novel

□Episode7(9)
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 三年後。



『ロック、セリス、二人とも元気ですか? 二年前、二人が旅に出ると言い出した時はとても驚きました。ケフカを倒して一年…。みんなで飛空艇に乗って世界のあちこちを見に行ったり、フィガロ城で一緒に働いたり、たまにモンスター退治や宝探しまでやったり…本当に楽しかった。ずっとあんな日々が続くと思っていたから…。

 二人が旅に出てから、他のみんなもそれぞれ別々の道を歩き始めました。
 あの時エド兄が言っていた『みんな、自分の人生は自分で責任をもって生きなければいけない。ケフカの作ろうとした死と破壊の世界を否定した自分たちだからこそ、この世界と最後まで向き合っていかなければ』という言葉は、私だけじゃなく、きっとみんなの心にも響いたんだと思います。

 だから私も、自分の道を生きることにしました。自分らしく、世界中飛び回ってあちこちで歌ったり、フィガロに戻って世界の復興のために仕事をしたり。忙しいけど、元気でやってます。今でもまだ辛い夜も時々あるけど、兄貴たちに助けてもらってなんとか頑張れています。

 これはまだ少し先のことだけど、この前復興事業の一環でモブリズの新しい町長と協力して次世代の町作り計画を作りました。モブリズもあれからたくさん人が移り住んで復興と開拓が進んで、もう村とは呼べなくなったので来月から町になります。初代町長にはなんとティナが就任する予定です。ティナ町長…慣れないと少し不思議な響きだね。ここだけの話だけど、本人も最初は少し照れてました。
 ティナが育てていた子たちも大きくなって何人か独立して働く子も出始めてきた中で、その子たちとモブリズに移り住んでくれた人々のために何ができるか、一生懸命ティナが考えて見つけた道なので、モブリズに立ち寄った時はお祝いしてあげてください。

 カイエンはあの後すぐ、正式にエド兄からの依頼を受けて北西部の管轄総督に就任しました。
 旧ドマ領で生き残った人たちとドマ復興支援希望の人たちと一緒にドマ城に渡り、ドマの文化を残すため、以前以上に活気あるドマを目指して日々忙しく働いているそうです。ガウも一緒にドマ城でカイエンのお手伝いをしてるそうなので、ドマの近くに寄ることがあったら、顔を見に行ってあげてください。

 サマサの村は相変わらず長閑で、復興も順調に進み、ストラゴスもリルムも元気に過ごしています。リルムはすっかり見違えるほど綺麗になって、今ではティナより背が高くなりました。
 瓦礫の塔で脱出するときに行方不明になったシャドウはまだ見つかっていないけど、ストラゴスはどこかで必ず生きていると断言しています。
 私も…なんとなくだけど、彼は生きているような気がします。

 モグとウーマロは結局ナルシェには帰らず、コルツ山の麓の小屋で二人でのんびり暮らしているそうです。たまに、フィガロにも遊びにきてくれます。

 セッツァーは…なんだったっけ、確か『雲を突き抜け、世界で最も近い場所で星を見る男になる』…だったかな…。
 そんな感じの言葉を言い残して飛空艇とともに姿を消したっきり、音沙汰がありません。
 でも時々フィガロ城に私宛てで『さすらいのギャンブラー』からとてもいい香りのお酒が届くので、きっと元気にしてるんだろうと思います。

 ゴゴは…………知らない間にどこかへ旅にでも出たのか、姿を消していました。

 マッシュ兄はあれからダンカン師匠の技を残していくために何人か弟子をとって、城で後継者を育成する傍ら、本格的に政治にも参画するようになりました。
 マッシュ兄の考え方ややり方は今までフィガロにいたどの人とも違って斬新で、エド兄も驚くくらいみんなへの良い刺激になっているみたいです。

