長編その2

□海水浴
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お土産のお菓子の話や、地元の写真を見せては実家での話をみんなで話した。
それから課題曲の話になり、香と春歌は帰省中に曲を完成させたと話した。

「聞きたいな!」
「そこのピアノ使っていいかな」
「誰もいないしいいんじゃない?」

それじゃあ、と最初に春歌がピアノに座って作ってきた曲を弾いて聞かせた。
元気いっぱいな明るい曲は音也にぴったりで、音也は嬉しそうに聞いて身体を揺らしていた。

「すごいすごーい!やっぱり七海の曲好き!早く歌いたいな!」
「一十木に合ったいい曲だな」
「とっても素敵ですね。楽しくってウキウキしちゃいます」
「うんうん!タオルとか回したくなるね!」
「春ちゃん春ちゃん、あそこ、もっかい聴かせて。ラストの転調のとこ」
「いいよ〜」

香は春歌の隣に座ってもう一度弾いてもらうと「春ちゃんすごーい!」と言って自分でも弾かせてもらった。

「香ちゃんのも聞かせて」

春歌はそう言って椅子から降りると、香も弾いてみんなに聞いてもらった。

「わぁ!すごい!パワーアップしたね!」
「四ノ宮のイメージとは遠いかと思ったが…すごいな。後半になるにつれ四ノ宮に合ってるように思えてきた」
「うんうん!ハッピーな感じが四ノ宮さんらしいのかな」
「香ちゃん、素敵!ここのテンポ変わるとこすごい好き!」

みんなに褒められて香は嬉しくて那月の方へ視線を向けた。

「那月くんは?どうだった?」

ワクワクしている顔で那月の答えを待つ香に、那月は笑って大きく拍手をした。

「すっごく素敵です!早く歌って、みんなに聴いてもらいたいです!」
「ほんと!?良かったぁ!」

香はホッとしたように笑って胸を撫で下ろした。
そして、香と春歌はお互いの曲について話し合っているうちに、こういう曲もいいね、と2人でピアノを弾いて曲を作り始めた。

「こういうのは?」
「あっ!いい!それならこう繋げたいな」
「あ〜!素敵!」

2人で夢中になっているのを4人は微笑ましく見守っていた。

「あの子達のあーいうとこすごいなって思うわ」
「あーいうとこ?作曲するってこと?」
「そうじゃなくて、お互いに素直にすごいなって思っててさ。お互いの才能を認めてて、それでいて自分の才能にもちゃんと自信があるのってなかなか出来ないと思うんだよね」
「あー…」
「なるほどな。嫉妬や気後れせずに切磋琢磨できる相手ということなのだろうか」
「それと、2人とも本当に作曲が大好きなんでしょうね」
「あはっ!そうかもね!そういう余計なこと考える前に、楽しいって思ってるのかもね」

本当に嬉しそうにピアノの前で作曲をしている2人は、4人がこっちを見ていることに気がついて「聞いてくれる?」と言って2人で作った曲を楽しそうに弾いた。

「4人で歌ってくれたら嬉しいね」
「あ!それいい!」
「ユニット組む?」
「それは面白そうだな」
「是非やりましょう〜!」
「友千香withならいいわよ」
「あははは!!」
「じゃあパート別にもっかい調整しよ。ここのパートは絶対真斗くんに歌ってほしい」
「わかる〜!こっちは四ノ宮さんでしょ?」
「そうそう!それで友ちゃん、音也くん」
「それ〜!!それでいこうね!」

香と春歌は完全にスイッチが入って、ちょっと楽譜に起こそう、と言って2人で部屋に五線紙とペンを取りに行ってしまった。

「どうする?作詞する?」
「そうだな。こうなったら完璧にしたいな」
「学園祭で披露しちゃう?」
「それいいですねぇ!」

残った4人もだんだん盛り上がっていき、作詞を考えながら振りをつけてみたり衣装をどうするかと真面目に話し合い始めた。
香と春歌が戻ってくると6人でテーブルを囲んで、お土産のお菓子を食べながら一曲を作り上げていった。
しばらくして、談話室にやってきたトキヤは暗い談話室であーだこーだと話し合って盛り上がっている6人に「こんな暗い部屋で何をしてるんですか」と呆れたように言って電気をつけてあげた。
パッと明るくなった部屋に、6人はやっと窓の外が暗くなりはじめていることに気がついた。

「えっ!?今何時!?」
「もう19時ですよ。もしかしてあなた達あれからずっとここに居たんですか?」

呆れたように言うトキヤに、みんな笑いながら「夢中になり過ぎてたね」と言ってテーブルの上を片付けた。

「何をしていたんですか?」
「みんなで曲を作ってたんだ。学園祭で発表しよっかなって!」
「トキヤくんも一緒に歌いませんか〜?」
「あっ!それいい!」
「素敵ですね!」
「一ノ瀬も一緒にどうだ」
「あ、でもセンターはあたしだからね」

事態が飲み込めないトキヤは頭に「?」を浮かべながら「ありがたいお誘いですが遠慮します」と答えた。
そして、香に「これを」とお菓子の箱を差し出した。

「先程のお菓子、とても美味しかったです。これは私の地元の銘菓です。良かったら」
「わぁ!いいんですか?」
「ええ。良かったらみなさんで」
「ありがとうございます!一ノ瀬さんも一瞬にどうですか?」

香がソファの空いてる席を手でさすと、那月が「どうぞどうぞ」と言って困惑するトキヤをそこに座らせた。
目の前に「これは俺の地元のだ」「これはあたしの〜」とお土産のお菓子が置かれていった。
いつも自分のペースを崩さないトキヤがこの空気に呑まれていくのが面白くて音也は笑っていた。
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