長編その1 @

□年末年始
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香はアラームが鳴ると目を開けて、テレビをつけた。
あと少しで紅白歌合戦が始まる。
香は寝転がりながら那月が出るのを待っていると、スマホが鳴った。

「那月くん」
『香ちゃん、調子はどうですか?』
「だんだん良くなってます。那月くん、もうすぐ出番ですよね?大丈夫ですか?」
『はい。でも、もう電話出来ないかもしれません』
「そうですよね」
『だから、今のうちに電話しました』
「ふふ、嬉しいです。那月くんが出るのをちゃんと観てますね」
『はい!かっこいいとこ見せちゃいます!』
「楽しみです」

香がクスクス笑っているのを聞いて、那月もほっと笑顔を浮かべた。

『香ちゃん、僕は今年香ちゃんに出会えて本当に素敵な年になりました』
「那月くん。…私も、そう思います」
『出会ってくれて、僕を選んでくれてありがとうございます。来年も、素敵な年にしましょうね』

那月の言葉に香は嬉しくて、泣きそうになってしまった。

「那月くん…私の方です。私のこと、好きになってくれて…ありがとうございます…来年も、よろしくお願いします…!」
『はい!こちらこそよろしくお願いします!』

電話の向こうで那月を呼ぶトキヤの声が聞こえた。

『あっ!ごめんなさい、そろそろ。じゃあ、僕のことだけ、観ててね』
「はい、那月くんのことだけ観てます」

電話を切って布団に潜り込んで、幸せを噛み締めていた。
今年は本当に色々あった。
那月と出会って、幸運なことに好きになってもらえて、恋人になって、色々辛いこともあったけどいつも那月がいてくれた。
薬指に光る指輪が嬉しくて、黄色の石にちゅっとキスをした。
うっとりとダイヤを眺めていると、紅白歌合戦が始まった。

「あっ!」

香は布団をかぶりながら起き上がり那月の出番を待った。
今年の紅白の司会は林檎と龍也。
2年連続で選ばれた2人は、息のあった掛け合いで早速場を盛り上げていた。
そしてゲスト審査員の紹介が始まると、香はつい

「げっ」

と声を出してしまった。
ドラマや舞台で活躍中と紹介されたのはあの胡桃だった。

「げっとか言っちゃった…。いけないいけない」

香はぶんぶんと首を振った。

那月くん、知らなかったのかな…。
知ってたけど言わなかったのかな…。

香がそう思っているとき、那月は舞台袖でレンの肩に寄りかかっていた。

「シノミー、重たいよ」
「…香ちゃんに観ててねって言っちゃいました…」
「あーあ」
「四ノ宮さんはそういうとこですよ」
「知ってたのか?ゲスト審査員に彼女がいたのを」
「知りませんでしたぁ…全然気にしてなかったんですもん…」
「…まあまあ、大した絡みもねえだろうし、大丈夫だろ」
「ナツキ、ドンマイ」

6人は那月のお尻をべしべし叩いて、スタンバイについた。
那月はお尻をさすりながら、最後にスタンバイについて、深呼吸をした。
ST☆RISHは春に出した曲を歌った。
香にとって初めてちゃんと聞いた曲で、那月からプレゼントされた思い出の曲。
それが嬉しくて、香はうっとりと那月を目で追った。
カメラが那月をアップで撮ると、ちゅっと投げキッスをしてくれた。

「ああ〜〜〜〜那月くんかっこいいぃ〜!!」

おそらく全国の那月ファンが同じように転がっているだろう。
香もジタバタと足をバタつかせて身悶えていた。
ST☆RISHの歌が終わって、次は紅組、3人組のアイドルが歌い終わるとステージに出て挨拶をしてくれた。

「ST☆RISHは今年5つの都市でツアーを行い、10万人の観客動員数を記録しましたね〜!ST☆RISHのみんなにとって今年はどんな年でしたか?」

林檎がそう聞くと、7人は頷いて一人一人答えていった。

「はい!今年は初めて名古屋にも行けたのでとっても楽しかったです。来年は日本全国全都道府県ぜーーんぶ行きたいなって思ってます!」
「俺は今年は舞台が多く、自分とは真逆の役もたくさん演じることが出来、勉強になった一年でした。来年ももっと新しい世界に飛び込んでいきたいと思います」
「僕はこの一年、本当に色んなことがありました。色んな人に助けられて周りの人にたくさん感謝しています。とってもとーってもハッピーな一年でした!来年ももっともーっとハッピーな一年になるように頑張ります!」
「私は出身地の福岡でライブをしたときに誕生日をお祝いしていただきました。とても素敵なサプライズをいただいたので、来年はファンの皆さんに私からサプライズをしたいなと思っています」
「だんだん一年があっという間に感じるようになってきたよ」

レンがそういうと龍也は「お前、それはまだ早くねえか?」とつっこみ、笑いがおきた。

「じゃあこれからもっと早く感じるようになるのかな。あっという間に過ぎちゃうのは勿体ないから、来年は1日1日を大事にして子羊ちゃんとの時間を噛み締めていきたいな」
「俺はやっぱりツアーがすごく楽しかった!音也も言ってたけど来年、は難しいかもしんないけど、いつか絶対全都道府県制覇したいなって思ってる!」
「イエス!全国のプリンセスにワタシ達の歌を届けたいです。今年はこうして紅白歌合戦にも出ることが出来て、タイケイシゴクに存じます!」

「あらぁ!セシルちゃん、難しい言葉知ってるわね」
「イエス!マサトに教わりました!」
「音也、お前意味わかるか?」
「えっ!?ちょ、ちょっとセシル〜!!難しい日本語使わないでよ〜!!」

音也の恥ずかしがりながら困っている顔がアップになると香はクスクス笑った。

「それでは、次はST☆RISHの先輩グループ、QUARTET NIGHTの登場です」

ST☆RISHが手を振ると、QUARTET NIGHTにカメラが替わった。
ST☆RISHの先輩というだけあって、4人ともとてもかっこよくて香も「かっこいいなぁ」と呟いた。
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