長編その1 @

□年末年始
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「…ふぅん。じゃあ今一緒に暮らしてるってこと」
「は、はい…」

楽屋の真ん中で那月は藍の前に青い顔で正座をしていた。

「で、キミ達もそれは知ってた、と」
「は、はい」

那月の後ろに正座させられた6人も同じように青い顔をしていた。

「ふぅん…」

じっと見下ろす藍の視線に7人はもう何も言えずに固まってしまっていた。

「…ふっ」
「ふはっ!」
「あはは!もうダメあはははは!!」

藍の後ろで座っていたカミュ、蘭丸、嶺二は我慢出来ずに吹き出してお腹を抱えて笑いだした。

「ちょっと早いんじゃない?撮れた?」
「あはは!と、撮れた撮れた!みんなすっごい青い顔して…あははは!!」
「嶺二見せろ、ふはっ!なっさけねぇ顔しやがって」
「美風、ちゃんと話してやれ。まだ飲み込めてないぞ。ふふ」

藍はにっと笑って那月の肩を叩いた。

「ドッキリ大成功〜」
「えっ」

那月も6人も同じくらい驚いた顔で、藍の顔を見上げた。

「ナツキに彼女がいることくらいとっくに知ってるよ」
「えっ!?」
「レイジから聞いた」
「えっ、あっ!」

那月は映画の舞台挨拶の日のことを思い出した。

「アイアイは知ってるよね〜って聞いたら知らなくってさぁ、ごめんねなっつん」
「で、今こそこそ出てったから、ちょっとからかってやろうぜって」
「驚いたであろう」
「先輩に隠し事するからだよ、ナツキ」


悪戯が成功した時の子供のような笑顔で、藍は那月の鼻を指で突いた。

「よ、よかった〜〜〜俺本気で焦ったぁ〜〜」
「し、心臓に悪いです…」
「歌詞が飛んでしまった気がする」
「趣味が悪いよ、アイミー」
「ってか、皆知ってたんすか!?」
「知ってるならそう言ってください!」

6人ははぁ〜と崩れて安心したように笑ったが、那月は笑えずに正座をしたままじっと藍を見上げていた。

「どうしたの、ナツキ。別に怒ってないよ。真面目に付き合ってるんなら別にいいよ」
「…あ、いえ、あの…」

那月はぽろっと涙を溢した。

「えっ」
「えっ、なっつん!?」
「おい!黒崎!泣かせてどうする!」
「俺じゃねえよ!」
「な、那月、泣いてるの!?」
「四ノ宮さん、誰も責めてなんかないですよ?」
「四ノ宮、そんなにショックだったのか」
「あ〜あ、先輩達が泣かせちゃった」
「那月、もう大丈夫だから落ち着けって」
「カミュが悪いですね、全部カミュが悪いです」
「愛島ぁ!」

那月の涙に、皆慌てていたが、那月は涙を拭いてにっこりと笑った。

「良かったぁ〜…!」

那月は本当にホッとしたように胸に手を当てた。

「藍ちゃん達に隠してたのずっと辛かったから、本当に良かったです」

「ナツキ…」
「今度藍ちゃんたちにも香ちゃんを紹介しますね!すっごく可愛くて優しくてとっても素敵な人なんです」
「さっそくのろけ?」
「なっつん、写真ないの〜?」
「ありますぅ〜!」
「どれ」
「見せてみろ」

那月は嬉しそうに香との写真を4人に見せた。

「ふぅん。…悪くないね」
「お似合いだねぇ〜」
「怒ると怖そうだな」
「香ちゃんは怒らないですよ〜」
「何をしている女だ」
「香ちゃんは今はちょっとお休み中なんですけど、看護師さんなんですよ〜」
「えっ!ナース!?」
「ナースか」

「あっ、嶺ちゃんと蘭丸先輩は俺と同じ趣味だぁ」
「食いつきがすごいな」

「ナースさんなんだぁ〜そう思うとなんか更に可愛く見えるね」
「えろそうだな」
「ふふ〜どうでしょう〜」
「おっ?なっつん、それは意味深な笑いだね。お兄さんに聞かせてごらん」
「内緒です〜」

那月が先輩達に香のことをのろけてるとは夢にも思わずに、香は今頃もしかしたらものすごく怒られているかもしれないと思うと気が気じゃなかった。
そのせいかわからないが熱が上がってきてしまい、布団にくるまっていると電話が鳴った。

「も、もしもし!」
『香ちゃん!さっきはごめんなさい』
「だ、大丈夫でしたか?」
『はい!ふふふ、今度先輩達にも香ちゃんのこと紹介させてくださいね〜』

那月の言葉に香はホッとした。

「よ、良かったです…お、怒られてたら、どうしようかと…」
『大丈夫でした。僕もすっごくドキドキしたんですけど、真面目なお付き合いならいいって。仕事に支障も出てないし、私生活を支えてくれてるんならいいんじゃないって藍ちゃんが言ってくれました』
「良かった…良かったです…」
『ふふふ。風邪が治ったらお家に招待しますね』
「はい!…驚きすぎて熱が上がっちゃいました〜」
『えっ!?大丈夫ですか!?』
「あっ、薬飲んだので大丈夫です」

香は38.9度の体温計を見て、那月には嘘をついた。
全然大丈夫じゃないけど。

「そろそろですよね。楽しみにしてます。頑張ってくださいね」
『はい!』

那月は電話を切って、また控え室へと戻っていった。

「香さん、どうだった?」
「ホッとしてました。でも驚きすぎて熱が上がっちゃったみたいで」
「えっ!?本当!?ごめんねなっつ〜ん!」
「風邪ひいてんのか」
「はい。インフルエンザみたいで。だから昨日は僕翔ちゃんちに行かされちゃって…」
「彼女が正しいね。同じ部屋にいたら感染する確率があがるでしょ。言っておくけど、解熱してから2日、もしくは発熱した日を0日として5日は接触不可だよ」
「ええっ!?そ、そんなにですかぁ!?」
「当然。来月もまだ当分忙しいんだから、気をつけないとダメだよ」
「は、はい…だから、香ちゃんしばらくダメって言ってたんですね…」

那月はしゅんと肩を落とした。

「でも、ま、安心したよ。そういう時でもナツキのこと考えてくれる人なら大丈夫そうだね」

藍はそう言って優しく笑った。
しばらく接触不可にがっかりしていた那月だったが、藍の言葉に嬉しくなって、笑顔で頷いた。

いよいよ、カウントダウンライブが始まる。
11人はバックステージで円陣を組んで、ハイタッチをしてからスタンバイについた。
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