長編その1 @

□ストーカー
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少し早く目が覚めた那月は自分の腕の中で眠る香を見つめた。
顔に落ちた髪をそっとすくうと、顔をしかめてもぞもぞと那月の胸に潜り込むのが可愛くて、目を細めた。

もう少しこうしていたい。
ずっと、こんな日が続けばいいのに。

そんなことを思いながら香の髪を指先で梳いた。

「ん…ん〜…おはよ…ございます…」

目を閉じたまま、香は那月の手を握った。

「おはようございます。…まだ目が開いてませんね」
「…開けます…今開けます〜…」
「ふふ、まだ眠いですね。今日は10時でしたっけ?」
「…はい…10時に出れば大丈夫です…」
「じゃあまだゆっくり出来ますね」
「那月くんは…?何時ですか?」
「僕は9時半に」
「…今何時ですか…?」
「もうすぐ7時です」

その言葉に、香は目をごしごしと擦りゆっくり目を開けた。

「まだ寝ててもいいですよ」
「…もったいないので、起きます」

そう言って笑うと、那月は香をぎゅっと抱きしめた。

「おはようございます」
「ふふふ、おはようございます」
「いい天気ですね」
「今日も暑くなりそうです」

カーテンの隙間から溢れる日差しが眩しく、その光が反射して那月の瞳がキラキラして見えた。

「那月くんの目、綺麗ですね」
「そうですか?香ちゃんが映ってるからですね、きっと」
「じゃあ私の目もきっと綺麗です。那月くんが映ってますから」

2人は顔を見合わせてクスクス笑った。
のんびりと布団から出て、のんびりと朝ごはんを食べた。
那月の淹れる紅茶が飲みたい、とお願いをして朝食の料理は香が引き受けた。
朝ごはんを食べて準備を終えると、出かける時間まで余裕があり2人はのんびりとソファに座っておしゃべりをした。

「土曜の夜から名古屋のお友達の家に泊まりに行くんです」
「いいですね!名古屋は美味しいものもたくさんありますし楽しんで来てください」
「那月くんたちは当日来るんですか?」
「そうなんです。当日の朝イチの新幹線で行って、車で夜に帰るんです。あまりゆっくり出来なくて残念です」
「忙しいですね」
「あ、でもその次の福岡公演は前の日から泊まれるので少しゆっくりできます。ライブの合間に地元の生放送のテレビにも出させてもらうんですよ」

那月はニコニコしながら教えてくれた。

「わあ!じゃあ福岡でもテレビ観ておかないといけないですね!何時からの番組ですか?」

香は手帳を広げて那月から聞いた情報をメモした。

「たくさん書いてますね」
「はい!那月くんの出てる番組とラジオと、雑誌とかCDの発売日と…あ、そういえば…」

香はハッと思い出して那月の顔を見た。

「那月くんの誕生日…いつですか?」
「僕は6月9日ですよ〜!翔ちゃんと同じなんです」
「そうなんですか!…って、終わっちゃったじゃないですかぁ!」

香はがっくりと首を落とした。

「ごめんなさい…全然、知らなくて…」
「気にしないでください。僕も言わなかったし」
「でもちょっと調べればわかることなのに…ごめんなさい…」
「じゃあ、今度お祝いしてくれますか?」
「!はい!!もちろんです!」

香がそう言うと、那月も聞いた。

「香ちゃんの誕生日はいつですか?」
「私は11月の16日です」
「僕もカレンダーに書いておきます」

那月は壁に掛かったカレンダーの11月をめくり、ペンで花丸と一緒に『香ちゃんの誕生日』と書いた。

「この日は一緒に過ごせるといいんですが…」

小さな声で呟いたから、香には聞こえていなかった。
仕事に行く時間になり、一緒に出るのはやめたほうがいいと思い、香は那月より後に家を出ることにした。
合鍵を使ってドアを閉める。

次はいつ会えるだろう。

合鍵についているぴよちゃんをじっと見つめてから、それを大事に鞄にしまった。
いつ来てもいい、と言われたものの遅番、早番、日勤、日勤で名古屋に行くから今週はもうプライベートでは会えない。

寂しいな。

そう思いながらも、那月もきっとそう思いながら頑張ってるんだからと奮い立たせた。
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