長編その1 @
□お泊まり2日目
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部屋に1人残された香は、とりあえずお皿を洗って洗濯機を回した。
「12時頃戻るって言ってたから…お洗濯干したら家に帰ればいいかな…」
掃除機をかけて、洗濯物を干してから香は那月の部屋を出た。
鍵を閉めて、じっとキーケースを見つめる。
嬉しい。
素直にそう思えた。
那月の家から香の家まで1時間弱。
決して近くはなかったが、それだけで行き来できるなら充分だった。
自宅に着いて、急いで洗濯機を回して那月の家に置いておく用の荷物をまとめた。
「2日分くらいでいいよね…あ、あとパジャマと…」
バタバタと忙しなく用意し、終わった洗濯物を室内に干し、除湿機のスイッチを入れた。
小旅行程度の荷物を手に香は自宅を後にした。
「12時には着くかな」
香は一応那月に連絡を入れ、那月の自宅にまた戻っていった。
自宅に着いたのは12時5分。
那月から、あと15分くらいで戻ると連絡があり、香はほっと胸を撫で下ろした。
とりあえず荷物はそのままに、何かお昼ご飯を用意しようと香は冷蔵庫を開けた。
那月の言ってたいた通り、15分程で家のチャイムが鳴った。
「おかえりなさい」
香が玄関を開けると、那月と翔、そして音也が立っていた。
「わー!いいな、那月!おかえりなさいだって!」
「わ、えと、い、一十木さん」
「俺のこと知ってる!?良かったぁ!ST☆RISHの一十木音也だよ!よろしくね!!」
「あっ、あの河嶋香です」
わあ、本物だぁ…!
と香が感動していると、後ろから翔が顔を出した。
「こら、音也!挨拶したしもう行くぞ!!」
「え〜?」
「邪魔しちゃ悪いだろ!めったに会えるわけでもないんだし!」
「そっか、そうだね。ごめんね、那月、香さん」
「ごめんな!じゃあお疲れ!」
「お疲れ様〜!」
翔はこっちを見て手を振り続ける音也をずりずりと引っ張って自分の部屋へ押し込んだ。
「ごめんなさい、驚かせてしまって」
那月は香に謝りドアを締めると、ぎゅっと抱きしめた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「…なんだかいい匂いがします」
「あっ、勝手にごめんなさい。お昼ご飯を、と思って…冷蔵庫のもの使わせてもらっちゃいました」
香がそう言うと那月は顔をぱっと明るくさせた。
「本当ですか!?嬉しいです〜!」
那月はいい匂いのする台所へパタパタと走った。
「あと少しで出来ますから手を洗ってきてください」
「は〜い!」
「…少し作りすぎちゃったかな…」
男の人との2人分の食事の分量がよくわからず、思った以上に多くなってしまったナポリタンを前に香は小さく「どうしよ…」と呟いた。
香はとりあえずお皿によそってテーブルに置いた。
「一品だけでごめんなさい」
香がそう言うと全然気にしてないように那月は嬉しそうにテーブルについた。
「冷蔵庫にほとんど何もなかったですもんね。それなのにとっても美味しそうです!」
那月の喜び様に香も嬉しくて「今度はもっとたくさん作ってあげたいな」と思った。
いただきます、と言った時家のチャイムが鳴った。
「誰でしょう」
那月がインターホンのモニターを確認すると音也が手を振っていた。
「音也くん、どうしたんですか?」
「ごめんねー!お昼ご飯どうした?俺たちピザ頼んだんだけど、調子に乗って沢山届いちゃってさ!良かったら一緒にどうかなー!」
「ごめんなさい、実は今」
那月が答えかけた時、香は那月の後ろから声をかけた。
「あ、あの実はナポリタン作りすぎちゃって、もし良かったらそれも皆さんで…」
「いいんですか?」
「わあ!!いいの!?」
「はい、あの本当、作りすぎちゃってどうしようかと思ってたんです」
「じゃあうちで食べましょう〜」
那月がそう言うと、音也は嬉しそうに「じゃあこっち持ってくる!」と翔の家に戻っていった。
「香ちゃん、ありがとうございます」
「いえ、あの出過ぎた真似しちゃって…」
「そんなことないです。…ふふ、本当は香ちゃんのご飯独り占めしたいな〜っていう気持ちもありますけど」
那月はそう言って香をぎゅっと抱きしめた。
「…でも、やっぱりこれは多いですよね?」
香は那月を台所に連れていき、まだフライパンに山盛りに残っているナポリタンを見せた。
「わぁ」
「ご、ごめんなさい、男の人がどれくらい食べるかわからなくて」
「ふふ、じゃあちょうど良かったです」
那月は少し落ち込む香の頭をポンポンと撫でて笑った。