novel

□Episode3(7)
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 ゾゾに戻ってティナを起こして、話を聞く。
「私は幻獣と人間の間に生まれた……この力も……そのために…。でも、もう大丈夫。少しの時間だけど力をコントロールすることができる…」
 魔導研究所で手に入れた魔石の中にティナの父親がいたらしい。おかげでティナの記憶も戻ったが…。それを聞いて辛そうな顔で俯いてしまったグレシアの背後で、エドガーが言った。
「…ガストラはその時に幻獣の秘密を知ったんだ。帝国がここ二十年ほどの間に急激に力をつけたのもそのせいだ。…魔導の力を自国の兵に…ッ」
「魔導研究所で捕らえられていた幻獣はその時にさらっていった幻獣か。セリスの力も幻獣が犠牲に…」
 グレシアが静かに言った。
「魔導研究所の設備を見た限り、帝国の戦力は予想以上だ。おそらく諜報部が調べた情報をかなり上回る数の魔導兵と魔導アーマーを抱えている。リターナーの戦力とフィガロとナルシェの兵力を全て集めても、まともに戦争したら…今は勝てない」
「…その件で、ナルシェから連絡が入っている」
 全員の視線を集めてから、エドガーは続けた。
「バナン様が言うには、幻獣界の力を借りられないかということらしい。基本的に幻獣は争いを好まないと聞いているし人間界には関わりたくないだろうが、今回は、互いの敵が一致しているからな。説得に応じてくれる可能性は高い」
「じゃあ…幻獣界へ行くの…?」
 ティナの細い声が漏れる。グレシアが慌ててティナに言った。
「行くって言っても、この話は完全にティナ任せなんだ。幻獣界への扉…つまり、封魔壁は私たちには開けられない。向こうとこちらをつないでいる唯一の存在が…ティナが、頼みの綱ってことになる…」
「………」
 しばらくグレシアの目を見ていたティナが、静かに言った。
「…私がやる。私にしかできない…ッ! 帝国との戦争を終わらせなきゃ…」
「ティナ…」





 作戦会議室。と、エドガーが名付けた飛空艇のギャンブルルームでエドガーとロックとグレシアが話していた。会話には参加していないものの、セッツァーがバーカウンターの中でグラスを磨きながらカウンターに座っているティナを口説いており、更に何故か、部屋の隅でマッシュとガウがじゃれ合って遊んでおり、その横でカイエンが瞑想しているというとんでもない構図になっていた。
「流石に大所帯になってきたな…。まさか全員で封魔壁まで行くのか?」
 呆れた口調でロックが訊く。グレシアが静かに頷いた。
「正直、今回の私たちの動きは帝国も予想している可能性が高い。幻獣の力の強さは彼らが一番よく知っているし、封魔壁の場所も当然わかっているわけだから…」
「…先回りされているとみるべきだな」
 いつもの表情で話すエドガーに軽く息をついて、ロックが面倒くさそうに言った。
「まぁた帝国ご自慢の軍隊のお出ましか。だから全員で行って総力戦ってことか…。つってもグレシア、ナルシェの時と違って今回はこっちが攻める側だろ? あの時みたいに囮部隊で兵隊を引き付けておいて総大将を不意打ちってわけにはいかねぇんじゃ…」
 いつの間にか、マッシュの膝の上でガウが眠っていた。グレシアが好戦的な顔で笑う。
「そう。今回はこっちが攻める側だ。それならそれで別の戦い方がある」
 エドガーが既に分かっている顔で楽しそうに笑った。
「では、その戦い方とやらを聞こうか」
「オーケイ、陛下」
 くつくつ笑いながらエドガーが何も言わずにグレシアを見ていた。
「…向こうはいつこっちが来るかわからない。先制攻撃ができるってのと、どこからでも攻められるってのが利点だ」
 ガウをベッドに運んで戻ってきたマッシュがエドガーとグレシアの顔を見て苦笑して呟く。
「……今度は何を企んでんだ? お前ら」
「それは……」
 いつの間にか、ティナやセッツァー、カイエンもこちらを見ていた。
 グレシアが楽しそうに言い放った。





「私の歌を聞けッ!!」
 封魔壁にグレシアの歌声がこだまする。
 エドガーの自信作のマイクとスピーカーの力で美しい歌声が岩山全体に響き渡った。岩山のどこかでグレシアが声を張り上げて歌い続ける。
 ロックが信じられないような目で眼下の現実を眺めていた。
「まじかよ…」
 耳栓をしているおかげでロック自身は何も聞こえていなかったが。
「こいつは…なかなかに酷ぇな」
 苦笑しているマッシュも自身の声以外は聞こえていない。
 同じく誰にも聞こえない独り言をエドガーが朗々と言った。
「グレシアの歌は不意打ちで聞いた場合、回避不可能だ。今まで防衛戦しかしてこなかったが…本来あいつは攻める方が向いている」
 気が付くと、配置されていたすべての帝国兵が一人残らずその場で倒れて熟睡していた。
 この歌の効果があらわれるまでは、しばらく時間がかかる。更に、臨戦態勢の敵にはかかりづらいという弱点も持っていた。通常の戦闘であればまず使えない。しかし、今回のような状況では効果は覿面だ。
 グレシアからの信号弾を確認して、全員で耳栓を抜く。
「ふぅ。んじゃ、ここからは手筈通りに」
 ロックとティナが二人で封魔壁を目指して走り出す。
 エドガーが静かに呟いた。
「あとはティナにすべてをかけるしかない……」
「おっと…早速来たぜ」
 異変に気付いた何人かの兵隊が外から様子を見に来たらしい。好戦的に笑うマッシュの隣でカイエンが静かに抜刀する。
「封魔壁監視所からの援軍でござるな」
「思っていたより気づくのが早かったな。やるじゃないか」
 笑いながらエドガーが一撃必殺のマスクを片手に回転のこぎりのスイッチをオンにする。
「いいねぇ…。分の悪い賭けは嫌いじゃない。要はこの連中を基地に帰さなきゃいいんだろ?」
 不敵に笑うセッツァーが鋭く研がれたカードを手元で広げた。
 エドガーがそっとマスクをかぶって三人に悠々と言い放つ。
「…そういうことだ」
 気の毒な兵隊たちはすぐそこまで迫っていた。





 
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