こってりデザート(走灰R-18)

□Sleeping Beauty
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 同棲している清瀬とのオフが久しぶりに重なった前夜。

 次の日の予定を気にしなくて良い夜に恋人とすることなんてただ一つ、と風呂から上がった走は鼻歌でも歌い出したいくらいの弾んだ気持ちで寝室に向かう。先に風呂を済ませた清瀬が待っているのだ。あまりやる気満々な空気を出しても引かれるかもしれないと扉の前で一旦深呼吸して心を落ち着ける。

「ハイジさん、お風呂頂きまし……」

 ドアを開けながらの台詞は途中で尻つぼみになって途切れた。ベッドの上で、清瀬が横になっていたのだ。
 倒れているのかと焦ったのは一瞬で、規則正しくゆっくりと上下する胸元の動きを見るにどうやら寝ているらしかった。

 忍び足でそろそろと歩み寄り、走はベッドに乗り上げる。
 スポーツ選手は身体が資本だ。眠りの質を落とさないように寝具はかなり良いものを使っていたから、マットレスは走の体重を難なく吸収して清瀬に振動が伝わることはない。

 起こさぬようにそうっと顔を上から覗き込めば、まだ髪の毛が湿っているのが分かる。これは清瀬には珍しいことだった。濡れたままにしておくと風邪を引く、というのが口癖でドライヤーなりタオルなりで乾かすのが清瀬の日課。走が濡れた髪を放っておいているのを見つけると、「まったくきみは」とぶつぶつ言いながらも乾かしてくれる。世話を焼いてくれるのが嬉しくてわざと髪を放置していることもあるのだけれど。

 このときの清瀬は髪を拭くつもりだったのだろうフェイスタオルを手に握ったままで、乾かす途中でどうやら寝落ちしてしまったらしかった。
 待ってる、と走には言ったもののコーチ業の疲れが溜まっていたに違いない。

「ちゃんと布団かけなきゃ、風邪引きますよ」

 走は呟くと、清瀬の手からタオルを抜いてやり足元で二つ折りにして畳んでいた掛け布団を引っ張り上げる。リモコン調節の利く照明を落として常夜灯をつけ、自分も寝ようかと思った。

 思った、のだ。

 けれど、ふと見やった先の、穏やかな寝息を立てる半開きの唇に視線が吸い寄せられてしまう自分がいた。
 薄暗がりの中で浮かび上がる、ふっくらとした口元のライン。重ねたときのその柔らかさを、温もりを、一度思い出してしまったらもうそのことしか考えられない。

 寝てるんだぞ、起こしたらどうするんだ。
 少しくらいなら、バレないって。

 主張する理性と、はしりたがる身体。

 ちょっとだけ、おやすみのキスをするだけ。
 湧き上がった欲求を結局抑えることはできなくて、走は清瀬の上に屈み込んでいた。

 唇と唇が触れ合う、しっとりとした感触。

 このところお互い大会やら取材やらで忙しくてろくに触れられていなかった分、乾いた大地に水が染み込んでいくみたいに心が潤って満たされていく気がする。
 1回だけのつもりが全然足りなくて、もっと欲しくなった。は、と息を継いでから角度を変えて口付けて、表面の微妙な凹凸を味わうようにさっきよりも強く唇を押し付けた。そのままいつもみたいに舌を滑り込ませて口付けを深めようとしたその時、呼吸を邪魔されて寝苦しかったのか、んん、と眠りの中で発された唸り声に走は我に返ると飛び退いた。

 ばくばくと煩いくらいに跳ねる鼓動を抱えた走の前で、清瀬は寝返りを打つ。走に背を向け、再び眠りの世界に落ちていった清瀬の呼吸は変わらず穏やかなままだ。

 走はごくりと唾を飲み込む。晒されるうなじの白さが妙に目に焼きついてしまって離れない。惹き寄せられるようにして頬を近付け鼻先を襟口に突っ込んでみれば、石鹸の香りを仄かに立ち上らせた清瀬の肌の匂いが鼻腔をくすぐった。

 温もりを放つ素肌に唇を這わせ首筋を辿っていく。耳の先を唇の先で軽く食み、息を吹きかければ清瀬は鼻を鳴らして身じろいだ。後ろから回した手で服の上から胸元の尖りをくすぐり摘まんでということを繰り返すうちに、寝間着越しにも突起が性感に膨れてくるのが感じられる。

