紅の涙

□第3話
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「今日から私があなたのお母さんになるってばね!」



今私は波風さんの家に居候している。

数日入院した後、ある程度怪我も良くなりあとは軽い傷のみで歩行にも問題はないため、退院することになった。

しかし元々外の人間である私は住む場所はもちろんのこと、一応幼くともスパイであるという可能性が捨てきれないため監視が付くことになったのだ。

そのため家と監視の二つを同時にこなすために、奥さんのいる第1発見者の波風さんの家にお世話になることになったのだ。

少しだけ慣れた家の匂いに安心しながら、目の前で湯気の立つ料理を頬張り夜を過ごしていた。



それはさておき、私には今お母さんができたらしい。


「こんな可愛くて礼儀正しい子、なかなかいないってばね!家も人手もうちにいれば解決するし、可愛い娘ができるしでまさに一石二鳥!」

そう言って私の首に抱きついてガッツポーズをしているのは、居候先のミナトさんの奥さんである旧姓うずまきの波風クシナさんだ。

事前に私のことは聞いていたらしく、最初にこの家に来た日は泣きながら抱きつかれてしまったりした。

その後は居候させてもらっている身なので、簡単ではあるけれど家事を手伝っていると何度も良い子だと連呼され今に至る。

「あの、そんな急に…」

「大丈夫!ナギサは何も心配することないわ!私とミナトにドーンと任せるってばね!」

「ええっと…」

あまりの勢いの良さに言葉がうまく出てこない。

村にはあまりこういったタイプの人がいなかったために、耐性がないナギサは混乱していた。

「クシナ、ちょっと待って。急に答えを急くようなことはしちゃダメだ。一旦落ち着いて」

まるで天の声にも聞こえるミナトさんの言葉に安堵する。

少し不満そうな顔をして名残惜しそうに体を離したクシナさんは、ミナトさんの座っている隣に腰かけた。

「ごめんね、ナギサ。急に母親になるだなんて言い出しちゃって」

「いえ、大丈夫です。…嬉しいですから」

そう言うと、クシナさんは驚いたように目を大きく開き、次いでうつむいて震えだしたかと思うとガバッと机越しに抱きついてきた。

予想外の動きに驚いたのと想像以上の力に驚きながら強く抱きしめられる。

「…うぐ、くるし…っ、クシナさ…!」

「クシナ、それだとナギサを抱き潰しちゃうから!力抜いて抜いて!」

あまりの苦しさにうめき声が出ると、気付いたのか慌てて波風さんが止めに入る。

緩まる力に詰まった息を吐き出し、深呼吸をして椅子に座った。

クシナさんは相当嬉しかったのか、未だに立ったまま拳を握りしめ天を仰いでいる。

「…ナギサ、さっきのは本当だってばね?!嬉しいって!本当?!」

「は、はい、本当です」

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!じゃあ、その、娘に…私の娘になってくれるの…?」

「…はい、お二人がいいと言うなら、ぜひ」

嬉しそうな表情から一変して真剣な、どこか不安げな表情をしたクシナさんに、力強く頷く。

両親が亡くなって身寄りのない私には、頼れるところなんてない。

ただ発見者というだけで保護者役を買って出てくれた2人には、本当に感謝しているのだ。

頷いた私を見たクシナさんは、波風さんと顔を見合わせ頷きあった後、椅子に座りこちらに向き直る。

「…ナギサ、ありがとう。これからは家族として、よろしくね」

微笑みながら差し伸べられた手に、自身の手を重ねる。

ぎゅっと握られた手は暖かくて、安心するような優しさが込められていた。

「はい、よろしくお願いします。クシナさん、波風さん」

隣に座る波風さんとも握手を交わし、この関係を確認する。

すると何か気になったのか、悩むような仕草でこちらを見てくる波風さんに首を傾げた。

「…ん〜家族になるっていうなら、『波風さん』はやめてほしいなあ」

クシナは『クシナさん』なのに俺は苗字…と言って落ち込む波風さんに、慌てて言葉をかける。

「あの、えっと、み、ミナト…さん…」

「ん、これからよろしく、ナギサ」

にこりと笑顔を返され恥ずかしくて照れていた私は、なんだかおかしくなって笑いが出る。

それにつられたのか、クシナさんも笑い出して最後は三人で顔を見合わせて笑った。

両親はまだ亡くなったばかりで傷も癒えたわけではないけれど、二人といればいつかは乗り越えられる気がする。


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