長編その2

□体育祭
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次の日倉庫の前に集まったみんなは、それぞれ自分の調べたことを報告しあった。

「特に確立された治療法はまだないようだ」
「まずは周りの人の協力を、って書いてたからとりあえずは一歩前進じゃない?」
「もう1人の人格は消すとか出てくとかじゃなくて、統合するって考えみたい」
「それじゃあ、砂月くんっていう子は四ノ宮さんとひとつになるってイメージなのかな?」
「もともとはひとつなのだから、元に戻るということなのだろうな」
「でもどうしたらいいかとかは全然わかんなかったよ」
「そうなのよね〜…」

みんなが真剣に考えてくれているのが嬉しかったが、那月はなんだか心に影があるような気がして小さくため息をついた。
作業を進めながら、色々話し合ったが進展があったとは言えなかった。

「四ノ宮さんのことはまだ全然だけど、ドアはいい感じじゃない?」
「ああ。明日、仕上げをすれば取り付けられるだろう」
「来週から天気も崩れるって言うし間に合ってよかったね!」
「そうですね!」

また明日頑張ろう、と言って片付けをし寮に帰る途中、香は那月を呼び止めた。
2人で泉の方へ行き、香は那月に「大丈夫?」と聞いた。

「…うん。大丈夫」
「ほんと?」
「うん。みんな、僕のために色々考えてくれて…」
「那月くん」

香は那月をじっと見つめた。

「…砂月くんと、別れたくないんじゃない?」

香の言葉に那月はびくっとして、泣きそうな顔で香を見た。

「…なんで…わかるの?」
「だって……那月くんを守るために生まれてくれたから…」
「……僕が…ずっといい事ばかり続いてきたと思っていたのは……さっちゃんが、僕の代わりに痛みを受けてくれたからで…それなのに…」

那月は今までの人生を振り返って、あの時ももしかしたらあの時も…と砂月が代わってくれたんだと思えば、簡単にひとつに戻って欲しいとは思えなかった。

「…かおりちゃんに、ひどいことしておいてこんなこと言えないって、思ってて…」
「那月くん。砂月くんと居ても大丈夫な方法を考えませんか?」
「え?」
「上手くやっていける方法。砂月くんと那月くんが入れ替わっても問題なく過ごせるように!」

香の言葉に、那月はやっと心からホッとして笑顔を見せた。

「かおりちゃん、ありがとうございます」
「みんなにもちゃんと話しましょう?きっと、みんなも一緒に考えてくれるはずです」
「うん」

那月は香に何度もお礼を言った。

「砂月くんにお手紙を書いておくのはどうですか?」
「お手紙」
「那月くんが砂月くんのことをどう思っているのか知ってもらって、そしたら砂月くんからもお返事がくるかもしれませんよ」
「そうですね!さっそく書いてみます!」

2人で寮に戻り、那月は改めて香にお礼を言った。
女子寮に帰っていく香の後ろ姿を見つめて、自分の中の恋心がどんどん大きくなっていくのを感じていた。
那月は部屋に戻り、さっそくノートを開いて砂月に宛てた手紙を書いた。
さっちゃんへ、から始めた手紙はいつのまにか3ページにも及ぶ長い手紙になってしまった。
翔が部屋に戻ってくると、那月は翔に香と話したことを話し、もし砂月が出てきたらこれに手紙を書いてあると伝えてほしいとお願いした。

「お前がそれでいいならいいけど」

そう言って翔も那月の考えを受け入れてくれ、那月はホッとしていた。

「でも、体調とかに影響が出るようなら、俺はその考えには賛成出来ねえぞ」
「うん…」
「……まあ、それも含めて、一緒に居られる方法があるといいよな」
「翔ちゃん!」

那月は翔の言葉が嬉しくて、翔を思いきりぎゅうっと抱きしめると翔の悲鳴が男子寮に響き渡った。
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