長編その2
□夏祭り
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次の日、香達は母親に浴衣を着付けしてもらい電車に乗って待ち合わせの場所へ向かった。
クップルは実家にお願いして、今日と明日は寮に帰り、そのあとは1週間ほど実家で過ごす予定だった。
もっと長く家に居たらいいと言う父親に、みんなもそのくらいの帰省期間だし、課題もたくさんあるからと断った。
「お父さん、しゅんってしてたね」
「過保護なのよ」
「優しいお父さんじゃん〜」
「お母さんも優しいしね。また泊まりに行ってもいい?」
「うん!喜ぶよ〜」
電車を乗り継ぐと、同じお祭りに行くのか浴衣姿の人が増えていった。
浴衣のカップルが幸せそうに笑って手を繋いだりしているのを見て、香はいいなぁと思った。
早く那月くんと手を繋いでデートとかしたいな。
そう思っていると友千香に「なぁにニヤニヤしてんのよ」と鼻をつままれてしまった。
香は恥ずかしそうに笑って誤魔化し、電車の窓に映る自分を見て前髪を指で直した。
「髪、可愛くしてくれてありがとう、友ちゃん」
「うん!楽しかったから、またやらせて」
「今度これ教えて。見てたけど全然わかんなかった」
「いいよ〜」
そんな話をしながら電車を降りて待ち合わせの銅像の前に向かった。
同じ所で待ち合わせしてる人が多くて、なかなか近くにも行けず辺りを見回してみるものの3人の姿は見つけられなかった。
「四ノ宮さんなら背が高いし見つけられると思ったんだけど」
「電話してみよっか」
香が電話をかけようとしていると、3人組の男が声を掛けてきた。
やだな、と思って無視しようとしたがしつこく話しかけてきて、仕方なく「待ち合わせしてるから」と友千香がハッキリと言った。
それでもなかなか食い下がらず、香は那月に電話をしようとすると腕を掴まれてしまった。
「どこに電話するの?」
「や、やだ!離してください!」
「何すんのよ!やめてよ!」
「いいからいいから。お祭り行こ!」
「ちょ、や、やめて」
春歌と友千香も腕を掴まれて、ぐいぐい腕を引かれて嫌がっているのに、誰も助けてくれなくて怖くて泣きそうになっていると、男の腕を掴んで那月達が止めにきてくれた。
「離してください」
「那月くん!」
3人組は那月と真斗に睨まれるとその身長差に怯んだのか、舌打ちをして離れて行った。
「大丈夫?何もされてない?」
「すまない、人が多くて見つけるのに時間がかかってしまった」
「改札のところで待っていれば良かったです。ごめんね、怖い思いさせて」
3人の言葉に香達は笑ってお礼を言った。
「助けてくれてありがとうございます」
「も〜まさやん達来てくれて良かったあ」
「ヒーローみたいでかっこよかったです。ねっ」
「うんうん!」
「かっこよかった!」
3人に褒められると、音也達は顔を見合わせて恥ずかしそうに笑った。
「今日は特別、かわいいからみんな気になっちゃうんでしょうね」
「そうだな。浴衣も良く似合っている」
「あっ!すごい!ネイルもお揃いなんだね!すっごくかわいい!」
直球で褒めてくれるから今度は香達が恥ずかしそうに笑って顔を見合わせた。
さっそく回ってみようと歩き始め、出店で色々買って食べたり射的をしたり遊びながら回った。
「花火何時からだっけ」
「7時からだ。河原で見れるようだから一応シートを持ってきた」
「まさやん準備バッチリじゃん!」
「場所取りした方がいいかな」
「そうですね。今、6時だから…場所取りしたら交代で回ったらいいですね」
そうしよう、と6人は河原の方へ歩いた。
河原にはもうすでにたくさんの人が居て、みんなで辺りを見回し少し離れた場所にシートを敷いた。
「どうする?なんか食べるの買ってこよっか」
「ごめん、私ちょっと鼻緒んとこ擦れちゃって。留守番してていい?」
香は下駄を脱いでシートの上に足を乗せた。
親指と人差し指の間が真っ赤になっているのを見て那月は慌てた。
「大丈夫ですか?僕、絆創膏あるから」
「わ、大丈夫?痛そう」
「じゃあ、俺たちで行ってくるとしよう。四ノ宮も一緒に留守番頼む」
「はい」
「あ、大丈夫だよ、私1人でも」
「駄目です」
「また変な奴に声かけられても困るしね」
「こんな時間に婦女子が1人でいるのは良くない」
「じゃあ買ってくるね!何か食べたいのある?」
「たこ焼き〜!」
「僕はじゃがバター食べたいです」
「オッケー!あとは適当に買ってくるけど、なんかあったら電話して」
4人に買い物をお願いして、香はシートに座って那月から貰った絆創膏を貼った。
「大丈夫?」
「うん。水脹れにもなってないし大丈夫」
「良かった。帰り歩くの大変だったら言ってね。おんぶするから」
「ふふっ、大丈夫だよぉ。でもゆっくり歩いてくれたら嬉しいかも」
「わかりました」
2人はシートに並んで座って射的で当てたケミカルライトのリングを光らせて腕に付けたり、ヨーヨーで遊びながら昨日のお泊まり会の話をした。
「それでね、うどんはクップルと遊びたいんだけどクップルは嫌がって逃げちゃって。うどんは何しても部屋に来るから、クップルをパパにお願いしたの」
「ふふ。今は大丈夫かな」
「家出る時にはね、クップル、うどんの上で寝てたから仲良くなれたのかも」
香はその時の写真を那月に見せて、那月は「かわいいです」と言って笑った。