長編その2

□夏休みの終わり
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次の日、みんなで香の実家に行くと大人数で帰ってきたことに両親は驚いていた。

「あらあらあらあら、何事?」
「お父さん、昨日聞いたビデオなんだけど」
「ああ。ここに。何かあったのか?」

香は父親の質問には答えずビデオを受け取ろうとしたが、父親はそれを止めた。

「何かあったなら、ちゃんと話しなさい」
「……」

香が困った顔でいると、音也が「話した方がいいよ」と口を挟んだ。

「お父さん達だって心配してるんだから」
「……うん…」

香が頷くと両親は顔を見合わせた。

「とりあえず上がりなさい。君たちも」
「さ、どうぞ」

みんなは「お邪魔します」と言って家に上がり通されたリビングのソファに座った。
急に増えた人口にうどんは驚いて父親の足元に隠れて様子を伺っていた。
母親が冷たいお茶をみんなに出して父親の隣に座ると、香は重たい口を開いた。
ぽつぽつと話していくうちに両親は顔を顰めていき、話が終わると父親は腕を組んでソファに寄りかかり大きくため息をついた。

「…なるほど」
「それで、課題のこともあるから、このビデオ持って担任の先生に相談して、マスミちゃんに…話に行こうって」
「お前が行くのか?」
「…月宮先生に…相談してからだけど。私がちゃんと話したいって思ってる」
「僕がついて行きます」
「私たちも、ついて行くつもりです」

那月と春歌が言うと両親は顔を見合わせてから、また考えこむように腕を組んだ。

「私は、この件に関しては大人に任せるべきだと思っている。必要なら弁護士をつける。お前のためなら裁判だってなんだってする」
「パパ…」
「だが……あまり、大ごとにしたくないんだろう?」

香が頷くと父親はまた大きくため息をついてお茶をぐっと飲み干し、コップを置くと「わかった」と言った。

「担任の先生とよく話して、お前が…お前と四ノ宮くんが納得する方法を決めなさい」
「そうね。2人でよく話して決めなさい。それでも困った時は必ず相談して」
「パパ…ママ…。ありがとう」
「ありがとうございます」
「担任の先生と話したら必ず電話をしなさい」
「はい」
「君達も。今日は一緒に来てくれてありがとう。いい友達に出会えて、良かった」

みんなは顔を見合わせて恥ずかしそうに笑った。

「担任の先生とはいつ話せるの?」
「今日の夕方に時間を作ってもらいました」
「じゃあ、お昼ご飯をみんなで食べましょう。ね?あなた、アレ用意しておいてね」

母親はそう言って立ち上がりスーパーに行ってくるからゆっくりしててね、と車の鍵を持って出て行った。
父親はやれやれと言って立ち上がった。

「パパ。アレってなに?」
「アレだよ。バーベキューセット」

みんな「わぁ!」と喜び、父親は那月に「四ノ宮くんも手伝ってくれるか?」と声をかけた。

「はい!もちろんです!」
「あ!俺たちも手伝います!」
「ええ」

那月達は父親と一緒に庭に出て物置からバーベキューセットとテーブルを出して火を起こしたり準備を始めた。
母親が帰ってくると香達は野菜を切ったり手伝い、ジュースを飲みながら肉を焼いてバーベキューを楽しんだ。
父親も那月達と話しては機嫌良く笑っていて、香はホッとしていた。

「お父さん、四ノ宮さんのことすごい気に入ってるみたいね」
「パパね、那月くんの歌聴いてファンになったみたいなの」
「ふふっ!四ノ宮さんも嬉しそう」

父親と話している那月がニコニコしていて、香も嬉しかった。
バーベキューが終わるとみんなで片付けをして、アイスを食べてのんびりと過ごした。

「実家ってこんな感じなんだね。なんかいいなぁ」
「音也くんちは違うのか?」
「俺、施設にいたから実家っていうのが無くて」
「…そ、そうなのか」
「あ、でも施設もいいとこですよ!たくさん兄弟いるみたいで楽しかったし!」

にっと笑う音也に、父親はチラッと香を見て複雑な顔で音也の話を聞いていた。
香はその視線に気がつかずうどんを抱っこしながら友千香と春歌と一緒にお喋りをしていた。
そろそろ寮に戻る時間になり、みんな両親にお礼を言って立ち上がった。

「何かあったらすぐに連絡しなさい。四ノ宮くん、香が連絡しない時は君から連絡をくれるかい?」
「パパ!」
「わかりました。そうさせていただきます」
「頼んだよ」
「パパったら!やめてよ!」
「お前がちゃんと連絡してくるならいい話だろう」
「わかったから!!もお!」

香は恥ずかしいからやめてと怒って、那月達はクスクス笑っていた。
実家を出ると友千香は那月に「ずいぶん気に入られましたね」と言って冷やかした。

「んふふ。嬉しいです」
「パパったら本当心配症なんだから」
「父親というものは娘にはそういうものだ。うちの父も妹にはあんな感じだ」
「うちはあそこまでじゃないな〜甘いけど。春歌んちは?」
「うちのお父さんも心配症ですね。あんな感じです」

クスクス笑いながら駅に向かって歩いた。
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