novel

□Episode7(4)
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『ひゃっほーッ!! やったぜッ! クライドよ』
『ああッ! 百万ギルはあるぜッ! 楽しいねぇッ! 強盗人生も』
 薄暗いアジトの中で、強奪した札束を放り投げながらヒラヒラと舞うギル札の中で狂ったように笑い続ける男が二人。
『そろそろ名前を考えなきゃいけねぇ』
『名前?』
『コンビの名前さ。俺は考えてあるんだ』
『何だ?』
『シャドウだッ! どうだ、カッコいいだろ?』
 まんざらでもなさそうな様子で男は呟いた。

『世紀の列車強盗団シャドウか……』




「嘘でしょ…? そんな…あの、シャドウが…」
 信じられないものでも見ているかのように愕然とした顔でティナが呟く。セリスが顔を伏せたまま呟いた。
「……ティナはちょっと、綺麗すぎるのよ。誰にでも人に言えない過去の一つや二つはある。…私にだって、ロックにだって…」
「で、でも…ッ! 二人はちゃんと過去と向き合ったじゃないッ!! シャドウだって…きっと……ッ」
 セリスは何も答えなかった。
 ストラゴスが静かに呟く。
「そう結論を急ぐものでもないゾイ。その答えを出すには、もう少しあの男を知る必要がある。ほれ、見てみなさい」
 ストラゴスが指した先で、先ほどの男たちが修羅場を迎えていた。
『おいッ!! しっかりしろッ!』
 真っ赤に染まった服の男を肩に担いで、若いシャドウが必死に暗い道を逃走していた。
 肩に担がれた男が生々しく息を乱しながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
『クライド……俺の身体……どう…なってる…? これ……全部俺の血か……?』
『ビリー、喋るなッ! 町につくまで…』
 遮るようにビリーが返す。
『俺にはわかってる…。俺の血だろ…これ? もうダメだ…。行けッ! 足手まといの俺にかまうな』
『し、しかし…』
『捕まってもいいのかッ?! ただ…行く前に…そのナイフで…』

『俺を刺してくれ』

「………ッ!!」
 ビリーの言葉にセリスが息をのむ。
 ティナが両手を口元にあてた。
『捕まったらどんな仕打ちを受けるか知っているだろ? 俺はそんな目に遭いたくねぇ』
『……む、無理だ…。俺には…』
『た…頼む…。クライド…』
『すまない……ッ』

