novel

□Episode3(4)
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 コーリンゲン付近の砂漠に浮上したフィガロ城で、ティナの情報を集めるメンバーと、城に残って救出準備を進めるメンバーに別れる。
 潜航前にエドガーがナルシェの幻獣防衛の為に送った機械師団、三個中隊からの鳩が届いて、今のところ特に帝国軍にも動きがないことを知る。
 更に、ロックやグレシアをはじめ、エドガーが派遣したフィガロの諜報部隊によって、ティナの居所は割とすぐに判明した。
「…うーむ…。噂には聞いておったが、恐ろしいほど見事な手際でござるな」
 唸っているカイエンにセリスが苦笑する。
「こう見えてフィガロは世界でも有数の軍事国家だ。だからこそ帝国でもフィガロ攻略はずっと後回しにされてきた。私も今までフィガロが他国を侵略する気を起こさなかったのが不思議で仕方なかったが…」
 ふとセリスの視線の先をカイエンが追いかけると、エドガーとマッシュが、城に戻ってきたロックやグレシアと楽しそうに笑いながら何やら話しているのが見えた。
「…今はむしろ納得している」
「…で、ござるな」
 手に入った情報を元に七人でゾゾの町に向かうことが決定して、城を後にする。
 エドガーがホイホイと出て行くのを誰も咎めないことをカイエンが驚いていると、神官長がしみじみといった。
「…もう、諦めました」
「苦労しておられるのでござるな…。そのお気持ち…拙者にもわかりますぞ…ッ」
 声高に三兄妹の笑い声が上がって、マッシュが楽しそうに言う。
「大丈夫だって、ばあや。兄貴は俺がしっかり守っとくから」
 説得力がありすぎるマッシュの言葉に神官長が泣きそうになりながら答える。
「ああ…マッシュ。こんなに立派になって…。でも忘れてるみたいだけどあなたも王弟殿下なのよ…?」
「あ。そっか。すっかり忘れてたぜッ!」
 天然モード発動中のマッシュに、お腹を抱えて笑っているグレシアと、片手で顔を覆って絶句しているエドガー。
 セリスがしみじみとつぶやいた。
「…神官長の為にも、あの三人はここに置いていった方がいいような気が…」
 ロックが悟りを開いた顔で返す。
「やめとけ。すぐ追いついてきてその後何を言われるか…」
「どこの国でも、王族の方々のやんちゃには困ったものでござるな…」
「がう…ござるこまった…」





 ゾゾの町は酷いありさまだった。
「ここの住人はいったいどうなってるでござるッ?!」
 怒りを通り越して混乱しきったカイエンが叫ぶ。隣でグレシアが淡々と言った。
「…嘘をついているというよりは、必ず真実と反対のことを言ってるだけみたいだ。なら、イエスかノーでしか答えられない質問をすれば正しい回答が得られる」
「な、なるほどでござる…」
 情報収集を済ませて合流予定のパブへ行くと、カウンターに座ったエドガーが町の女性と話をしていた。
「おや、どうやら時間のようだ。もっと君と話をしていたかったが…残念だ」
「ば…ばっかじゃないのッ?! 私はあんたと話してたって楽しくもなんともないんだからッ!!」
「ふ…恥ずかしがる君も可愛いな」
「ふざけたこと言ってんじゃないわよッ! あんたってほんっとサイッテーッ!」
「はっはっは。それは最高の賛辞と受け取っていいのかな?」
「よくないに決まってんでしょッ?! もう二度と来ないでよねッ!」
「…美しいレディに罵られるのもなかなかに悪くないな。これは新しい発見だ」
 喉の奥でくつくつと笑っているエドガーの横に座ってグレシアが呟いた。
「……エド兄のばーかあーほ…」
「おっと何やら隣からも嘘つきの声がするようだ」
 腕を絡めてぐいぐいと笑顔でグレシアの首を絞めるふりをしているエドガーに笑いながらグレシアが返す。
「やめてやめてッ」
「そんなに嬉しいか? よし、もっと絞めてやろう」
「違うってッ!」
 楽しそうにじゃれている兄妹にパブの入り口から呆れた声が飛んできた。
「…何やってんだ、お前ら」
 呆れているロックの隣でセリスが珍しく微笑んで言った。
「楽しそうだな。グレシア」
「楽しくない」
 思わず真顔で呟いたグレシアに、エドガーが笑いながら腕を離して言った。
「…つまり、楽しくて仕方がない、と」
 グレシア以外の全員の笑い声が上がる。
 マッシュとガウが戻ってくるのを待って全員の情報を一つにまとめて、ティナの居場所が確定したところで全員でビルを登った。





 最上階付近まで近づいたとき、それは聞こえてきた。
「ウ……クゥルルル……」
「ティナ…?」
 反応したのはロックだった。
 最上階の部屋に入って、真っ先に目に飛び込んできたのは部屋の中央に位置する、元は豪奢だったと思わしき古びたベッドに横たわる異形の姿と、その横にたたずむ老人。
「怯えているのじゃよ」
 老人は続けた。
「命には別状はない。普段使い慣れない力を一気に使ったために体が言うことをきかないだけだ」
「…あなたは?」
 代表するように訊いてきたエドガーを一瞥してから、老人は名乗った。
「私はラムウじゃ。幻獣ラムウ」
「幻獣…ッ?! 幻獣は別の世界の生き物ではなかったのか?」
 面食らっている一同に、ラムウと名乗った老人は笑いながら子供にきかせるように様々な話を語った。
 魔大戦以前、幻獣はこの世界で普通に暮らしていたこと。魔大戦後に幻獣界に移り住んだものの、二十年前にガストラ皇帝によって侵略され、今でも多くの仲間が帝国の魔導研究所に捕まり魔導の力を取り出されていること。
「まさか…ティナも幻獣なのか…?」
 ロックの言葉にラムウが首を横に振る。
「いや、我々とはどこか違う…。自分の存在に不安を抱き出している。苦しんでいるのもそのせいじゃ。この娘が自分の正体をはっきりと悟った時、不安は消えるだろう」
 グレシアが静かに訊いた。
「…セリス。ティナは…」
「………。私も、生まれながらに魔導の力を持つ娘としか聞いていない…。私のような孤児か、あるいは皇帝がどこかから……」
 あえてその続きを語らなかったセリスを見てから、ロックがラムウに訊いた。
「どうすればティナを助けることができる?」
「ガストラの魔導研究所に捕らえられているわしの仲間ならティナを救えるかもしれない」
 全員の視線が、ゆっくりとティナに集まる。
 次の行く先が、決まったようだった。




 
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