長編その2

□ハッピーバレンタイン
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音也のステージも大成功で拍手が大きく響いた。
そのあとの友千香もキラキラした可愛くて、だけどかっこいいステージを披露し大成功に終わった。
審査と投票が始まり、その間に香は那月と一緒に用意されていたお昼ご飯を食べた。
みんなもそれぞれパートナーと一緒に発表までの時間を過ごしていた。

「ドキドキするね」
「うん」
「……でも、大丈夫って思う」
「…うん」
「那月くん、最高のステージだったもん」
「ありがとう。僕も、そう思う」

2人は顔を見合わせてクスクス笑った。
ドキドキはしつつも、穏やかに発表の時を待つことができた。
予定より30分程押しての結果発表となり、壇上には出場順にペアで並んだ。
両親は香と那月の姿を見つけると小さく手を振ってきて、2人も小さく笑ってこっそり手を振った。
ステージの中心に早乙女がフライングで登場すると、短い挨拶をしてからにっと笑った。

「面倒なことは抜きにして、最優秀賞!つまり優勝者の発表をしちゃいましょーうね!」
「シャイニー!段取りってのがあるのよぉ!」
「ノンノン!こういうのは勢いが大事でぇす!ドラムロールッ!」

早乙女がパチンと指を鳴らすと会場にドラムロールが響いて照明が落ちると、緊張感が会場を包んだ。
香は手をぎゅっと握って祈るような気持ちでドラムの音を聞いていた。
ドラムロールが止まると、パッと照明が眩しく2人を照らした。

「21番!四ノ宮、河嶋ペア!」

会場の歓声が響いたが、香と那月は一瞬何が起きたかわからなくなって目を丸くさせて顔を見合わせた。

「那月!香!おめでと!」

ふたつ隣にいた音也が祝福してくれて、やっと2人は自分たちが優勝したことを理解した。

「…!」
「かおりちゃん…!」
「な…なつきくん〜…!」

香は那月の手を握って「良かったぁ」と涙をぽろぽろとこぼした。

「やった!」
「やったわ!あなた!やった!」

観客席で両親も抱き合って喜び、大きく拍手を贈った。

「曲、歌詞、歌、編曲において文句なしの優勝だ。あえて注文するとしたら、もう少しダンスの練習が必要だな」

早乙女の講評に那月は恥ずかしそうに笑って頷いた。
審査員、龍也からも講評をもらい、那月と香はそれを聞きながら何度も顔を見合わせて頷いた。
優勝のトロフィーと賞状を受け取ると、早乙女は「まだまだ重大な発表がありまーす!」と言って不敵に笑った。
林檎は「聞いてないわよ!」と龍也に小声で文句を言うと「諦めろ」とだけ言われてしまった。

「今年は優秀な生徒が多く、優勝は逃したものの即デビューしてもおかしくない!このままではもったいない!そこでぇ!」

早乙女はパチンと指を鳴らすと、6つのライトがステージ上に向けられた。

「優勝の四ノ宮!それから聖川真斗、一ノ瀬トキヤ、来栖翔、神宮寺レン、一十木音也!この6人はアイドルグループユニット、ST☆RISHとしてデビューすることにしまぁす!」

早乙女の突然の発表に龍也は頭が痛いと顔をしかめ、ステージ上の6人も何がなんだかわからないという顔で立っていた。

「ちょ、ちょっと待って、ボス。オレもデビューするってことかい?」
「イッエース!ユーもとっても素晴らしいステージでした!」

レンは珍しく動揺した顔を見せていたが、音也は春歌と一緒に喜んでいた。
困惑した空気は全く気にせずに早乙女は「作曲はミス河嶋と、同じくらいの高評価だったミス七海にお願いしまぁす!」と言って春歌をぴっと指差した。

「それでは!!素敵なオーディションでしたね〜!お疲れ様でぇした〜!!」

早乙女は驚かせるだけ驚かせてさっさといなくなってしまった。
林檎は慌てて「そ、そんなわけで、えっと、詳しい情報は後日お知らせします!それでは!今日はありがとうございましたあ〜!」と言って締めた。
控室に戻ると、指名された6人は顔を合わせてどういうことかと話した。

「俺たち6人でデビューするってことでしょ?すごい!」
「…すごいって…私はグループで活動するなんて考えていませんでした」
「オレも。ボスには悪いけど、オレには向いてない。断るつもりだ」
「でも、すげえチャンスだろ!デビュー出来るんだぞ!?しかも河嶋と七海の曲で」
「ああ。理想の形ではなかったとしても、プロの世界でアイドルとして活動出来るのならこのチャンスを、俺は大事にしたい」
「…僕は…僕も、こんな形は望んでいたわけではありません。それに」

那月は不安そうな顔をしている香をちらっと見て眉間にシワを寄せた。

かおりちゃんの曲は僕だけの。

その言葉は飲み込み、少しの沈黙が流れた。
香と春歌はどうしたらいいのかわからなくて、黙ってそこに立ってあるしか出来なかった。

「とにかく、オレはやらない」

レンがそう言うと、そこに龍也がやってきて揉めてる空気に割り込んだ。

「やらない、やりたくない、無理。気持ちはわかるが、これは決定だ。お前達はST☆RISHとして6人グループのアイドルでデビューする。デビュー日は4月7日。これも決定。河嶋、七海はST☆RISHのデビュー曲にすぐ取り掛かってくれ」
「ちょっと待って。いくらリューヤさんの命令でも」
「これは社長の命令だ」
「……いくらボスの命令でも」
「私も反対です。私たちはソロでのデビューを目指して」
「ソロでやりたいことはグループになっても出来る。大事なのは、デビューできるチャンスをどうとるかだ」

龍也の言葉に、音也と翔も「そうだよ」と同意した。

「このでかいチャンスを活かそうぜ!」
「学園祭でも、俺たちすごかったじゃん!俺たちならきっとすごいグループになるよ!」

2人の言葉に、真斗は頷いたがレンとトキヤ、そして那月は顔を顰めて俯いてしまった。
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