長編その2

□梅雨の季節
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那月の気持ちをみんなに話すと、那月の身体の負担が気がかりではあるが理解してくれ、みんなでどうしたらいいか話し合った。
ドアの仕上げをしながら、砂月とコンタクトを取るのはいいんじゃないかと話した。

「お互いに思っていることや、したことを報告し合えば齟齬もなくなっていくだろう」
「そうだよね!何か約束がある時に砂月に代わってたとしても砂月にもわかってもらえるしね」
「砂月が協力してくれるかどうかはやってみないとわかんないしね」
「きっとしてくれます!砂月くんだってできるなら一緒にいたいと思うし」
「そうだよ。砂月くんは那月くんのためならきっと協力してくれるよ」

みんなの言葉に那月は嬉しくて笑って頷いた。
暗くなる前にドアが完成すると、みんなでハイタッチをして記念写真を撮った。

「すごい!前より立派で頑丈になったんじゃない?」
「ああ。それにドアに窓をつけたからな。これで万が一誰かが閉じ込められても安心だ」
「こっそり僕たちのサインも入れましたしね」
「絶対見つからないとこだけどね!」
「みんなが有名になったらこのドアにプレミアついちゃうね!」
「でもこの事知ってるの私たちだけよ?」
「そっか。じゃあ噂流しとく?あの有名なアイドルのサインがどこかにあって、見つけたら幸せになれる!みたいな七不思議!」
「あはっ!それいい!」

みんなでクスクス笑いながら、職員室に完成したことを報告しに行った。
林檎に確認をしてもらいOKを貰うと、林檎はお疲れ様と言って6人にプリンと飲み物をくれた。

「わぁ!りんちゃんありがとう!」
「ありがとうございます」
「みんなで食べましょう!」

林檎にお礼を言ってみんなで中庭でそれを食べながらお喋りをして楽しく過ごした。

「ねえ。みんなは夏休みどうするの?」
「課題にもよるな。以前のようなものなら…帰省したとしても1週間程か」
「そうね〜…あたしもそんな感じかなぁ」
「僕も夏休みは少し帰ろうかな。ちょうど牛さんの出産がありそうだからお手伝いしないと」
「そっかぁ…春ちゃんも帰る?」
「うん。課題にもよるけどね」
「俺は寮にいるよ」
「そうなの?ずっと?」
「うん。俺、施設出身だからさ、もう帰るとこないんだ。一応卒業までは在籍はさせてくれてるけど」

音也がさらっと話しているから、みんなも「そっか」と普通のことのように聞いていた。

「あ、ねえねえ!夏休み入ってすぐさ、お祭りがあるじゃん!それみんなで行かない?」
「ああ。そういえば掲示板に貼られていたな」
「花火もあるって書いてましたね」
「行きたい!行こ行こ!」
「うん!」
「楽しみー!」

那月は部屋に戻るとカレンダーにみんなでお祭りに行く日に花丸を書いた。

「どっか行くのか?」
「はい!みんなでお祭りに」
「あー…そういやポスターあったな」
「翔ちゃんも行く?」
「俺はいいよ。薫と一緒に実家帰るから」
「そっかぁ。翔ちゃんとも行きたかったな」
「人数多いと動きにくいだろ」
「そうかもしれないけど。来年は一緒に行こうね!」
「そーだなー」

翔は適当に返事をしたが、那月は来年は翔も一緒にみんなで行けるといいなと思ってにこにこしていた。
そして、今日の嬉しかった出来事やみんなと約束したことをノートに書いてから眠りについた。
那月はそれからも、楽しいことがあったり誰かと約束をしたりすると砂月に教えてあげようとノートに書くようになった。
砂月からの返事はまだなくて、那月は少し寂しい気もしていた。

「さっちゃんにとっても、楽しいことがあるといいんだけど」

雨が降る空を見上げて寂しそうに言うと、香も「そうだよね」と小さく呟いた。

「もし、私がいる時に砂月くんに会えたら楽しいこととか好きなこととか聞いてみますね」
「本当?」
「うん。行きたいとことか、やりたいこととか」
「教えてくれたら、かおりちゃん一緒にやってくれる?」
「私でいいって言ったらね」

教えてくれるかどうかはわからないけど。
そう思ったが、那月が嬉しそうにしているからなんとか叶えてあげたいなと思ってにっこりと笑った。

「あっ!かおりちゃん!今週の日曜日は何か予定ありますか?」
「日曜日?特にないけど」
「それじゃあ僕と一緒にピヨちゃんのお店に行きませんか?」
「ピヨちゃん?」
「はい!僕の大好きなキャラクターなんです!この子です!」

那月はペンケースについている可愛い黄色のひよこのようなキャラクターの小さなぬいぐるみを見せた。
那月の文房具やハンカチでよく見るキャラクターだと、香は頷いた。

「そういえば那月くん、たくさん持ってますね」
「それでね、この前専門店がオープンして今だけしか買えないグッズがあるんです」
「そうなんだ!いいよ!一緒に行こう!」
「良かった!じゃあ約束!」

那月は香と指切りをして、自室に帰るとすぐにノートに書いた。
そしてカレンダーと手帳に小さくハートのマークを書いて、小さく笑った。
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