novel

□Episode7(2)
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 いつもは大きなテーブルが置いてあるはずの飛空艇の広間で、一番奥のテーブルに座ったモグが高らかに宣言する。
「パパパパーーーーーンッ! ただいまより、第一回ファルコンファッションコンテストを開催するクポーーーーッ!! 司会はボク、モグと、解説は…」
「ウーーーーッ!」
「ウーマロでお送りするクポーッ!!」
 ハイテンションでマイクを握るモグに、拍手が巻き起こる。
 事のきっかけは昨日のこと。




「あの親父に教えてやろうッ!! このガウが本当の息子だってことをッ!!」
 おー! と、拳を上げて威勢よく決めた一同だったが、マッシュのこの一言で事態はおかしな方向へ流れていくことになる。
「待てよ……せっかくの親子の対面だ…おめかしでもさせるか」
「おかし?」
 訊き返したガウにグレシアが笑う。
「お菓子じゃなくて、おめかし。綺麗な服を着て、髪とか、身だしなみを整えるんだよ」
「がうぅ…おれ、ふく、嫌いだ…」
 嫌そうに呟いたガウにぴく…とマッシュの耳が動く。
「服を着るモンスターの群れに入ったと思やいいんだよ。この際だ。今まで目をつぶってきたが、親父さんに会う前に本格的に色々教えてやるッ!!」
「がぅぅッ?!」
「がうじゃなくて『はい』だッ!!」





 そしてマッシュのスパルタ教育が始まった。
 慣れないナイフとフォークでテーブルマナーを習っているガウだが、ナイフとフォークを持っている手の形が既にグーである。
 それを必死に直すマッシュを遠目に見ながら、エドガーが笑った。
「はっはっは。なかなか絵になる兄弟じゃないか」
 本物の兄が言うのだから誰も返す言葉がない。グレシアがエドガーに言った。
「言葉遣いまで直そうとしてるみたい。…そんな厳しそうなお父さんじゃなさそうだったし、今のままでもいいと思うんだけどなぁ…」
「まぁそう言うな。それが兄心ってやつさ」
 優しく言ってやるエドガーだが、果たしてその兄の口は呪いか祝いか。
 その後、マッシュの教育ですっかり疲れ果てたガウを引っ張って全員でジドールの服屋に連れて行き、主に女性陣を中心にあれやこれやと選んではガウを着せ替え人形にし始めた。
「ガウにはどんなのがいいかなぁ…」
「この服なんてどう? ガウに似合いそうだわ! でもあっちの服もすてがたいし…」
 次々とガウに着せていくティナとセリス。
「おい、親父。俺と同じ格好をオーダーでッ!」
 店主に叫んだセッツァーにグレシアが怒鳴る。
「だめだってッ! セッツァーと同じ格好なんかガウにさせてどーすんのッ!?」
「なんかとはなんだ。ならお前はどうなんだ?」
「そうだな…。私なら…」
 ガウを見て似合いそうな服を考えようとした時だった。
 みんなが服を選んでいる中、ぐったりと椅子に座っているガウが目に入って、グレシアが真剣な目で呟いた。
「……セッツァー。こんなことやってる場合じゃないかも」
「はぁ?」
 叫んでいるセッツァーを置いてガウに話しかける。
「…大丈夫?」
「がぅぅ…。グレシア、おれ、つかれた」
 珍しく本気で元気がないガウに、グレシアが静かに訊いた。
「みんなに言って、今日はもう終わりにしようか?」
「いいのか? みんな、おれのためにがんばってる…。おれ、がまん、できる」
「…そうか。ガウは偉いね」
 そっと頭を撫でてやって、笑顔でグレシアが続けた。
「わかった。それなら、お姉さんにいい考えがある」
「がう?」