『クライドッ!! よくもーーーッ!』

 走り去るシャドウと、シャドウを恨む言葉を叫び続けるビリー。
 ティナが愕然とした顔で呟いた。
「そ…そんな…。できるわけ…ない。いくら悪い仲間でも、仲間だったんだから……。こんなの…シャドウが悪いわけでも何でもないッ!!」
「ふむ…。じゃがシャドウは自身を責め続けた」
「それが……シャドウが感情を捨て去った理由なの…?」
 悲しそうに眼を閉じるティナ。しかし、彼女がふと横を見ると、セリスの様子がおかしい。
「………い、嫌……ッ、みんな…違うの……知らなかったの……ッ、私はただ博士に褒めてもらいたくて……」
「セリス? どうしたの? いったい何を言って…」
 しかしティナの声が全く聞こえていないのか、真っ青な顔でセリスは震えていた。
「違う……。私が殺したんじゃない……ッ、そんな目で見ないで…ッ!」
「セリスッ!!!」
 声がひっくり返るほど思いっきり耳元で怒鳴ると、セリスがハッとしたような顔でティナを凝視していた。
「ティナ……? なんで…私…。急に昔の…子供の頃のことを思い出して…それで…」
 血の気の引いた顔で話すセリスを思いっきり抱きしめてティナが呟く。
「全部ただの夢なの。悪い夢。ここにいると、そういう夢を見てしまうみたい。だから、早く出ましょう。シャドウを助けるの。それだけ、考えて」
「…………ありがとう、ティナ。ごめんなさい。綺麗すぎるなんて言ってしまって…。あなたも、皇帝に利用されて無理やり何人も…」
 人を殺めさせられた。セリスたちと…何も変わらない。
 抱きしめあっている二人を温かい目で見つめてから、ストラゴスがそっとシャドウのほうに視線を戻す。
『ビリー……ッ! すまない…ッ、俺は…』
 肩を落として泣いている男の肩をポンっと軽い手が叩く。
『なぁに泣いてんだよ、クライド』
『ビリーッ!?! な、何故だッ!? お前、捕まって……』
『んなもんとっとと逃げてやったさ。俺を誰だと思ってんだ?』
 悠々と顔の前で人差し指を振ってビリーは続けた。
『お前のおかげだよ、クライド。お前があの時俺を刺さなかったからこうして生きて戻ってこられたんだ』
『ビリー…。ほ、本当に…本当にビリーなのか?』
『ったく。せっかく戻ってきてやったのになんて顔してんだ、クライド。また二人で楽しくやろうぜッ!!』
『おうッ!!』
 差し出された掌を思いっきり握って楽しそうに笑っているクライド…否、シャドウに、セリスが叫ぶ。
「シャドウッ!! 瀕死の重傷だったビリーが自力で逃げて生きて帰ってこられるはずがない。あなたならわかるはずよッ!!」
 しかし全く聞こえていないのか、二人は楽しそうに次の強盗計画を立てている。
「お願い、目を醒ましてッ! あなたは今までずっと自分の過去と戦い続けていたッ!! 感情を捨て去って、毎晩魘されながら、それでも必死に戦っていたのッ! お願い、負けないでッ!!」
 ティナの必死の叫びも届かない。
 ストラゴスが目を閉じて口の中だけで呟いた。
「…せめて、あの娘のことを思い出してくれればのぉ」
 まったく叫びが届かないまま、霧の中の二人は楽しそうに会話を続けていた。
『覚えてるか? ビリー』
『んー? んだよ、いきなり』
『親も兄弟もいねぇ俺たちが、相棒同士になった日のことを』
『ああ。そうさ。天変地異が起きたって俺たちは絶対に互いを裏切らねぇ。この腐りきった世界で互いに信じられるものは互いだけだってな』
『…お前と組めて幸せだった。ビリー』
『なんだよ? 俺が無事だったんで嬉しすぎて頭おかしくなっちまったか? クライ…ド…?』
 目を丸くしたビリーが自分の腹を見る。
 そこには何かが刺さっていた。
『お前の望みだったな、ビリーよ。俺の過去の遺恨がようやく果たせる』
 顔色一つ変えずに嬉しそうな笑顔のまま話すクライドに、ビリーが血を吐いて呟く。
『な……ッ、クライド…? う…そだろ…?』
 赤く染まっていく自身の下腹部に刺さったナイフを押さえながらビリーが崩れ落ちていく。
 冷ややかな目でそれを眺めているクライド、否、シャドウが呟いた。
「礼を言うべきか。…なかなかいい夢を見させてもらった」
 床の上に倒れたビリーの身体から立ち上った黒い靄が一気に沸き上がり、人の形となってすさまじい形相でシャドウを睨んでいた。
「貴様……ッ!!! いつから気づいていたッ!!」
「いつ? おかしなことを訊く」
 冷たい声でシャドウは言い放った。

「これは俺の夢だ。違うか?」

 決定打を浴びせられて『それ』は悔しそうに叫んだ。
「く……ッ!! だがまだあと二人はこちらの手にあるッ!! その気があるなら追ってきな。三人揃って相手してやるよッ!」
 言い捨てて影が煙のように消えてしまうと、先ほどまでの霧が綺麗に晴れていた。
 ティナが呟く。
「シャドウ……」
 男が訊いた。
「…………あと二人?」
「カイエンと、グレシアだと思う」
 セリスの顔を見て、シャドウが無表情のまま続けた。
「グレシアもか。……行くぞ」
 背を向けたシャドウに、ストラゴスが楽しそうに笑う。
「ほっほっほ。相変わらず、芯の強い娘に弱いのぉ。安心したゾイ」
 ふっと笑って、シャドウは背中で三人に言った。
「…今回は、どうやら世話をかけたようだ。…一応、礼は言っておく」
 ティナとセリスが目を丸くして思わず顔を見合わせる。
 ストラゴスの朗らかな笑い声がいつまでも響いていた。




 
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