novel

□Episode7(7)
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 夜は冷え込む砂漠の城。
 冷たい風に砂が舞い上がる中、人気のない訓練場でギャレットが困惑しきった顔で呟いた。
「まさか、陛下が自ら来られるとは思いませんでした」
 滅多に着ない訓練着を着たエドガーが訓練場の明かりに照らされて楽しそうに笑う。
「ふふふ…。らしくもないとは思うよ。自分でもね。だが、私の幼馴染が君に勝ったと聞いてね」
「………」
「彼はもう私とは真剣勝負はしてくれなくなってしまったが…。どうだ? 私と真剣勝負で一戦。君が勝ったら、機械師団の一個師団を君にやろう。機械師団は私の直轄部隊だ。その師団長ともなれば、皆が認めざるを得ない。この国で君に表立って何か言える人間はほぼいなくなる」
 綺麗な流し目が、好戦的にギャレットを見据えていた。
「…全力でいいんですか?」
「ああ。おとがめはない。安心して全力で戦ってくれていい。昔と違って魔法があるから多少の怪我も問題ない」
「…陛下が勝った時は…?」
「ん…そうだな。私が勝ったらその時は…」
 美しい顔のまま、凶悪な目でエドガーは言い放った。

「グレシアのことは諦めてもらう」

 逆光の中、エドガーの鋭い碧眼だけが嫌な色に光っていた。
「…………ッ!! それは…ッ」
 そんな大それたことは考えていない。ただ自分は彼女に償いをしたいだけだ。…と、言い訳することはできなかった。何もかも見抜かれている。この男は、目の前にいる綺麗な顔の金髪の青年は今はただ一人の兄だ。
 斬りかかってきたエドガーの一撃を動揺したまま何とか止める。
「……ッ!」
「ほう。やるじゃないか…」
 大人が子供を褒めるような物言いだった。
「俺は……ッ、ただあの人を……」
 必死に切り払って素早く打ち込むが、エドガーの動きは悪魔のように冷静で冷徹だった。
「……っあッ!!」
 鋭い金属音が連続して響き、直後にギャレットの短い悲鳴が響く。
「…なるほど。疾いな。あいつが褒めるはずだ。だが若い太刀筋だ。勢いだけではあいつには勝てんだろう。…俺にもな」
 いつの間にか…エドガーの口調が変わっていた。
 体勢を立て直したギャレットが再びエドガーに打ち込む。あまりに卓越した剣技はしばしば芸術に例えられるが、二人の戦いはすでにその域に達していた。
「俺は残りの人生のすべてをかけてあの人を…守りたいッ!! あの人がもう二度と…辛い目に遭うことがないように…俺がッ」
「生憎…うちにはそういう連中が大勢いてな…ッ!! 連中からしてみれば、加害者だった君がそんなことを口にするのが許せんのだそうだッ」
 好戦的に笑うエドガーと、なりふり構わず決死の覚悟で戦い続けるギャレットの間で飛び交う金属音が三桁を超えようとする頃。
「誰に何を言われても構わない。だが俺は…グレシア様を守る…ッ!!」
「その名を口にするのは一万年と二千年早い……ッ!!!」
 大きな衝撃音が砂に吸収されて消えていった。





 柔らかい砂の上に倒れているギャレットに、穏やかな顔で笑ってエドガーが言った。
「ちなみに君も知っての通り、グレシアと交際したい男はマッシュと俺を倒した後で文通から始めてもらうことになっている」
 砂の上で息も絶え絶えにぜぃぜぃと呼吸を繰り返している男にエドガーは勝者の余裕をもって言い放った。
「…が、君は特別に俺が先に相手をしてやろう。本気でグレシアを守りたいなら…腕を磨くことだ」
 足音もなく砂に靴跡を付けてエドガーが歩き去る。
 角を曲がったところで腕を組んで壁にもたれていたマッシュが苦笑して息をついた。
「…音を聞いた騎士が何人か来たぜ。適当に理由つけて帰したが」
「はっはっは。うちの騎士たちはみんな少し真面目過ぎるな」
 並んで歩きながら話す。
「兄貴がでかい声で叫ぶからだろ。しかし…あいつ、皇帝の所にいたんなら王族に不信感とかねぇのか…? よく兄貴の呼び出しに応じたな」
 真剣な目でエドガーが返した。
「俺が彼に信頼されるようなことは何もしていない。つまり、彼は俺に殺される覚悟で今日あそこに来た。それも、楽には死ねないくらいの覚悟だったのかもしれないな」
 滅多に人に見せない暗い目でマッシュが応じた。
「まぁ、そういうことになるな」
 空気を換えるように思いっきり頭をかいてマッシュが続ける。
「…しっかしグレシアもとんでもないタマを拾ったもんだぜ。兄貴、さっき結構やばかっただろ?」
 途端にむっとした顔でエドガーが返した。
「失礼な奴だな。アレは相手の油断を誘う演技だ」
「がっはっはっは。まぁ、そう見えなくもなかったけどよ。演技なぁ……」
 まだ笑っているマッシュにエドガーが余裕の顔で笑いながら空を見上げる。
「マッシュ。星が綺麗だ」
「ああ…。珍しいな」
 世界が一度崩壊してから二年近く。
 二人で見上げた夜空は、道を別ったあの夜のように満天の星が輝いていた。





