長編その2

□卒業
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結局、社長の命令は絶対だと言われて、香と春歌は、龍也に曲の打ち合わせをするからと連れて行かれてしまった。

「はぁ…。イッキ、おチビには悪いけど、オレはやらない。デビュー出来ないなら、それでいい」

レンはそう言って控室を出て行き、那月も何も言わずに控室を出て行った。

「……四ノ宮は、悔しいだろうな」
「だよね…せっかく優勝したのに、ソロデビューじゃないなんて…」
「でも、俺たちにはチャンスだろ。なぁ、トキヤ。一緒にやろうぜ?日向先生の言う通り、ソロでやりたいことはグループで成功してからならいくらでもできる」
「……翔の言いたいこともわかります。でも……すみません、少し考えます」

トキヤが出て行くと3人は顔を見合わせてため息をついた。
3人の気持ちもよくわかるだけに、何も言えなかった。

香と春歌は会議室で、ST☆RISHのデビューのために集められたスタッフとの打ち合わせにいきなり参加させられて半分パニックになっていた。

「とにかく、ST☆RISHとして、6人の魅力を最大限に引き出し、かつ明るく、キャッチー、一回聴いたら耳から離れないような」
「明日までに何曲か作ってきて」
「衣装のイメージはそれからになるから」
「歌詞はこの日までに、ダンスの練習はこの日から始められるように」

次から次へと話が進んでいて、香と春歌はそれをメモしながら必死でついていった。
会議が終わると香と春歌は龍也を捕まえて不安そうに縋りついた。

「明日までって」
「すまん。スケジュールがギリギリなんだ。なんとか頑張ってくれ」
「…皆さんは、同意してくれたんですか?」
「あいつらの同意は必要ない」
「でも…!」
「…お前と四ノ宮には、悪いと思ってる。優勝したらソロデビューが約束だったからな。すまない」
「……」
「だが、俺もあいつらがグループでデビューすることは有りだと思ってる。ソロデビューよりも大きな何かが得られると思っている」

複雑な顔をしている2人に龍也は困ったような笑顔を見せた。

「お前たちの曲で、あいつらをひとつにしてやってくれ」

何かあったらいつでも相談に乗るからと言って龍也はたくさんの書類を持って忙しそうにどこかに電話をかけながら行ってしまった。
忙しそうな龍也を見るとそれ以上は何も言えなくて、2人は顔を見合わせて頷いた。

「香ちゃん、がんばろ!」
「うん!明日まで…時間ないね!すぐやろ!」

2人は香の部屋に行き、手探りで曲作りを始めたが、いつのまにか夢中になっていて「実はこういうのやりたかったの」「私も!」と言いながら五線譜に音符を置いていった。

「…私も、本当は、那月くんのソロデビューが目標だったの」
「わかるよ。私も、音也くんがソロデビューするために頑張ってきたから」
「でも、学園長先生の提案に、びっくりしたんだけど……なんか、すごい…いける!って思ったの」
「…うん。私も、そう思った。学園祭の時に感じたあのワクワク感、もう一回やりたいって」

2人はそう言って途中の楽譜を見て笑い合った。

「みんな、これを聴いて歌いたいって思ってくれたらいいな」
「うん!がんばろ!」
「うん!」

2人が一生懸命曲を作っている間、那月は1人学園長室のドアをノックした。
ドアを開けると、那月が来ることを予想していた早乙女は振り返って「優勝おめでとうございます」と笑った。

「……優勝したら、ソロデビューの約束でした」
「それについては謝ります。ごめんなさぁい」
「彼女の曲は僕だけのものです」
「ミスターシノミヤ、それは違います。作曲家はシャイニング事務所の作曲家で他のアイドル、アーティストにも曲は作ってもらいます」
「……でも…」

納得がいかないといった顔の那月に、早乙女は笑って続けた。

「そうでした。ユーにはもう一つ、お願いがありましたね。それは、約束通り、許可しましょう」
「…はい、ありがとう…ございます」
「おや、嬉しくはない?」
「嬉しいです。それは、すごく。…でも…」
「愛しの彼女の作った曲を聞けば、きっと納得しますよ」

早乙女はそう言ってから「もう一つ」と指をぴっと立てた。

「いくら許可したとはいえ、堂々と交際させるわけにはいきませーん!絶対にバレないように、細心の注意をはらって、万が一ユーにとってマイナスになるようなら、別れてもらいまーす」
「…わかりました」

那月は頷き、納得はしていなかったが反論してもきっと聞いてはくれないだろうと諦めて学園長室を出た。
ドアを閉めて大きくため息をつくと、那月は携帯を出して香に電話をかけた。
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