長編その2
□夏休みの終わり
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朝になって起きてきた香はコーヒーを飲んでいる父親におはようと言ってから和室に向かおうとすると父親に止められた。
「まだ寝てるだろう」
「え?だから、起こしにいこうと思って」
「だ、男子の部屋に断りもなく入ってはいけない!」
「そ、そうなの?」
「そうだ!」
「わ、わかった」
香はよくわからなかったが、パパがそう言うならそうなんだろうと思ってキッチンにいる母親にお腹空いたと言いに行った。
「那月くん起こしに行こうとしたらパパに怒られちゃった」
「そうよ。男の子の部屋に勝手に入っちゃだめよ」
「そうなの?」
「そうよ。朝は色々あるんだから」
「色々?」
「若い子は特にね」
「なぁに?わかんない」
「わかんなくていーのよ。四ノ宮くんにも聞くんじゃないわよ」
はい、と朝ご飯のお味噌汁を渡され、よくわからないまま受け取った。
テーブルに戻ると那月が着替えも済ませて和室から出てきて「おはようございます」と挨拶をした。
「おはよう、那月くん」
「おはよう。ごめんなさい、起きるのが遅くて」
「いや。慣れない布団だとあまり眠れなかっただろう。顔を洗っておいで」
「はい」
「あ、タオルね」
香は那月を洗面所に案内してタオルを渡した。
「ヘアバンド、私のだけど使っていいから」
「ありがとう」
「あんまり眠れなかった?」
「え、あ、いえ、大丈夫」
「そ?朝ご飯、用意しておくね」
香はそう言ってキッチンに戻り那月の分の朝ご飯を用意した。
4人で朝ご飯を食べ、父親が仕事に行くのをみんなで見送った。
「四ノ宮くん、またいつでも遊びに来るといい。香がいなくても来ていいからな」
「ふふ。ありがとうございます」
「香も、あまり四ノ宮くんにわがまま言うんじゃないぞ」
「はぁい」
「じゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
香と那月に見送られ父親はご機嫌で仕事へ向かった。
母親も早速衣装の直しに取り掛かり、香と那月は代わりに家事を手伝うことにした。
掃除洗濯を終わらせてからスーパーに買い物に出た。
「暑いね〜」
「暑いですね〜」
「アイス食べたい」
「いいですね」
「お買い物の前にアイス食べに行こっか」
「ふふ。そうですね」
香は地元の公園の近くにいつも夏休みの間だけ来ているアイスキャンディーのお店に那月を案内した。
小さなワンボックスのかわいい車が停まっていて、何人か子ども達が買いに来ていた。
「たくさん種類があるんですね」
「私はね、いちごミルクが好きなの」
「おいしそうですね」
「あ!でも新しいのも出てる!ずんだミルクだって!おいしそう…!」
「悩んじゃいますね」
香が真剣に悩んでいるから那月はクスクス笑って「じゃあいちごミルクとずんだミルク買って一緒に食べましょうか」と提案した。
「いいの!?」
「うん。僕もどっちも食べたいし」
「やったぁ」
那月は2本アイスを買ってきて香に「はい」と渡した。
「あ、お金」
「いいですよ。これくらい」
「でも」
「じゃあまた来た時はかおりちゃんが買ってくれる?」
「ふふ、わかった。ありがとう」
香はお礼を言ってベンチに座りアイスの袋を開けた。
いちごミルクのアイスキャンディーを一口食べて「おいしい!」と笑った。
「ん!ずんだミルクもおいしいです」
「本当?」
「うん。はい、どうぞ」
「わーい!那月くんもいちごミルクどうぞ」
2人はアイスを交換して一口食べておいしいねと笑いあった。
「間接キスしてるー」
「本当だ!間接キスしてるー」
「ラブラブ〜」
「えっ」
公園で遊んでいた子どもたちが2人を冷やかして、香と那月は目を丸くさせた。
「間接キスだ〜」
「えっち〜」
「ちょ、ちょっと!そ、そんなんじゃないってば!!」
「ひゅーひゅー」
子ども達はからかいながらケラケラ笑って走って行った。
香は顔を真っ赤にして「最近の小学生はぁ…!」と呟いた。
「ふふ。からかわれちゃいましたね」
那月はクスクス笑って、香にいちごミルクのアイスを「はい」と渡した。
香もずんだミルクを返して那月がそれを食べるのをチラッと見てから、ドキドキしてしまったのを誤魔化すようにアイスに口をつけた。
間接キス。
そう言われると全然気にしてなかったことが、とんでもないことをしてるような気がしてしまった。
今までも全然気にせずジュースだって一口貰ったりあげたりもしてたのに。
でも今更意識するのも、と思って意識しないようにしながらアイスをパクパクと食べきった。
赤くなった耳を見て那月はクスクス笑って、自分もアイスを全部食べ終えた。
かおりちゃんが気づいてなかったからそのままにしておいたのにな。
これからはもう交換とか一口だけとかしてくれないかもしれないと思うと残念だったが、恥ずかしそうにしている香を見れたからいいかと思って小さく笑った。