長編その2

□お見舞い
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次の日、学校は休みだったが自然といつものメンバーで談話室に集まり、旅行中に撮った写真を見せ合ったりしていた。
那月はまだ半袖であのバングルをつけているのが見えていたが、香はなんとなく気恥ずかしくて長袖の下に隠していた。
那月はそんな香を見て、2人だけの秘密みたいでそれはそれで嬉しかった。
だけど気づく人は気づくようで、香は友千香に、那月はレンに「お揃いなの?」とこっそり聞かれては恥ずかしそうに笑った。

「四ノ宮さん、やるわね」
「えー?」
「これってあれでしょ?牽制ってやつ」
「牽制?何に?」
「森山くん」
「あっ…」

香はそういえば、と思ってチラッとレンと話している那月を見た。

「もう予約済みってアピールでしょ」
「…よ、予約済みって…」
「でも、良かったね。香にとっても、あたしのものってアピールできるし」
「あ、あたしのものって…そんな、そういう…」
「いいじゃない。少しでも不安要素が減るなら」

友千香は、少し羨ましいと小さく呟いてからパッと笑顔を見せた。
友千香はあまり悩みとか相談とかしないからいつも頼ってばかりだったが、悩み事とかあるのかな、と香は眉毛を下げた。

「友ちゃん、私、頼りないかもしれないけど、いつでも話聞くからね」

香は友千香の袖をきゅっと掴んでこっそり言うと、友千香は大きな目をさらに大きく丸くさせてから、クスクス笑った。

「ありがと。それだけで頼もしいわよ」

そう言ってパチンとウインクをすると、香はドキッとして顔を赤くさせた。

「友ちゃん〜…!」
「あははは!」
「好きぃ〜!」
「あたしも好きよ〜」
「あっ!友ちゃん、香ちゃんずるい!私も!」

2人でぎゅっと抱き合っていると春歌も混ざって3人でくっついて笑い合った。

「……俺も混ざりたいな」
「いや、それはダメだろ」
「ああいうのは女の子だけだからいいんですよ」
「ふふ。仲良しさんですねぇ」

みんなでお喋りしていると、Sクラスの女の子がやってきてレンに声をかけた。

「レン〜どっかいこ〜」
「ん。OK。じゃあ、またね」

レンはみんなに軽く手をあげてから、自然と女の子の腰に手を回して楽しげに話しながら離れていった。

「…ほえ〜…すごい…流れるように…」
「あいつのあれはもう才能だよな」
「全く。いつか痛い目にあうぞ」
「あのスマートさは憧れちゃいますねぇ」
「あれは目指しちゃいけませんよ」
「あんな腰細いの?内臓入ってるのかな」
「友ちゃんも細いよね。内臓入ってる?」
「入ってるわよ。さっき食べたベーグルもぎゅうぎゅうよ」

女子3人がケラケラ笑ってお腹を触り合ってはしゃいでいるのを、男子5人は目を細めて眺めていた。

「あ、今何時?私実家行かないと」
「実家?」
「うん。お土産届けに行くの」
「そうなんだ。四ノ宮さんも行くの?」
「え?」

行くんでしょ?という感じで友千香は聞いたが、特に約束していたわけではなかった。
行きたいけど、と思ってると香は「那月くんも来る?」と声をかけた。

「疲れてるかなって誘わなかったんだけど、パパもママも那月くんに会いたがってたんだよね」
「い、行きます!」
「本当?大丈夫?疲れてたら」
「ううん、僕もお父さんとお母さんに会いたいし、うどんくんにも会いたいです。それに、お土産、僕も買ってあって」
「いいの?えへへ、嬉しい」

じゃあ準備してくるね、と2人がそれぞれ自室に戻ると残ったメンバーは顔を見合わせた。

「あれで付き合ってないって言うのは無理がありますよね」
「だよなぁ。意外と緩いよな」
「でもその微妙な立ち位置が辛いときもありますよね」
「歯痒さもあるだろうな」
「四ノ宮さん、たまに後ろで自分の手ぎゅーーって掴んでるときあるよね」
「ぎゅってしたくなるの堪えてんだって」

音也はケラケラ笑ってはいたが、実はそれ気持ちわかるんだよなぁと思いながらみんなとクスクス笑っている春歌をチラッと見た。
学園祭の練習のどさくさで名前で呼びあえるようになったものの、那月のように踏み込むことが出来ないままだった。
もし一歩踏み込んだら那月のようには我慢出来る気がしなかった。
誰にも気づかれないような小さなため息をついてから、香と那月がみんなに「いってきます」と言って出かけていくのを見送った。
2人並んで笑顔を向けて歩いて行く後ろ姿を音也はいいなと思いながら見ていた。
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