novel

□Episode7(6)
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 フィガロ城の大会議室。
 縦に長い大きなテーブルにエドガーたち王族に大臣達、そして騎士団の師団長クラスより上の者たちと、ロックたち…という不思議なメンバーが席を共にしていた。
 アシュレーの説明が淡々と続く。
「……冒頭にもお話した通り、本作戦の目的は蘇った三闘神の討伐、そしてケフカの討伐です」
 三闘神を倒せば裁きの光は消え、ケフカを倒せばすべてに決着がつく。
「そこで、裁きの光をケフカにこれ以上使わせないためにも、まずは三闘神の討伐を優先します。隊を四つに分け、調査済みの三ルートから塔の中を進み、それぞれ一体ずつ三闘神を倒します」
 エドガーが話を振る。
「最後の一つはケフカの足止め隊か。では三闘神についての対策に入ろう」
「承知しました。まず一体目。魔神セフィロト。そもそも三闘神自体が魔法をつかさどる存在ですが、中でも魔神と名がついているだけあって記録によると魔力はかなり高いようです。ですが、調査隊の報告によると冷気属性に絞られているようなので対策が可能です。さらに、威力は高くとも、魔力量は長い間の封印のせいかかなり弱体化しているようなので、魔法には弾数制限があると思われます」
 セリスが言った。
「魔法に関しては私の魔封剣が有効だが…」
 グレシアが続ける。
「…魔封剣は一つしかないからな。セリスをどの隊に入れるかだが…問題は三闘神の攻撃は魔法を詠唱せずに直接魔力を放つものも多く、詠唱魔法を封じる魔封剣が効かない可能性があるってところだ」
 前日に見せてもらったレポートに書いてあった。アシュレーが頷いて続けた。
「…まさしく二体目が完全に魔封剣が通用しないと思われます。二体目。女神ソフィア」
「女神か…」
 思わず呟いたエドガーに大臣の一人が咳払いする。胸中だけで苦笑してアシュレーが続けた。
「こちらも調査隊のおかげで属性だけは判明しています。主に雷属性。絵を見ると巨大な女神の顔のようなものに女性が乗っていますが、記録によると上に載っているほうが本体の女神ソフィアで、下の顔は彼女が『娘』と呼ぶ存在です」
「…子持ちみたいだぜ、エドガー」
 ロックの軽口にもう一度大臣の咳払いが飛んで今度こそ何人かの仲間とマッシュとグレシアが苦笑する。
 アシュレーが真面目な顔のまま続けた。
「記録によると周囲の者をゾンビ化して操ったり、広範囲で死の宣告を使用したりと、致命傷になりかねない攻撃が多く、その上男性に対する誘惑技を持っています…」
「…残念だったな、兄貴」
 エドガーがマッシュに何か言い返すより早く、大臣の一人が口を開いた。
「では、女神の攻略は女性を中心に隊を組む…ということですかな? アシュレー第三師団長」
「可能な限りはそうしたいところですが、戦力になりそうな女性の数は限られていますし、セリス将軍の魔封剣をここで使うのは非効率だと思われますので、男性の参戦はやむを得ないかと…。ところで、グレシア殿下」
「何?」
「女神ソフィアは歌で相手を眠らせたりゾンビ化して操ったり死へといざなう…と言われていますが、これに対する有効策はありませんか?」
 既に薄々察しがついている顔のアシュレーに、グレシアが好戦的な笑顔で返す。
「…あるよ。歌には歌を。私が歌って邪魔してやればなんとかできると思う。あとは歌い手としての私と女神の力量勝負次第…かな」
「んじゃ大丈夫だろ。俺はグレシアを信じるぜ。あとは三体目だな」
 マッシュの威勢のいい声に頷いて、アシュレーが続けた。
「三体目。鬼神ズルワーン。おそらく魔封剣を使うならこいつでしょう。属性も炎、風と二種もっており、詠唱による魔法攻撃の使用も多数報告されています。過去に使用した魔法の種類は他の二体の倍以上。…基本、陛下の方針で威力調査はかなり慎重に進めていましたが…鬼神ズルワーンの調査で何名か負傷者が報告されています」
「…調査隊の実力は確かだ。負傷者が出てしまったのは、それだけ相手が強かったということだろう」
 エドガーの顔を見てアシュレーが静かに言った。
「それもありますが、鬼神と名の付くだけあってかなり攻撃的な性格のようです。相対した者達の証言によると、彼は自らを『我は鬼神ズルワーン。全ての神々の頂点に立つ者にして、貴様たちを奢る物なり』…と」
 新世界の神を名乗るケフカに操られてなお、全ての神々の頂点に立つ者を名乗る鬼の神。
 …厳しい戦いになる。
 思わず息をのんでしまった皆の顔を見渡して、エドガーが朗々と告げた。
「…ならば、こちらは人間の底力を見せるまでだ。まして、魔封剣が使えるのであれば勝機は必ずある。…今から隊の振り分けを決める」
 エドガーの話はその後も延々と続き、次々と誰がどの隊に入るか決まっていく中で、セリスが小さな声で呟いた。
「三闘神は幻獣界において魔法をつかさどる神様……その神を倒せば……」
「どう…なるんだ?」
 隣の席から訊いてくるロックの顔を見て、少し困ったような顔でセリスは続けた。
「…私にもはっきりとしたことはわからないけど…」
 続きを言うのをためらっているセリスに、ストラゴスが代わって続けた。
「幻獣…そして魔法がこの世から消えてなくなってしまうかもしれん…」
 ロックが慌てて叫んだ。
「それじゃ、ティナは…ッ?!」
 全員の視線が集まる中、ティナが俯いて答えた。
「…わからない。けど…それでも私は戦う。あの子たちが安心して生きていける世界にするためには…裁きの光は絶対に無くさなきゃいけないの。だから…ッ」
「ティナ…」





