長編その1 @
□年末年始
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那月から送られてきた診療所になんとかタクシーで向かって、案の定インフルエンザの診断を受けて帰ってきた。
薬局で買ったOS-1が重たくて、玄関のドアを閉めるとその場でへたりこんでしまった。
「…うう…辛い…」
関節は痛いし身体は重いし頭は痛くて寒気もする。
それでも薬を飲んだし、とあとは寝てるしかないと香は何とか寝室へと向かった。
OS-1を飲んで布団に潜り込むと、またすぐに眠りについた。
那月が帰ってきたのは23時を過ぎていた。
マスクをしたまま、そっと部屋を開けると顔を真っ赤にして辛そうに寝ている香がいた。
「香ちゃん…」
汗で張り付いた髪を避けてタオルで拭くと香はパチと目を開けた。
「香ちゃん、大丈夫ですか?」
「…な…つきくん…うつっちゃうから…」
「うん。今日は翔ちゃんちに泊めてもらうね」
「…うん…ごめんなさい…大事なときに…」
「大丈夫。お腹空いてない?何か食べた?」
「…ん…あんまり、食べたくない…」
「ゼリー買ってきたよ。プリンもあります。何か食べましょう?」
「…はい…置いといてください…那月くんはもう…」
香は布団に顔を半分隠して、那月に早く翔の家に行くように言った。
「大丈夫です…私も、プロですから」
香はそう言って笑うと、那月は困ったような顔で香の髪を撫でた。
「香ちゃん、何かあったら絶対電話してね」
「はい、その時はお願いします」
「…じゃあ…また明日の朝様子を見にくるから」
「ダメです、皆さんにうつすかもしれませんし…私は薬も飲んだしすぐ良くなるから大丈夫です…明日のカウントダウンもちゃんと観れます」
「…うん…」
「来栖さんちに入る前にちゃんと消毒して…マスクも替えてって…ちゃんとうがいもしてくださいね」
「うん。ちゃんとします」
那月は名残惜しそうに香を見つめるが、香が困った顔をするから仕方なく部屋を出ていった。
「どうだった?」
先にシャワーを浴びていた翔が頭を拭きながら、戻ってきた那月に聞いた。
「…顔が真っ赤で可哀想でした…」
「まじか〜…」
香に言われた通り、うがいをしてからそのままシャワーを浴びさせてもらい、持ってきたパジャマに着替えた。
「本当は明日、少し様子を見に行こうと思ってたんですけど断られてしまって」
「ん〜…まあ、逆の立場ならそういうだろうしな」
「…はい…でも心配です」
「香さんもプロだから俺らがあーだこーだやるより大丈夫かもよ?」
「…それは…確かにそうかもしれません」
那月はベッドの周りに、OS-1と体温計と薬とティッシュとタオルと冷えピタをちゃんと置いてあったのを思い出した。
「なんかあったら電話くれるだろ」
「はい、そう言ってました」
「俺たちも寝ようぜ。心配なのはわかるけど、俺たちだって明日はすげー忙しいし。お前がしっかり休めなくてなんかあったら香さんが気にするぞ」
翔の言葉に那月は頷いて翔が敷いてくれた布団に寝転がった。
眠れそうにはなかったけど、寝ないと、と那月は目を閉じた。