長編その2

□砂月
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「そういやレンは?帰ったの?」

音也はお菓子を食べながら真斗に聞くと「さあ」と言った。

「知らん」
「同室なのに」
「あいつはほとんど部屋にいないからな。大方、子羊ちゃんとやらのところに行ってるのではないか」
「子羊ちゃん」
「いいなぁ〜」
「トキヤくんは?」
「トキヤも結構いないことが多いかなぁ。今日もどっか行ってるし」
「子羊ちゃんか」
「ふふふっ!トキヤくんにも子羊ちゃんがいるんでしょうか」
「え〜いないと思うけど…いるのかなぁ」

音也はそう言いながらテレビをつけて那月のベッドに寝転がり、くまちゃんのぬいぐるみを抱っこした。
テレビにはHAYATOが出ていて、いつもの明るいテンションではなく違和感に3人は一瞬黙った。

「…なんかあったんでしょうか」

そう呟くと、テレビの中のHAYATOは引退すると言った。
その発言にも驚いたが、その次に「これからは一ノ瀬トキヤとして新たに活動していく」と話すからのんびりしていた3人は身体を起こした。

「今、トキヤって言った?」
「…HAYATOは、兄ではなかったということか?」
「…あっ…この前のってこれのことだったんでしょうか」

那月は前に「背中を押してもらった」とトキヤから言われたことを2人に話した。
テレビで話すトキヤはどこかスッキリした顔で、3人は「良かったね」と言ってこれからのトキヤを応援しようと話した。
そうしていると音也の携帯が鳴って、春歌から電話がかかってきた。
音也も那月のことを笑えないくらいにデレデレな顔で電話に出た。

「はーい!どうしたの?」
『い、一十木くんは知ってましたか!?』
「ん?」
『は、HAYATO様が一ノ瀬さんだって…!』

春歌は同じテレビを見ていたようで動揺しながら電話を掛けていた。

『どうしましょう!私HAYATO様の前で…!』
「だ、大丈夫だよ」
『一ノ瀬さんって…ああ、どうしよう…!』

春歌はトキヤとHAYATOが同一人物だと知って、今度からトキヤの前で普通にできないかもしれないと動揺していたが、音也はもう気が気じゃなかった。
電話の向こうで、落ち着いてと2人に言われてやっと冷静になった春歌は音也に謝って電話を切った。

「……どうしよ…七海、トキヤのこと好きなのかなぁ」
「そうなんですか?」
「いや、HAYATOのことはアイドルとしてだろう。そういう感情ではないのではないか?」
「でもHAYATOくんよりトキヤくんは身近ですから、そう思ってもおかしくはないですよね」
「そ、そんなぁ」
「あっ、ご、ごめんなさい!音也くん、大丈夫ですよ!きっと、たぶん」

那月のフォローになってないフォローに音也はくまちゃんを抱きしめてベッドに転がった。

「くますけぇ〜…」
「その子はレオナルド八世くんですよぉ」
「レオナルド八世」
「なんでもいいよぉ…くますけぇ…七海がトキヤのものになっちゃったらどおしよぉ〜…」

音也が那月のベッドでもだもだしている間、春歌も香のベッドでうどんを抱きしめながらもだもだしていた。

「夏休み明けから一ノ瀬さんに会ったらどんな顔したらいいのかわかんない」
「普通でいいでしょ」
「でも一ノ瀬さん、すごいね。HAYATOと正反対なのに。プロってすごぉい」
「あ〜…!!この前廊下でぶつかってプリントばらまいたの拾ってくれてぇ…ドジだって思われたらどおしよぉ」
「友ちゃん、どうしよ。はみ出しちゃった」
「それくらいなら修正できるから大丈夫」
「HAYATO様のクリアファイル持ってたのも見られちゃった…!どうしよぉ!」
「友ちゃん、こっちやってぇ」
「ちょっと待ってね」
「ねえ、聞いてる?」
「聞いてるよ〜」
「聞いてる聞いてる。大丈夫だって。気にしてないって」
「もぉ!」

香と友千香はネイルを塗りながら、大丈夫大丈夫と笑った。

「あんまりHAYATO様とかって意識したら逆に嫌なんじゃない?」
「そうよ。ちゃんと一ノ瀬さんとして接してあげないとさ。勇気出してカミングアウトしたわけだし」
「そ、そうだよね…」

春歌はうどんを撫でてやっと落ち着いて、友千香と香にネイルを塗ってもらった。
手も足も可愛くしてから、みんなでお布団に入ってお喋りをし、やっぱり話題は恋の話になった。

「で?四ノ宮さんとはどうなの?」
「……はっきりと、させないようにって感じ?」
「好きとかは?」
「…そ、そう思ってくれてるのは、わかる…けど、曖昧にしてる」
「まあね。はっきりしたらいくら付き合ってないとは言っても無理あるわよね」
「でも、気持ちが伝わってるのは嬉しいよね」
「えーでもさぁ、はっきりしてないとは言え両思いの2人がさぁ、2人でいて何もないとかあり得る?」
「あっ、ありえるよ!大丈夫!那月くんは大丈夫」
「そう?四ノ宮さんって意外と手ぇ早いと思うけど」
「距離近いものね」
「そ、そうかな…わ、私のことより2人はどうなの?」
「えっ」
「あ、あたしはなにもないわよ!」
「本当〜?結構真斗くんと仲良くない?」
「ま、まさやんは!別に!普通よ!それより春歌でしょ!?絶対音也のこと好きじゃない」
「ええっ!?そ!そそそそ」
「わかりやす」
「まあ、見てればわかるよね」
「うん。わかる」
「ええええ」
「音也くんもわかるしね」
「ええええ」
「言っとくけど、あんたたちはみんなから、あんなばればれでなんで退学になんないのって言われてっからね」
「えっ」
「そうなの!?」
「気をつけなよ〜」

香と春歌は赤い顔を見合わせて、「やだもう」と言って布団に潜り込んだ。
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