 カラン…と、グラスの中で溶けた氷の転がる気持ちのいい音が響く。
「明日はついに瓦礫の塔…か」
 呟いたグレシアに向かいに座ったロックが小さく笑った。
「そういや魔大陸に行く前の日の夜もここでこうやって飲んでたっけ。あの時は確か…セッツァーだったかな」
 軽くグラスをあおってグレシアが苦笑する。
「へぇ。そっか…。私あの時…行けなかったから…」
「信じられねぇよな…あれからもう一年も経ったなんてさ」
「そりゃ、一年間トレジャーハントしてたら実感もわかないだろ」
 楽しそうに笑ってからロックが笑っていない目で返す。
「まぁな」
 いつもこうした大きな戦いの前の日は不思議といくら飲んでも全く酔えない。
 緊張を紛らわせるようにロックが軽い口調で訊く。
「そういやお前はどうしてたんだ? この一年間。確か魔大陸に行く前、最後に会ったときは…」
「ああ。まだ口もきけなかった。実はあれから…」
 少し長いグレシアの話が終わって、ロックの呆れたような声が飛んだ。
「まじかよ…。お前、どんだけ異世界に縁があるんだ…」
「…それを言うなら、『何回死ねば気が済むんだ?』だよ」
「あはは。まぁな。でも裁きの光に巻き込まれたんじゃしょうがねぇって。死にたくて死んだんじゃねぇんだし」
 …そもそもまだ死んだわけではないのだが。
 少し苦笑した後、グレシアは初めて素直に打ち明けることにした。
「…死にたかったことは否定しない」
「グレシア…」
 色々な意味で驚いた顔でグレシアを見つめているロックに、グレシアが笑ったまま返す。
「死ななかったのは支えてくれる周りの人がいたからだ。それについては…感謝してる。でも、私が死んだら兄貴たちがどんな顔をするかまだ知らないあの頃だったら…きっと死んでた」
「…………そっか」
「怒らないの?」
「いや。今そんな顔でこうやって俺にそんな話ができるってことは今のお前は多分もう全部乗り切った後なんだろ」
「ロック…」
 グレシアのほうを見ずにロックはふざけた声で続けた。
「まー俺ってなんつーかお前にとってそーゆー…都合のいい存在? あ、ちょっと違うか。こう、どっか張り合ってるみたいな、弱みは見せたくねぇみたいな」
 軽く声を上げてグレシアが笑う。
「あはは。確かにロックには負けたくないな」
「…俺も」
「ん?」
 少し俯き加減のまま、今まで聞いたことがないくらい真剣な口調でロックは続けた。

「誰にも負けねぇ。…守るって、決めたから」

 くすっと笑って、グレシアが呟いた。
「軽く手合わせするかい?」
「…悪くねぇな」




 戦闘ではサポート主体だから普段はあまりわからないが…ロックも意外と侮れない。以前一緒にリターナーとして働いていた頃とは比べ物にならないほど彼も強くなっていた。持ち前の恐ろしいほどの俊足や戦闘センスもさることながら、近接のナイフだけでなくあの謎の投擲武器…。そんなことを考えながらグレシアが自室に向かっていると、何故か待っていたらしいティナに出会った。
「ティナ……」
「グレシア。話したいことがあって…」
「ああ…。さっきの話だよな。三闘神を倒すと……」
 そこまで言いかけた瞬間だった。ティナのポップな声が廊下に響く。
「ぶーーーー。違いますッ」
「え?」
 目を点にしているグレシアにふくれっ面のティナが続けた。
「前に一人で悩まないでって言ったでしょッ?! 夜眠れてないの…相談してくれればよかったのに…ドマ城で聞いてびっくりしたんだからッ」
 しかもセリスやロックは知っていたというから笑えない。ぷくーっと膨れているティナにグレシアが慌てて言った。
「ち、違うって。ほら、あの後すぐマッシュ兄の師匠の所に行って修行したらずいぶん楽になったからそれで…」
 必死に言い訳しているグレシアにティナがくすくす笑いながら言った。
「嘘。怒ってないよ」
 思わずハトが豆鉄砲を食ったような顔になって、その直後、ティナと同じような顔で笑ってグレシアが言った。
「ティナは? 悩んでない?」
「うんッ! さっきも言った通り、ケフカをこのままにしておくわけにはいかないから。それに…ね。私、不思議なの。出会ったときと違って、今はどんどん自分がみんなと同じになっていく感じがする。みんなと笑って、戦って…。…きっと明日も、その次の日も、ずっとみんなでそうしていられる。だから…ッ」
 グレシアが景気のいい声で言い放った。
「勝って、生き残ろう」
「うんッ!!」




 


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