 翌、決戦の日。
 三闘神を倒す組と、その間ケフカを足止めする組、合わせて計四組がそれぞれのルートで飛空艇を降りていく。
 一番初めに降りたのは魔神セフィロト組。
 このチームの攻略法は至って単純だ。
 魔人の魔力攻撃をストラゴスのフォースフィールドで防ぎながら、物理攻撃組でタコ殴りにする。高い魔力攻撃と魔力防御に反して物理防御力の低い魔神の裏を突いた作戦…と言えば聞こえはいいが、実際にはただの正面突破だ。物理攻撃隊にはカイエン、ガウ、ウーマロをはじめとする少数精鋭で、モグもサポートに入る。ただし、ストラゴス一人のフォースフィールドで四人を常にガードし続けるのは難しいため、ゴゴがフォースフィールドの物まね要員として参加することになった。
「…フォースフィールドって…ストラゴスさんでさえ結構習得に苦労したっていう上級青魔法…よね? 私もティナも使えないのに…」
 ザッザッと足音を立てて去っていく隊の一番後ろを歩くゴゴを見送りながら乾いた声で言うセリス。
 グレシアが諦めたような声で呟いた。
「ゴゴはもう…なんでもありだから…」
 そして…飛空艇が短い距離を移動して、次のルートで降りる。
 二組目。女神…ソフィア組。
「それじゃ、行ってくる」
 軽い笑顔で言い放つグレシアの片手を思いっきり音を立てて取ってから、ロックが景気のいい声で叫ぶ。
「おうッ! 怪我すんなよ」
「気を付けてね」
 ロックの隣で心配そうに言ってくれるセリスにも礼を言って、ふとその横を見る。

「行ってこい」

 好戦的に笑うエドガーに同じ表情で不敵に笑い返して、マッシュが差し出してくれた拳を突き合わせて、振り返らずに一気に飛空艇を降りる。一緒にここで降りるのはフィガロの騎士団に所属する数少ない女性騎士たちと、リルム。もちろんそれだけでは戦力としては厳しいため、残りは男性騎士団員と、そしてシャドウ。言うまでもなく女神の歌をグレシアが歌で相殺して、その間に残りのメンバーが攻撃する作戦…だが、女神は三闘神の中で最も情報が薄く、まだ原理が判明していない攻撃もいくつかあるため、このチームに最も人数が多く割かれている。
 残るメンバーのうち、ケフカの足止めがエドガー、ティナ、セッツァーの三名。残りの騎士団メンバーとロック、セリス、マッシュが…最強と言われている鬼神、ズルワーン組である。





「…それじゃ、最終確認しておきたいんだけど」
 グレシアの言葉に、アシュレーが頷いた。
「この場での指揮権は殿下にあります。…なんなりと」
「ん? アシュレーじゃないのか?」
 意外そうなグレシアの言葉にアシュレーの背後にいた女性騎士が苦笑して答えた。
「…グレシア殿下、現在の殿下の軍籍は上級大将です。我々騎士団の師団長は軍籍でいくと大将ですから…」
「ち、ちょっと待て。私は准将待遇の軍師だよッ! 上級大将ってどういうことッ?!」
 普段自分の軍籍をわざわざ確認することなどなかっただけに、少し恥ずかしそうに叫んでいるグレシアにアシュレーが内心笑いをかみ殺しながら静かに答えた。
「……陛下の仕業です。その…失礼ながら殿下は二回ほど死んだようなものだからドマ城防衛戦での殉職とサマサの村での殉職の合わせて二回分の二階級特進をさせてやれと陛下が……」
「え…エド兄の仕業か……ッ。てか、私は一回も死んでないッ!! こんなの無茶苦茶だ…ッ!」
 敵地とは思えないほどポップな声で叫んでいるグレシアにアシュレーが軽く声を出して笑う。
「仕方ないですね…。では」
 アシュレーに話を振られた女性騎士が苦笑して返す。
「そうだな。この場にいる師団長は私とお前だけだが…。今回の作戦で先陣を切るのは私の第五師団だ。アシュレー、全体指揮を執るならお前のほうが適任だろう」
「そうだな…了解した。では、グレシア殿下はいつも通り軍師としてサポート願えますか?」
 こくこくこくこく。何度も頷きながらグレシアが言った。
「それでいい、それで。というか、最初からそのつもりだよ。もう…」
 グレシアの横から声がした。
「あとでエドガーに思いっきり文句言わなきゃね、グレシア」
 好戦的な顔で笑っているリルムに思わず笑い返す。
「……ッ。…そうだね。後でお説教だね、リルム」





 
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