長編その1 @

□初めてのお泊まり
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唇がゆっくり離れると那月は優しく微笑み香の頬に手を添えた。
指先で涙の跡を拭ってそこにそっとキスをした。

「もっとしてもいいですか?」
「えっ」

返事をする前に那月はまた香の唇を塞いだ。
優しいのに情熱的なキスに香は困惑していた。
舌が絡まり、身体がどんどん熱くなっていく。

「…んっ…」

背中に伸ばされた手が、くすぐったいようなそわっとした感覚に身を捩らせた。
そんな香を知ってか知らずか那月はゆっくりと香の身体をソファに倒していった。
手が背中から胸に向かい、控えめな胸を服の上から優しく撫でるように触れると、香はぴくっと身体を小さく揺らした。
香はされるがままでいたが、那月の手が服の下に進んだ瞬間にその手を慌てて掴み、唇から逃げて那月の名前を呼んだ。

「な、那月くん」
「はい」

上気した顔で香を見下ろす那月はさっきまでの可愛い顔ではなくて、男の色気みたいなものが溢れていて胸がキュンとなってしまった。

「あ、あの、その」
「嫌でしたか?」
「い、嫌では、ないんですが、その…しゃ、シャワーを浴びさせて…くださいぃ…」

香は恥ずかしくて顔を両手で覆った。
那月は「あぁ」と小さく言って香を優しく抱き起こしてくれた。

「ごめんなさい。気づかなくて」
「い、いえ」
「可愛い入浴剤があるんです。今お風呂の用意しますね〜」

那月はそう言って香のおでこに軽くキスをしてからお風呂場へと向かった。
香は乱れた服を直し、髪を手で整えてから那月の後を追った。

「那月くん」

お風呂場を覗くと那月はタオルを用意しながら振り返った。

「はい?」
「あの、近くにコンビニはありますか?」
「ありますよ、5分もかからないと思います。何か買いに行きますか?」
「あの、歯ブラシとか」
「新しいやつありますよ」
「え、えと、その、し、下着を」

顔を赤くして下を向く香に、那月は少し考えてからお風呂のスイッチを押した。

「そうですよね。本当に気づかないことばかりでごめんなさい。じゃあ、行きましょうか」

那月は鞄を手にしたが、香は手をブンブン振った。

「一人で行けます!」
「でも、こんな遅くに女性一人では」
「すぐそこですよね?大丈夫です」
「でも」
「だ、だって二人でいるところを誰かに見られたら」

香がそう言うと那月は眉を下げた。

「…ごめんなさい」
「那月くん」
「…じゃあ、少し後ろからついて行きます!それならいいですよね!」

那月はパチンと手を叩いた。

「行きましょう」

那月の笑顔に、香も同じように笑って頷いた。

「香ちゃんが見える距離にいますからね」
「はい。頼もしいです」

エレベーターが一階に着くと香は那月より先に降りて少し早足でマンションを出た。
すぐ近くのコンビニまで、少し離れてはいても一緒に行けることが嬉しかった。
守ってもらっていることが嬉しくて、ニヤニヤしてしまいそうな顔を抑えるのが精一杯だった。
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