novel

□Episode3(1)
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 また帰ってこられた。砂の城。…我が家に。
「なっつかしいなッ! 俺ちょっと城ん中見て回ってくるぜッ」
 子供のような顔で言い放って楽しそうに城の中に消えていったマッシュを見送って、エドガーがグレシアに言った。
「久しぶりの家だ。お前もゆっくりしてこい。みんなは俺が案内する」
 城を通常航行で潜航させるため、城内の人々に渡航予定を公開して、今夜は城で一泊してから明日以降城を動かすことになった。
 渡航先のコーリンゲンまでは数日かかる為、それなりに準備も必要となるためだ。
「なら、私は地下で整備の手伝いを…」
 言いかけたグレシアに苦笑してロックが言った。
「休んどけよ。お前、ドマに行ってから戦いっぱなしだろ?」
「休めって言われてもなぁ…」
 昼間から寝るわけにもいかない。苦笑しているグレシアにカイエンが軽く訊いた。
「そういえば今まで聞いたことがなかったでござるな…。グレシア殿の趣味はなんでござる?」
 あまり自分のことを話さなかったグレシアについて聞くチャンスだと思ったのか、期待のこもった目でこちらを見ているカイエンにグレシアが答える前に、フッと笑ってセリスが言った。
「大体想像できる。大方、機械いじりか戦闘用の歌作りだろう?」
 横に立っているロックとエドガーの肩が既に小刻みに震えているのがわかる。必死に笑いをこらえている二人を軽く睨んでからグレシアが言いづらそうに口を開いた。
「ああ。それもだけど…実は…」




 食後にテーブルにたくさん並んだ綺麗なケーキに絶句するセリスとカイエン。
「お前…こんな少女趣味だったとは…わからん奴だ」
 もっとも趣味に関してはセリスも同様だが。…やはり似ているのかもしれない。
「ほ、本当に全部グレシア殿が作ったでござる?」
 作ったでござるよと胸中呟いているグレシアの横で、ロックとガウが既に食べ始めていた。
「まぁ、甘いものが苦手でなければ食べて。たくさん焼いたから」
 今まで共に戦っていたグレシアからは想像できないほど穏やかな顔で笑っていた。おそらく、こちらが本来の顔なのだろう。
 つられるように柔らかく笑って礼を言ってからセリスが好きなケーキをとりわけ始める。エドガーが朗々と言った。
「俺の分はともかく、マッシュの分は置いておいてやってくれよ。あいつも久しぶりに食べたいだろう」
「そういえばマッシュ兄は? まだ顔出し中?」
「城のみんなと会うのも久しぶりだからな。大方誰かと話し込んでるんだろう」
 元々マッシュは人柄のせいか城中の人から好かれていた。友達と呼べる間柄の人間も多かったから、忙しいのだろう。





 みんなとケーキを食べながらたわいない話をして、久しぶりの自室に戻る。
 しばらくして、ノックの音がした。
「…来てくれてありがとう」
 ドアを開けて礼を言ったグレシアに、ロックが苦笑した。
「さっきのケーキ、いつもの呼び出し用の皿だったからな。…仕事か?」
 部屋のドアを閉めてから真剣な顔になって小声で話すロックに、グレシアが同じく小声で返す。
「…ごめん。今日は、私用」
「私用…ッ?! おま…ちょっ、ちょっと待て…俺はお前とはそんなつもりじゃ…」
 真っ赤になって慌てているロックに呆れた顔で固まるグレシア。
「いや、違うから」
 ほっとしたような顔で呼吸を整えながらロックは言った。
「ああ。ホッとした。貴重な親友をなくすことになるのかと思ったぜ」
 その言い草に苦笑してグレシアが言う。
「その点に関しては私もまったくの同感だから多分大丈夫だ。…だから、親友として頼みたいことがある」
 再度小声になってロックが訊く。
「…なんだよ。改まって」
「昔、私が話した特異点の話、覚えてる?」
「ああ。…お前が暗殺されかけた時の話か。もちろん覚えてる。お前が寝てる間、別の世界で特異点になってたって話だろ?」
 ほんの少し苦笑してグレシアは言った。
「…あの話信じてくれたのロックだけだったよな。エド兄でさえ笑ってたのに…」
「そりゃなぁ…。ていうか、俺はどっちかっていうと信じたかったって類だよ。…レイチェルのこと、考えたらさ」
 正直、グレシアがロックを気遣って話してくれた作り話かもしれないと思ったことはあった。だが、それならなおのこと自分が信じてやらなければグレシアに申し訳ないと思えたのも事実。
「だから、今回も一番初めにロックに話す。ただし、エド兄とマッシュ兄には私の口から話したいから、絶対に他言はしないで」
「わかった。聞くよ」
 真剣な顔で頷いてくれたロックに今までのことを話す。彼は、驚かなかったようだった。
「…道理でドマでお前が生きてたわけだ。つまり、その…俺には見えないっていう…石か? そいつがあればお前は向こうの世界に行けるわけか…」
 笑うどころか疑うそぶりすらなかったロックに胸中感謝しながらグレシアが小声で続けた。
「今のところ、死ぬ危険性があるときに限られるけどな。あとは…魔列車に乗るか…。それにしても、すぐに信じてくれて助かったよ。やっぱりロックに話して良かった」
 安心したような顔をしているグレシアに苦笑してロックが返す。
「誰にも話した覚えがねぇのに、俺がサウスフィガロで何してたか次々言い当てられたらそりゃ信じるって。説明つかねぇだろ」
 なるほど。胸中納得して笑っているグレシアにロックが真面目な顔に戻って訊いた。
「それで、頼みってのは?」
 小さく頷いてからグレシアが説明しだした。
「一つ、試してみたいことがある。この城の地下に、こいつを拾った隠し部屋があるんだけど、明日一人でそこに行ってみようと思う」
「そうすっと…何が起きる?」
「…わからない。何も起きないかもしれない。何も起きなければそのまま拾った場所に石を戻そうと思う。でももしかすると…」
「石が反応してそのまま向こうの世界に飛ばされるかもしれない」
 小声のまま鋭い目で言ったロックに頷いて、グレシアが静かに続けた。
「潜航後、コーリンゲンに着くまではしばらく私がいなくても特に問題はないと思うから、誰かが困ることはないと思うけど…」
「…潜航した状態の城から消えたら確実に騒ぎになるぜ?」
「だと思う。だからロックに…」
「ちょっと待てよ、どうごまかせってんだよッ?! 手品の練習中とでも言えってのか?」
 軽く笑ってからグレシアが言った。
「それもいいかもな。てのは冗談で、騒ぎにならないように、できるだけ明日中に戻ってくるつもり。でももし万が一戻れなかったら…その時は…」
「…その時は、みんなに話すぜ」
 軽く睨むような眼でグレシアを見つめているロックの方を見ずに、俯いてグレシアは言った。
「わかってる。でもそれまでは…」
「ああ。黙っててやるよ。エドガーにもな。でもお前、向こうの世界に行ってどうすんだ?」
 少し心配そうな、優しい目で訊いてくれたロックに微笑んで、グレシアは自分の考えを語りだした。


 
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