長編その2

□研修旅行
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次の日、早朝に校庭に集合し大きなバスで空港に出発した。
バスの中で隣に座ったものの、香は那月の顔があまり見れなくて少しぎこちなくなってしまっていた。
那月は昨日は確かに露骨すぎたかなと反省し、香に小さな声で「昨日はごめんね」と謝った。
香は赤い顔で首を横に振った。

「香ちゃん、昨日は眠れた?僕楽しみであんまり眠れなかったんです」
「…わ、私も…」
「飛行機の中で寝ちゃうかもしれませんね」
「私も」

香が恥ずかしそうに笑ってくれて、那月はホッとしていた。
那月は向こうに着いたら何をしようかと話してくれ、香も少しずついつも通りに話せるようになっていた。
飛行機では香が窓側がいいと言うと「いいですよ」と快諾し、香を奥に座らせた。

「那月くん、見て。あそこの飛行機かわいい」
「どこですか?」
「あそこ。くじらの絵が描いてある」
「わぁ、本当だ!かわいいですねぇ」

ね、と振り返ると、那月の顔が思ってた以上に近くて香は顔を真っ赤にさせて離れようと身体を引くと、窓の枠にごちんと頭をぶつけてしまった。

「いたぁ」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫!大丈夫です」
「本当?たんこぶ出来てない?」

那月は心配で香の頭に手を伸ばして、よしよしと撫でていると香の顔がどんどん赤くなっていってるのに気がついて慌てて手を離した。
ごめんね、と言って席に座り直すと、香は那月が撫ででくれていたところを髪を直すように手で触れていた。
那月の触れていたところだけがすごく熱くて、胸のドキドキがどんどん激しくなっていった。
自分ばっかり意識してるみたいで恥ずかしくなって、那月のおかげでせっかく普通に話せていたのに、また無言の時間が始まってしまった。
ドキドキがおさまらなくて、香は自分の胸に手を当ててそっと深呼吸をして窓の外を見た。
離陸のために飛行機が動き出して滑走路に向かうと、エンジンの音が大きく響いた。
香はチラッと那月を見て、小さな声で那月を呼んだ。

「ん?なあに?」
「……ご、ごめんなさい…つ、かんでていい?」

香が那月の服をきゅっと掴むと、那月はにっこり笑って「いいよ」と優しく言ってくれた。

「怖い?」
「……こ、わくはないけど…苦手…」
「そっか。大丈夫、僕がついてますよ」

服を掴んでいる小さな手をそっと覆うように優しく握ってあげると、香は小さな声で「ありがと」と言って目をぎゅっと瞑った。
大きな音と振動が響き、離陸時特有のふわっと足元が浮く感覚に香の手が小さく震えた。
離陸した後も安定するまでその手を離せなくて、やっと揺れもなくなると香は恥ずかしそうに手をそっと離した。

「ご、ごめんなさい…シワになっちゃった」
「気にしないで。大丈夫?」
「うん。ありがとうございました…」
「飛行機苦手なんですね」
「…飛ぶ時と降りる時だけ…ちょっと苦手…」
「そっか。降りる時も掴んでていいですからね」
「本当?」
「もちろん」
「…えへへ、ありがと」

恥ずかしそうに、ふにゃっと笑う香に、今度は那月が顔を赤くさせた。
学園のプライベートジェットだから他の搭乗客もなく、賑やかで笑い声が響く中、香と那月は気付けば肩を寄せ合って眠っていた。

「那月、香ーお菓子食べる?」

前の席に座っていた音也が顔を出すと、気持ち良さそうに眠っている2人を見て笑った。

「マサ、見て」
「ん?…ふっ。気持ち良さそうだな」
「写真撮っちゃお」
「流出させるなよ」

音也は「スクープ写真だね」と言って笑いながら写真を撮った。
飛行機が着陸体勢に入ると目を覚ました那月は、香が自分の肩に頭を乗せて眠っているのに気がついた。

「あ、那月、起きた?」
「え?あ、はい」
「あははは、香は爆睡だね」
「そ、そうですね」
「2人で仲良く寝てるとこ写真撮っちゃったから後で送るね」

音也はそう言って笑うと隣の真斗にシートベルトを着けろと言われてしまい慌てて席に着いた。
那月はちら、と寝ている香の顔を見てドキドキしながら、またそっと顔を寄せてみた。
頬に当たる香の髪がくすぐったくて、暖かくて、小さく笑った。

「…ん……あ、寝ちゃったぁ…」
「おはよ、かおりちゃん」
「…おはよぉ…あ!ご、ごめんなさい、肩、重かったよね」
「大丈夫。僕も実はさっきまで寝ちゃってたんです」

那月が優しく笑ってくれて、香も「そっか」と言って笑った。
着陸する瞬間、香はぎゅっと那月の袖を握らせてもらって、無事に着陸するとほっとしたように肩の力を抜いた。

「はぁ〜…」
「無事に着いて良かったですね」
「ね。良かった。パパに着いたよって連絡しないと」

飛行機を降りて目の前に広がる青い海にみんな目を輝かせた。
香達もはしゃいで「すごいすごい!」「綺麗!」と騒いでいた。
学園長のプライベートビーチもある南の島はぐるっと青い海に囲まれていて、かわいいコテージがたくさんあって島の真ん中は森があって、暑いのに空気が爽やかで気持ち良かった。

「荷物置いたら、夜ご飯まで自由!泳いでもいいけど遠くまで行くなよ」
「先生達お酒飲むから助けられないからね〜」

はーい、と返事をするとみんなそれぞれ荷物を持って割り振られていたコテージに行き、早速水着に着替えた。
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