長編その1 @

□大阪、東京公演
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大阪へ向かう日の朝、那月は香にべったりとくっついていた。

「那月くん、そろそろ来栖さんが迎えにくる時間ですよ」
「早いです」
「早くないですよ。忘れ物はありませんか?」
「…香ちゃんを連れて行きたいです」
「ちっちゃくなれたら良かったんですが」

香は那月の頭をよしよしと撫でながら、朝からずっとしゅんとしている那月を慰めた。
香はちらっと時計を見る。
翔が迎えに来るまであと2分。
なんとか元気になってもらわないと、と困ってしまった。

「那月くん、大阪でファンの子たちが待ってますよ」
「…そう、ですよね…」
「そうですよ!今日初めて参加する子もきっとたくさんいます。一番かっこいい那月くんで行かないといけません」

香の言葉に、那月は顔をあげた。

「そうですね。香ちゃんの言う通りです」
「はい!」
「頑張ってきます!」
「はいっ!帰ってきたら、たくさんお話し聞かせてくださいね」
「はい」

那月は香にキスをして、やっと1人で立ち上がった。
ちょうど翔の迎えのチャイムが鳴った。

「それじゃあ、いってきます」
「はい、気をつけていってきてくださいね。来栖さんも、皆さん怪我しないように」
「はい!」
「ありがとな!香さんも戸締りとかしっかりな」
「はい、気をつけます」
「香ちゃん、何かあったらいつでも連絡してくださいね」
「はい、わかってます」
「香ちゃん、知らない人が来たら出ちゃダメですよ」
「はい」
「ごはんもちゃんと食べて」
「わかってます」
「寝るときは」
「那月!!!!香さんも大人だから大丈夫だって!!ほら、もう行くぞ!!」


翔はまだ何か言いたげな那月を引っ張って玄関から引きずり出した。

「来栖さん、よろしくお願いします」
「おう!」
「香ちゃん、いってきまーす!」
「いってらっしゃい」

ぶんぶんと手を振る那月に、香も手を振ってから、翔にぺこりと頭を下げた。
なんとか送り出し、香は朝ごはんの片付けと洗濯、掃除に取りかかった。
一通りの家事を終えて、香は棚の設計図を書くためにテーブルに紙を広げた。
写真を飾れるように、CDやDVD、Blu-rayもこれからどんどん増えても大丈夫なように、ライブのペンライトも飾りたい。
たくさんある希望をどんどん詰め込んでいった。
どれくらい集中していたのか、背中が固まってしまって香は大きく伸びをした。
ちょうどその時、那月から電話がかかって香は飛びつくように電話に出た。

「那月くん!」
『はい、僕です〜』
「ふふ、お疲れ様です」
『リハが終わってこれからご飯食べに行きます。香ちゃんはご飯食べましたか?』
「私もこれからです。何を食べに行くんですか?」
『お好み焼きに行くって言ってました』
「いいですね」
『あ、ごめんなさい。じゃあ、また電話しますね!』
「はい、楽しんできてください」

電話の向こうから那月を呼ぶ声が聞こえて、那月は慌てて電話を切った。
少し時間ができるとこうして電話をしてくれるのが嬉しかった。

「いいなぁ、お好み焼きかぁ」

香は少し考えてから、今日は自分もお好み焼きにしようと決めた。
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