 そして、物語は冒頭に戻る。
 大きく『第一回ファルコンファッションコンテスト』と書かれた看板の前で仲良く隣同士に座ったモグとウーマロが、中央に置かれたテーブルに座った三人を紹介する。
「続いて審査員の紹介クポッ! 審査員は…」
 スッとセッツァーが立つ。
「ファルコン号の二代目キャプテンッ! お洒落な伊達男代表のセッツァークポーッ!」
 ぱちぱちぱちぱち。やる気のないパラパラとした拍手が鳴ってセッツァーが座り、隣が立つ。
「続いてッ! 若干十一歳にして天才的な感性を誇る芸術家ッ! 子供ならではの視点から審査をしてくれるリルムクポーッ!!」
 ぱちぱちぱちぱち。
「最後は…数々の苦難を乗り越えていまやフィガロの国民的歌姫から世界的歌姫になった伝説のブラコン歌姫ッ! 本大会の主催者でもあるグレシアクポーッ!!」
 何故かグレシアだけ余計な一言が付いていたような気がしつつも、スッと立ち上がってマイクを片手に話すグレシア。
「あー…コホン。ご参加の皆様。この大会はあくまで『ガウ』に似合うファッションを審査する場です。公平な審査の元、一位に選ばれた服を着てガウにはお父さんと対面してもらいます。それをよく考えたうえで、彼が胸を張って笑顔で着て行ける服を選ぶようにしてください」
 かなり無茶苦茶言っているのは承知だったが。こうすれば、ガウが何度も着せ替え人形にされるのは避けられる。あとは、この大会の間だけ我慢できれば…。
「では、さっそく始めるクポッ! エントリーナンバー一番ッ! ティナのコーディネートクポーッ!」
 少し緊張した顔のティナに手を引かれて、カジュアルな町の少年の服装のガウがステージに上がる。おお…ッ! と歓声が上がった。
「こ、これは最初からなかなかレベルが高いクポーッ!! 解説のウーマロッ! どう思うクポッ?!」
「ウー。なかなかイイ!!」
「ボクもそう思うクポッ! さぁ…審査員の反応は…?」
 だらららららら。どこからともなくドラムロールが鳴って、審査員席の三人がそれぞれ数字を書いたパネルを観客に見せた。
「流石は子供の面倒を見てたってだけあるな。ただセンスがいいってだけでなく、動きやすさまで考えてある。俺は気に入ったぜ」
 セッツァー、8点。
「うんうん。なかなかいいんじゃない?」
 リルム、7点。
「やるなぁ…ティナ」
 グレシア、8点。
「合計は…23点クポーッ!! 一人目からかなりの高得点が出たクポッ! これは次がやりにくいクポ? 続いて、エントリーナンバー二番ッ! エドガーのコーディネートクポッ!!」
 タキシードでビシっときめてシルクハットをかぶり、口にはバラを咥えたガウがエドガーと共に登場し、あたりが静まり返る。
「さ…流石のボクもどうコメントしていいかわからないクポ…。解説のウーマロ、どう思うクポ?」
「うー…な、なかなかイイ…」
「そ、そうクポ?」
「え…エド兄、それは…真面目に考えたんだよね?」
 グレシアの乾いた声が飛ぶ。
「失礼な奴だな。男性の正装といえばこれに決まってるだろう」
 人差し指を振って思いっきりかっこよく言い放つエドガーだが、審査員は全員絶句している。
 更にファッションショーは続いた。
 エントリーナンバー三番、ドマの伝統的な装束、着物を着せたカイエンのコーディネートは動きづらさが大きな減点となった。
 続いてエントリーナンバー四番、ロックのコーディネートは彼とよく似たコソ泥…否、トレジャーハンター風の服装でバンダナまで巻いていた。
 エントリーナンバー五番、セリスのコーディネートはどことなく品のいい育ちの良さを感じさせる服装で、男の子のよそ行きの服装としては間違ってはいなかったが、ガウには少し似合わず、ティナのやや下の点数にとどまった。
 エントリーナンバー六番、マッシュのコーディネートは何故か拳法着でガウは動きやすいと喜んでいたが、父親に会いに行くという目的とずれているのではないかと審査員の中で協議され、やはりティナのやや下の点数に。
 次々とファッションショーが進んでいく中、一生懸命服を着替えてステージに上がっていたガウだったが、最後のエントリーが済んだとたん、ステージ上でパタ…と糸が切れたように倒れた。
「ガウッ!!!」
 叫んで抱き起すマッシュ。気絶しているガウの様子を確認してグレシアが言った。
「…多分、疲れが出たんだと思う。かなり無理してたみたいだ」
「嘘だろ…? いつものこいつの体力ならこの程度で…」
 愕然した顔で呟くマッシュにグレシアが曇った顔で言った。
「私たちは慣れてるから気が付かないだけで、ガウにとって服を着たり、行儀よくしてるってのはいつもの何倍も気力と体力をすり減らす行為だったんだ…。私が迂闊だった…。お祭りっぽい雰囲気にすればガウも気を遣わずに楽しんで参加できると思ったんだけど…」
 やはりそれでもガウは確実に消耗していた。
 首を横に振って、マッシュが低い声で呟いた。
「いや…こいつは俺の責任だ…」
「マッシュ兄…」





 
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