長編その2

□学力テスト
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図書室で勉強会が始まると、真斗は音也につきっきりで教えて、香達は那月に数学を教えてもらった。

「こういう表現が出た時はこっちの公式って覚えると楽ですよ。あと覚えた方がいいのはこれとこれ。これも良く出ると思います」
「へぇ〜…四ノ宮さんすごい」
「えっ、もっかい言って」

那月が優しく3人に順番に教えてあげていると、そこに翔が「俺も混ぜて!」と駆け込んできた。

「いいですよぉ。どこがわかりませんか?」
「も〜全然覚えてねえ!どこがわかんねえのかもわかんねえ!」

翔がそう言うと音也に教えていた真斗が「来栖、お前もこっちに来い」と翔を呼んだ。

「基礎からみっちりいくぞ」
「は、はいっ…!」
「マサすごい厳しいよ…」
「まじか」
「無駄口を叩くな。まずはこの問題からやってみろ」

真斗がピシッと厳しく言うと音也と翔は背筋をピンと伸ばして返事をした。

「来栖、これは違う。この時は前の文が助詞になるから」
「マサ〜これでいい?」
「…いいわけあるか!どうして急にこんな訳になる!日本語としてもおかしいだろ!」

真斗が2人に厳しく教えているのを横目に、香たちは優しい那月の授業を受けていた。
テスト勉強が終わると音也と翔はぐったりと机に伏せって、真斗は2人のノートを見て「うーん…」と唸っていた。

「どう教えたらいいのかわからん…」
「明日は僕が教えましょうか」
「頼む…俺にはどうしたらいいのか…」
「ごめんなさい…」
「本当…わりぃ…」

真斗が真剣に悩んでいるから、音也と翔も申し訳なさそうに謝っていた。
次の日も休み時間になると音也と翔の勉強会が始まり、香達も自分の勉強が終わると一緒に教える側にまわったりもした。
赤点の枚数に応じて早乙女からの罰ゲームがあることと、上位になるとご褒美があるということで内容は知らされていなかったが皆真剣に取り組んでいた。
音也も部屋に戻ればトキヤに教えてもらい、翔も引き続き那月に教えてもらって勉強をしていたし、香も部屋に戻ると勉強をして過ごしていた。
時々息抜きにキーボードを弾いたりしてなんとか頑張っていた。

「あ。ノート無くなっちゃった」

どうしようかな、と思ってチラッと時計を見るとサオトメートは閉まっているが門限にはまだ余裕があって、近くのコンビニに買いに行こうとお財布を持って立ち上がった。
外に出るともう暗くて一人で外に出るには少し怖いなと思いながらも、すぐそこだしとパーカーのファスナーを上まで上げて歩き出した。
寮の門を出たところ香は聞き覚えのある声に声をかけられた。

「おや。レディ、こんな時間にどこへ行くの?」
「レンくん」
「一人?危ないよ」
「あ、コンビニにノート買いに行くだけなの」
「そう。じゃあオレもついて行こうかな」
「え?」
「一人じゃ心配だよ」
「大丈夫だよ」
「だーめ。さ、一緒に行こう」

遠慮したもののやっぱり一緒に行ってくれるとなると安心出来て香はお礼を言った。

「ありがとう。本当はちょっと怖かったの」
「そういう時はいつでも言って。駆けつけるから」
「ふふっ!」
「シノミーにお願いすればよかったのに。シノミーなら秒で飛んでくるんじゃない?」
「那月くんは翔くんにお勉強教えてるから」
「そんなことよりこっちのが大事でしょ」

レンはクスクス笑いながら、すっと車道側に立った。
そのスマートさに感心しながら、コンビニに着くとノートとホットコーヒーを買った。

「はい。着いてきてくれてありがと」
「おや。いいのかい?」
「うん。ありがと」
「どういたしまして。じゃあありがたくいただくよ」

2人で並んでお喋りしながら寮に帰り、またお礼を言って自室に戻るとまた勉強を再開させた。
次の日、香が登校すると「おはよう」と挨拶され「おはよう」と言いながら振り返ると森山が立っていた。
香はびくっとしてしまったが、森山は笑顔のまま近づいてきた。

「昨日、神宮寺と出かけてたな」
「えっ」
「あんな夜遅くに、どこに行ってたんだ?」
「た、たまたま、会っただけで…一緒に出掛けたわけじゃ」
「どこに行った?」
「こ、コンビニに、ノート買いに行っただけで…」
「…ふぅん。あんな夜遅くに出歩くなんて感心しないな。危ないし、印象が悪い」

なんでそんなこと、と思う気持ちもあったが言い返すことまでは出来なくて香は黙って一歩後ろに下がった。

「またそういうことがあったら、俺を呼んでくれたらすぐ行くよ。な?」
「…だ、大丈夫。もう、夜遅く、出ないようにするから」
「………そうだな!」

一瞬冷たい目をしたが、にこっと爽やかに笑って見せた。

「俺の言う通り、夜に出歩くんじゃない。危ない目にあってからじゃ遅いからね」

優しい声色でそう言って森山は香の肩をぽんと優しく叩いて歩いていった。
香は初めてはっきりと「怖い」と思って森山の後ろ姿を見つめた。
前のように口調が怖かったわけではなくて、あの笑顔がすごく怖かった。
小さく震える手をぎゅっと握り、なるべく森山くんには近づかないようにしよう、と改めて思った。
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