 そうそう、来年エド兄が即位十五周年の記念イベントを開催するって張り切っているので、その際は是非二人でフィガロに遊びに来てください。
 
 今日も、私はフィガロで歌っています。
 この歌がこの空の下のどこかにいる二人に届くことを祈って。


 グレシア・R・フィガロ』





 世界の果ての無人島にある小さな小屋で、青いバンダナをまいた青年が真っ白な鳩の足に手紙を括り付ける。
 窓から放してやったハトが真っ青な空に羽ばたいて、フィガロの方角へまっすぐ飛んでいった。
 ちょうど窓の外からシドの墓参りを終えたセリスが歩いてくるのが見えて、朝食を用意する。
「昨日預かった返事、出しといたぜ」
「さっき飛んでいくのが見えたわ。…ちゃんとエサもやってくれた?」
 ハトに食べさせる餌のことである。
「やったって。俺の貴重な非常食の豆を」
「ふふ。ロック、昔聞いたんだけど、豆を庭に植えると巨大なつるが空の上まで伸びて、登ると巨人が住んでる財宝の城に行けるらしいわよ?」
「な……ッ!! マジかよッ!! よっし早速植えに行こうぜッ!!! ……て、そりゃおとぎ話だろ…。さすがの俺でも知ってるよ」
 食器の音に交じって、セリスの柔らかい笑い声が響く。
「それも、おばあちゃんが枕元で話してくれたの?」
「そうそう。ばーちゃんがな」
「ふふ。そういえば私も昔、おじいちゃんが…シド博士が枕元で本を読んでくれたことがあるわ」
「おとぎ話か?」
 くすくす笑いながら首を横に振って、パンを食べながらセリスがゆっくりと語り始めた。
「…邪悪な心がまだ人々の中に存在しなかった頃、開けてはならないとされていた一つの箱があったの。でも、一人の男が箱を開けてしまった」





「中から出たのは、あらゆる邪悪な心…嫉妬…独占…破壊…支配…」
 椅子に深く腰掛けながら語るエドガーにマッシュが訊いた。
「兄貴、それって何年か前にリターナー本部でバナン様が言ってたやつだろ? 確か、箱の奥に希望という名の一粒の光が残ってたって話だったよな…?」
 珍しくエドガーの執務室にいるのはエドガーとマッシュだけだった。
「…バナン様は確かにあの時そう言っていたが」
 エドガーがマッシュの方に向き直って続けた。
「おかしいと思わないか? マッシュ。あらゆる邪悪な心が封じ込められていた開けてはならない箱の中に、何故『希望』が入っていたのか」
 仕事の話が一段落して、マッシュが淹れた紅茶をエドガーに渡しながら返す。
「んー…言われてみりゃ妙だな。希望も箱に封印されてたってことだもんな」
「しかも希望だけは外へ出ることなく箱の奥に残った」
「……思い出したッ!! どっかで聞いたことあると思ったらその話、城の書庫の神話のコーナーにあった本に載ってたやつだろッ?! でもなんかちょっと違うような…」





 自分の執務室で同じく紅茶を飲みながらグレシアが優雅に呟く。
「……箱に残ったのは希望ではなく最後の厄災」
「なんですか? それは…」
 ケフカとの戦いの後、アシュレーの推薦で騎士団に入って最近はあまりグレシアの元を訪れることも少なくなったギャレットが訊く。
「『予兆』だと、私が読んだ本には書いてあった。つまり予知能力ってやつだ」
「予知…」
「それが飛び出ずに箱の中に残ったのは、男が慌てて蓋を閉じたから。つまり男は最後の最後で一番厄介な災いを箱の中に留めておくことができた。と、解説がしてあった」
「それでは…もし最後の一つが出てしまっていたら…?」
「…変えられない運命を知ってしまったら、人は未来の可能性を信じられなくなってしまう。つまり………先が見えないということこそが…」
 それぞれの執務室で、エドガーとグレシアが同時に呟いた。


「それこそが本当の希望だったのさ」





 
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