紅の涙
□第2話
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肌に何かが擦れる感覚と鼻に付く独特な匂いを感じて、重たい瞼をゆっくりと開いた。
ぼんやりとした視界の中、わかるのは白い部屋に寝かされているということだけ。
私、森にいたんじゃ…?
徐々にはっきりとしてきた目でぐるりと部屋全体を見ると、すぐ側で誰かが眠っているようだった。
窓から流れる風に揺られ、日光を浴びたかのような見事な金髪を持つ青年が椅子に座ってうたた寝をしている。
全く知らない人物ではあるが、精巧な顔つきに見たことのない髪色からまじまじと見つめてしまう。
こんな髪色の人がいるんだ、きれいだな…
そう思っていると、不意に体が傾いだ青年がベッドの柵に頭を打ち付け、痛みと驚きからか声にならない悲鳴をあげた。
随分と痛そうな音が聞こえ、柵から振動が伝わってくるのを感じてなんだかこちらも額が痛くなってくるようだ。
しばらく青年は額を抑えて震えていたが、打ち付けた箇所を摩りながらこちらに気付いたようで、蒼い瞳を潤ませながらへにゃりとした笑いを浮かべ話しかけてきた。
「目が覚めたんだね、体の調子はどうだい?どこか痛いところとかはない?」
「私は大丈夫です。私よりもその…おでこ、大丈夫ですか?」
「あはは、情けないとこ見られちゃったかな…ん、大丈夫だよ、こんなのへっちゃらさ」
笑う青年に心配になるが、それよりも気になることが多くある。
「あの、ところで貴方は…?それにここは…」
「ああ、自己紹介がまだだったね。俺は波風ミナト。ここは木の葉隠れの里だよ、ちなみに俺はここの忍びだ」
木の葉隠れの里。豊かな土地を持ち、優秀な忍を輩出することで有名な里だ。
昔母から聞いていた、両親の住んでいた国と友好的な関係にあった国で、困ったことがあったら木の葉に行くといいと再三言われていたのを思い出した。
奇跡的に両親の言いつけを守ることができていたらしい。
「そうですか…私はうずまきナギサです。私のいたところ…は………!」
あの日の村での光景、父の背中と母の微笑みを思い出して急いでベッドから降りようとするも、膝に力が入らず床に座り込んでしまった。
波風さんに抱えられベッドに戻された私は、シーツをきつく握りしめる。
「駄目だよ、大人しくしないと!まだ傷も癒えきってないんだよ!」
「でも、お母さんとお父さんが…!どこにいるんですか?病院にいるんですよね?!」
「っ…それは…」
言葉を詰まらせ目を伏せた波風さんを見て察した私は、どこかが割れるような感覚を覚え脱力する。
両親が…もういない…?後から来ると言っていたのにどうして…?なんで、どうして…どうして…!
じわりと滲む視界を遮り、体を丸めて唇をきつく結んだ。
「…君を保護した後、部下に村の様子を見てもらったんだ。でも、生存者はいなかった…」
「…赤い、髪の人も…ですか…?」
「…お互いを守るように重なっていたよ、2人とも」
仲睦まじかった両親はいつも慈しみあっていて、村の人から呆れられるほど仲が良かった。
村に猪が迷い込んできた時も、襲われかけた母を庇った父。
不作が続いて村のみんなが荒んでいる時に、謂れのない罪を被せられそうになった父を助けた母。
死に際もお互いを守ろうとしたことを知って、我慢していた涙が頬を伝う。
包帯の巻かれた手で涙を拭うも、壊れたダムのように止まることはなかった。
頭に感じる大きな手の温もりが、記憶の中にある父とは違う手つきで更に涙が溢れるのだった。