 もぞりと内股がすり合わせられる動きに、もしかして、と思い布団を捲ってみた。下腹部へと手を伸ばしてみれば中心は緩く熱を持っていて。いくら感じやすいところを狙って触れていたとはいえ、これは感度が良すぎる。

 ハイジさんも溜まってたのかな、なんて考えがふとよぎった。
 なら、ここで中途半端に終わらせてしまうのは清瀬にとっても生殺しなんじゃないか。
 言い訳めいたことを頭の中で並べ立て、そっと下着の中に手を滑り込ませると兆しかけていた清瀬のものを手のひらで包み込んでやる。

 起こさないようにゆっくりと、けれど気持ちよくなるように。
 徐々に愛撫のペースを上げていくうちに、清瀬の口から漏れ始めるのは感じ入った切れ切れの呼吸。緊張した足先がシーツを引っかき、肩が震えたその時だった。

「ん……ぅ、ぁ、かけ、る」

 眠りに落ちた意識の中、舌足らずな声がそう呼ぶものだから走は思わず手を止めた。
 起きたのか、と清瀬の顔を伺うが長い睫毛に縁取られた目蓋は閉じたままで、名前を発した唇からはため息のようなものを零しただけで睡眠中の深い呼吸が繰り返されている。

 間違いなく、眠っている。
 つまりは無意識下で走の名を口走った、そういうことか。

 なんだよ、それ。
 走はぶわりと頬が熱くなるのを感じた。
 頬だけじゃない。無防備に乱されている清瀬を前に、欲がはっきりとした形となって走の中で渦巻き始める。

 ああもう、と半ばやけくその気分で走は手の動きを再開させた。溢れた先走りを塗り込めるようにして上下する手を速めていき、ぱくぱくと開閉を始めた先端の穴をぐりりと親指で刺激してやれば、呆気なく決壊した清瀬の中心から白濁が迸る。
 しばらく出していなかったのか、手のひらに絡みつく粘つきはいつもより濃い気がした。余韻に浸るように小さな痙攣を繰り返す腰つきに加えて、ん、とか、あ、とか細く上がる声がやたらと色香を漂わせているものだから目と耳の毒だ。

 ここまでしても起きないなんて、よっぽど疲れていたのかもしれないけれどもうそんなことはどうだってよかった。自分が吐き出す息が荒くなっていることに、走は気が付く。
 恋人が自分の手で上り詰め反応していく姿を見て興奮しない男なんていない。すっかり熱くなり昂ぶった思考に流されて、指先に纏ったぬめりをそのままに清瀬の後ろへと指を伸ばす。

 最後にセックスで使ってからしばらくが経っていたから、すっかり閉ざされてしまっているだろうと思っていたそこは、走の予想を大きく裏切ってすっかり緩く解れて潤っていた。

『部屋で待ってる』

 走と風呂を交代するときにそう言って浮かべた清瀬の微笑みが蘇る。
 あのとき既に自分で準備を終えていたと、そういうことなのか。

 そうでなければ、いくら開発された身体とはいえいきなり男の指が三本も入るはずがない。内壁の縁をなぞって指の腹を滑らせても清瀬は痛がる様子を見せるどころか、腰をもぞりもぞりと動かして指先を自分の良いところへと案内しているかのような動きをする。鼻から抜ける吐息がどうしようもないくらいに色っぽい。物欲しげに吸い付いてくる内部の柔らかさを意識してしまったが最後、我慢は利かなかった。

 清瀬の身体を俯せにするとズボンを下着ごと引き下げ、走は自身の屹立を露出させる。

 期待してた、ってことで良いんですよね、ハイジさん。

 心の中で呟いて、擦って立たせる必要がないほどすっかり臨戦態勢になったそれを清瀬の尻の割れ目に押し付けた。自分でも引くくらいに溢れる先走りが、かき混ぜたせいで中から漏れてきたローションと混ざり合ってぬちょぬちょと音を立てる。
 そうやって先端への微弱な刺激を味わってから、少しずつ中へと埋めていく。熱く引き締まり、でも優しく包み込んでくるこの感触は何度経験しても飽きない。
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