと思えばドマの落ち武者に筋肉だるまにガキに…ほー……裏切り者のセリス将軍もおいでですか……ちょうどいい。まとめて始末してあげましょうッ!!」
 高らかに詠唱を始めたケフカが自信たっぷりに魔法を放つ。………放ったつもりになっただけだった。
「な…なにぃ…ッ?!」
 自分の手を見つめて驚いているケフカにセリスが堂々と言った。
「忘れたか…? この魔封剣の威力をッ!!」
「し…ししし…しまったぁぁーーー」
 瞬間、ガウに足を噛まれてケフカが叫ぶ。
「いったーーーいッ!! ちょ…ちょっと待て…ッ!! 話せばわかるッ!! はなせば…ッ」
 マッシュが低い声で言い放った。
「…フェアじゃなくて悪ぃな。だが、俺にとっても帝国は親父の仇なんでな」
 こぶしを鳴らしながら言ってくるマッシュの横で、カイエンの構えた刀が光る。
「ひ……ッ!!」
 ケフカの悲鳴が雪山に響き渡った。

「シンジラレナーイッ!!!」



  
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