長編その1 @
□募る想い
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「おはようございます」
那月が楽屋のドアを開けると、既に衣装に着替えているトキヤと私服のまま歯磨きをしている音也が居た。
「おはようございます、四ノ宮さん」
「はふひ、ほはお〜」
「汚いですよ、音也」
「ほへんほへん」
那月は鞄を置いて、自分の衣装を確認しながら大きなあくびをした。
「珍しいですね。四ノ宮さんがそんな大きなあくびをするなんて」
トキヤはクスッと笑った。
「寝てないの?那月」
タオルで口を拭きながら音也は那月の隣の衣装を手に取った。
「寝ましたよ〜ちょっとだけ夜更かししちゃったんです」
「那月が夜更かしなんて珍しいね」
音也が「何かしてたの?」と聞いたとき、翔とレンが楽屋にやってきた。
「おはよー」
「おはよ」
那月は二人に昨日のことをすぐにでも話したかったが、トキヤと音也の前では我慢しようと思い「おはようございます」とだけ返した。
翔とレンもなんとなく那月が話したそうにしていることは勘付いていたが、那月から話してくるのを待つことにした。
少し遅れてセシルと真斗が楽屋に入ってきた。
「すみません、ギリギリになってしまいました」
「道が混んでいてな。すまなかった」
「まだ大丈夫ですよ」
「2人一緒だったの?」
「イエス。昨日ドラマの稽古のあと真斗のうちでお泊まりしました」
「わあ!いいなあ!」
「愛島、話は後だ。まずは衣装に着替えるとしよう」
「イエス!そうですね!」
今日は昼の生放送の番組に出演することになっていた。
昨日発売の新曲を一曲歌わせてもらい、15分程のトークがある予定だった。
香は夜勤前はいつもギリギリまで寝ていたが、今日はST☆RISHの生放送を観るためにいつもより早起きをした。
昨日の夜、那月から教えてもらった今日の番組出演。
香は撮り溜めるだけで一度も見ず終いだったドラマを全部消して、それを録画予約した。
こんなにテレビを楽しみにしたのは初めてだった。
「まだかな」
お昼ご飯の炒飯を食べながら、テレビの前でその時間を待ち、食べ終わったお皿を片付けていると、番組が始まった。
いつものMCとコメンテーターがやりとりをしたあと、「今日は特別なゲストをお迎えしています」と女子アナが嬉しそうに言った。
香は慌てて手に残った泡を流しタオルで拭きながらテレビの前に座った。
「ST☆RISHの皆さんです」
その紹介と共に流れる新曲のイントロ。
何度も聴いたあの曲だった。
カメラが1人ずつ順番に抜いていく。
那月が映ると、昨日の柔らかく優しい表情とは全く違う、キリッとした表情に香は息を飲んだ。
この時、香は初めてST☆RISHの凄さを目の当たりにした。
もちろん、ST☆RISHの存在は知っていたがテレビもあまり見ない香はよくあるアイドルグループだと思っていた。
だけど、目の前で歌って踊るST☆RISHはパワフルな歌声と激しいダンス、そしてキラキラしたパフォーマンス。
「…か、かっこいい…」
つい、声に出してしまった。