長編その2

□学園祭
12ページ/12ページ

部屋に戻ると香はドアに寄りかかりながらずるずるとその場に座り込んだ。
思い出すと胸がまたドキドキして、顔が熱くなっていった。

「好き」

小さく呟くと、ぽわんと自分の身体のどこかで小さな好きが膨らんだ気がした。
それがどんどん膨らんでいって、身体中が好きでいっぱいになった。
きっと今抱きしめられたら、好きが身体中から溢れ出してしまうくらい、好きでいっぱいに満たされていた。
那月も部屋に戻ると「どうだった?」と聞いた翔をぎゅっと抱きしめた。

「な、なんだよ」
「………はぁ……早く卒業したい…」
「はいはい。わかったから離せ」

翔を抱きしめながら、香はもっとちっちゃかったな、とかもっと柔らかくていい匂いがしてたなとか思い出していた。

「お、おい!お前、どこ触ってんだよ!」
「翔ちゃんのお尻硬い…」
「当たり前だろ!あっ!おま、もしかして河嶋のケツも触ったんじゃねえだろうな!」
「触ってないですよぉ〜」
「本当か!?って、俺のケツを揉むな!」

翔はなんとか那月から離れて「全く!」とプリプリ怒って乱れた服を手で直した。

「で?お前の悩みは解決出来たのか?」

那月は「それが…」と香と森山の話をかいつまんで翔に話すと、翔は「はあ?」と素っ頓狂な声をあげた。

「なんで森山がそんなことに口出してくんだよ。関係ねぇじゃねえか」
「かおりちゃんもそう思いつつも、言ってることは正しいって感じてしまったみたいで…それと強く咎められたことで萎縮してしまって」
「ただの嫉妬だろ。自分が仲良く出来ねえからって」

翔が怒ってくれると那月も「そうですよね」と同意して頷いた。

「河嶋はなー単純っつーか、素直過ぎるんだよな。悪意も好意だって言われたらそうかって受け取っちゃうっつーか」
「そこがいいとこなんですけどね。今回も自分のことじゃなくて僕たちのことだから余計って感じでしたし」
「だよなぁ…でも、だからこそ、やっぱり森山のしたことは駄目だろ。河嶋がそういう奴だってわかってて、そういう言い方したんだろうし」
「僕、森山くんに話しに行こうかとも思ったんですが、逆撫でしてかおりちゃんに何かあってもやだし…」
「だよなぁ…」

しばらくは2人が近づかないように気をつけて見ていくしかないか、という結論になり、翔もクラスでの様子を見ておくからと言ってくれた。
次の日から翔は休み時間や授業中の森山を観察していたが、人当たりも良く香にそんなことを言ったりするようには見えなかった。

「翔はもう少しさりげなく、が出来るといいですね」

目の前にトキヤが立つと翔は「バレバレだった?」と恥ずかしそうに笑った。

「多少、不自然ではありました」
「まじか」
「あれから何かあったんですか?」
「実はさ」

翔は那月から聞いた話をトキヤにすると「なるほど」と言ってチラリと森山の方を見た。

「そういう奴には見えねえけど、人ってわかんねえもんだな」
「…彼はプライドが高そうですからね。河嶋さんが自分の思い通りにならないのが面白くないのかもしれませんね」
「そういうこと?好きだから独占したいとかじゃなくて?」
「そんな可愛らしいものではないですよ」
「ほえぇ…」
「エスカレートしないといいんですが」

翔はトキヤの言葉にぞくっとして、心配そうに森山を見た。
爽やかな笑顔でクラスメイトと話しているのが余計に怖く感じた。
一応注意してみていたが、数日は特に何かしてるわけでも香に近づこうとしてる様子もなく、課題やテストの日程が発表されるとだんだん気にすることもしなくなっていった。

「まさか学力テストあるなんて…」

音也はテストの範囲の書かれたプリントを見て大きくため息をついた。

「学力テストと言っても中学の復習みたいなものだろう」
「常識問題みたいな感じですし、基礎がわかっていれば大丈夫ですよ」
「その基礎がわかってないから困ってんじゃん…」
「私も数学はちょっと厳しいかも…もう半年も勉強らしい勉強してないし」
「あたしも〜…」
「私も…」
「お前たちはついこの間の話だろう」

真斗は呆れたように笑って、勉強会をしようかと提案してくれた。

「僕も数学なら教えられますよぉ」
「マサ〜!那月〜!!よろしくお願いします!」

早速その日の放課後、6人は図書室に集まってテスト勉強をすることにした。
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