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パワーのお礼、第三弾。

短いですが、まさかの現パロ。
ギャグです。


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 あれは三年前。中学三年の時のこと。
「きゃー、遅刻遅刻ッ!」
 食パンを咥えて走っていたセリスが角を曲がった瞬間だった。
 ドカッと衝撃が走って誰かにぶつかったんだと認識する間もなく地面に尻餅をつく。
「…ごッ、ごめんなさいッ!!」
「おっと…悪ぃッ!! 大丈夫だったかッ!?」
 ぶつかった相手は転ぶことすらなく堂々と立ってセリスに片手を伸ばしてくれた。
 朝の陽ざしを背中に受けて逆光の中で笑っていたその人との出会いが…。
 運命だった。





 そして現在。セリスもすっかり大人びて今は国立魔導高校の三年B組に在籍している。
 チャイムの音と共に鞄を持って女子剣道部の部室に向かう。
 先に来て着替えていた隣のクラスのティナが挨拶もそこそこにスマホを見せて訊いてきた。
「セリス知ってる? この人最近すごいのッ!」
「また新しいユーチューバーにはまってるの? ティナ、私たちもう受験生なのよ?」
「わかってるってッ! 勉強もちゃんとやるやる。でね、この人面白いのよ? 一番新しい動画で…」
 服を脱ぎながらセリスがふとティナの手元に目をやると、数か月前に会ったっきりの彼氏が映っていた。
「あれ…ロック? ち、ちょっと待って、いつの間にユーチューバーなんて始めたのッ?!」
「セリスッ! この人知り合いなのッ?!」
「え、ええ。付き合ってるん…だけど」
「す、すごいッ!! 今度サインもらってきてッ!! このロックって人、すごいのよ? 毎回世界中のよくわからない場所で発掘とかしててそれをユーチューブにアップしてるのッ! でね、今回は日本で将軍の埋蔵金を…」
「へ…へぇ…いつの間にか日本に帰ってきてるのね…。ラインでもしてみようかしら…」 
 楽しそうに動画の話を続けるティナと二人で体育館に向かう。
 剣道部の顧問は古文のカイエン先生だ。
 何故か常に時代劇のような話し方をすることで有名で、実家は剣道場なのだそうだ。
「ねぇ、ティナ」
 休憩中に面を外して汗を拭きながら訊いてくるセリスにティナが顔を上げる。
「何?」
「この前の大会でティナの試合の時、大きな声で応援してた人って…」
「わわわわわッ、セリス、見てたのッ?!」
 そりゃあんな大声で応援されれば誰でも目に付く。真っ赤になったティナが恥ずかしそうに言った。
「…うちの両親。もう…ッ、恥ずかしいからやめてって言ってるのに…」
 くすっと笑ってセリスが言った。
「…でもちょっと羨ましい。うちは両親が海外出張でたまにしか帰ってこなくて、普段はおじいちゃんと二人暮らしだから」
「そっか…。シドおじいちゃん、元気? また家に遊びに行きたいなぁ」
「いつでも来て。おじいちゃんも喜ぶと思う」
 たわいない会話をして、また練習に戻って、日が暮れて着替えて、途中までティナと二人で一緒に帰る。学校は好きでも嫌いでもない。退屈だけど幸せないつもの日常。





『え、セリス、俺の動画見てくれたのかッ?!』
「もう、いっつも突然どっかいったりひょっこり帰ってきたり…。いつの間にあんなこと始めたのよ?」
 夜。ロックとラインがつながったので通話する。
『いやそれがさぁ、友達に勧められて始めたんだけど、広告収入すげぇんだよッ!! いやぁ〜助かる助かる』
「あのねぇ…。まともな職に就こうって気はないの? どうせ友達って人もあなたと同じで宝探しとかしてる人なんでしょ?」
 スマホの向こうから楽しそうに笑う声が聞こえてきた。
『違うって』
「じゃあ…何してる人?」
『ギャンブラー』
「切るわよ?」
『待てってッ! 確かにセッツァーはギャンブラーだけど、セリスが想像してるようなちゃらちゃらしたやつとは違って、まともな奴なんだよ』
「まともなギャンブラーなんて聞いたことないわよ。いい加減にしておかないと、あなたもその人も賭博黙示禄みたいな漫画の主人公みたいにそのうち地下で強制労働させられ…」
『だぁから、そんなんじゃねぇのッ! セッツァーはなぁ、フィガロカンパニーの社長の家でお抱え運転手の仕事もやってんだぞ? な? まともな仕事もしてるだろ?』
「フィガロカンパニーって…」
 聞き覚えがあった。世界的に有名な大手企業だ。セリスが我に返って呆れたような口調で返す。
「何偉そうに言ってるのよ。ロックの話じゃなくて、それは友達の話でしょ? …それにしても、お金持ちってやっぱりすごいのね…。お抱え運転手かぁ…車も自分で運転しないなんて」
『いや、車じゃなくて』
「え?」

『自家用ジェット』

「どんな大金持ちなのッ!!!!!」
 思わず大声で叫んでしまって慌てて声を潜める。シドはもう寝ている時間だ。
「てことはその人、ジェットの操縦ができるってこと…ッ?!」
『そうそう。なんでも凄腕のパイロットらしいぜ。でも毎日仕事があるわけじゃないから、暇つぶしにギャンブルやったり俺と飲んだりしてるわけ。面白いやつだろ?』
「え、ええ。今度、会ってみたいわね…」
 だろだろ〜とかなんとか調子よく言って笑っているロックとしばらく話して電話を切る。
 …果たして自分はこの男と付き合っていて本当にいいのだろうか……。

 机の上の進路希望調査票は、まだ白紙のままだった。

 



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つづく…かもしれない


 


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