長編その1 @

□同棲開始
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ちょうどその頃、香はジョージの運転する車で自宅に到着した。

「3階でしたね?」
「はい」

辺りをきょろきょろと気にしている香に、ジョージは肩に手をかけて身体を引き寄せた。

「大丈夫。安心しなさい」

那月とはまた違った安心感があって、香は肩の力を抜いた。
ジョージに守られながら、香は自宅のドアに鍵を挿した。
室内にも特に違和感はなく、ホッとして奥に進もうとしたがジョージは香の肩を掴みそれを止めた。

「?」

振り返りジョージを見上げると、口に指を立てて「静かに」と目配せをした。
香がこくりと頷くとジョージはゆっくりと部屋を見回したあと、玄関を出て廊下のガスメーターがある扉を開いた。
ジョージは香を手で呼んで中を見せると、そこに少し不格好な機械が置いてあった。
ジョージは手帳を開いて香の前で「盗聴器」と書いた。
さあっと青ざめる香に、ジョージは少し慌てて「屋外にあるということは部屋に侵入はしていないだろう」とつけたした。
そういうことか、と香はこくこくと頷いた。
室内に入り、ジョージはさっと部屋を確認してから香に荷物をまとめるように合図した。
香は無言で荷物をスーツケースに詰めた。
元々物は多い方ではなく、服と靴、鞄とST☆RISHのCDとDVD、Blu-rayと雑誌を30分ほどでまとめることができた。
車に荷物を載せてもらって車に乗り、帰ろうとした時。
香は小さく悲鳴を上げた。
さっきまで自分が居た自分の家の前に、1人の男が立ちこっちを見て睨んでいる。

「あいつか」

ジョージはそう呟くと、香の頭を下げさせた。

「…大丈夫だ、少しそのままでいなさい」

小さく呟いたジョージは香の頭に手を乗せたまま、車を走らせた。

「もう起きていい」
「は、はい…」

なんとか持ち上げた顔は真っ青で、手はカタカタと小さく震えていた。

「怖がらせてしまったな。すまない。もっと早く出るべきだった」
「…いえ、あの、ついてきていただいて、本当に助かりました…」

震えたまま、頭を下げてお礼を言った。

「あの家の引き渡しは私に任せなさい。手続き等も全ていいようにしておく」
「そんなことまでお願いするわけには」
「いや、そういうことは得意なんだ」

どういうことかわからなかったが、笑いながらも真面目な顔で言うから香はこくんと頷いてしまった。
夕方の混んでる時間だったせいで少し遅くなってしまい、2人が那月の家に着くと、レンと翔だけが出迎えてくれた。

「那月も他のやつも仕事の時間になっちまって」
「オレたちは今日はオフなんだ。シノミーが帰るまで居るから安心して」
「セシルがこれから来るって言ってるけどいいか?」

香は笑って頷いたが、やっぱりまだ強張っているのが出てしまっていた。

「何かあったのかい?」

レンがジョージに聞くとジョージは香の顔を見てから、後でメールすると答えた。

「今日のことは忘れられるようにしてやってくれ」

そう言って、ジョージはレンの肩をポンと叩いた。

「ジョージさん、あの、本当に今日は…ありがとうございました…」
「ああ。また何かあったらいつでも言いなさい。部屋の引き渡し等はすぐに終わらせる。完了したらまた連絡をしよう」

ジョージはそう言ってすぐに帰ってしまった。

「大丈夫か?何か飲んだ方がいいぜ」

翔は香をソファに座るように言って、香に冷たい水を渡した。

「ありがとうございます…あの、那月くんは、何か言ってましたか?」
「ん?…まあ、僕がついて行きたかったとは言ってたな」
「…そう、ですか」
「それだけ大事ってことだろ。そういうのはもう仕方ないんだよ。男だからさ」

翔はそう言って香のテーブルを挟んだ向かい側に座った。

「そうだね。心配かけたくないレディの気持ちももちろんわかるけど」
「まあなー」
「さて、暗い気持ちになっちゃうから話題を変えようか!」

レンはパンパンと手を叩いてたちあがった。

「イッチーは雑誌の取材、聖川とイッキとシノミーはバラエティの収録。終わるのは22時くらいかな。セッシーは?」
「あと15分くらいじゃねえかな」
「それじゃあ、楽しむ準備をしておこう」

レンはそう言うとマジックのように、可愛い包みのオランジェットを掌にパッと出すとそれを香の手に乗せた。

「わぁ!」

香は目を丸くさせた。

「すごい!今のどうやったんですか!?すごい!」
「簡単だよ。ほらここを見てて。そうしたら、はい!ね?」
「全然わからないです…すごいですね!」
「喜んでもらえて良かったよ」

レンはパチンとウィンクをして2つ目のオランジェットを香の手に乗せた。

「あっ、そろそろまいらすの時間じゃね?観ようぜ」

翔はテレビをつけて、少しずれてテレビの方を向いて座った。

「もしかしてこれ、聖川とイッチーがゲスト回じゃない?ブッキーが神回だから絶対見てって言ってた」

レンもソファの香から少し離れた隣に座ってテレビに視線を向けた。

「レディは見たことある?まいらす」
「は、はい。毎週ではないんですけど。寿さんのお誕生日のときに黒崎さんが海でウニをとってあげる回、すっごく面白かったです」
「あー!あれな!!あれもすげえ神回だったよな」

翔は笑いながらポテトチップを食べた。
始まったまいらすを観ながら、レンは嶺二から聞いた収録裏話を香に話してくれたり、CM中には翔が那月のライブ中の裏話を話したりしてくれた。
香はだんだん、肩の力が抜けて笑うようになっていった。
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