長編その2

□遊園地
2ページ/12ページ

限られたレッスン室の時間いっぱい使って、お互いの曲の修正や調整をして完成度を高めていった。

「この辺、ちょっと縮めたいんです」
「あー…そうだね、ちょっと出ちゃうもんね」

香と那月はピアノに並んで座って、曲を弾いては歌って、また直しては歌ってを繰り返した。
2人の距離は近かったが、お互い真剣に話し合っているからそれは気にならなかったが、香の用意しておいたアラームが鳴るとその距離に気付いてしまった。

「あっ」
「…ご、ごめんなさい」

ぱっと離れて、その気まずさを誤魔化すように片付けと掃除をした。
掃除が終わると鍵をかけて返しにいき、お昼ご飯をどうしようかと言ってぐぅ、と鳴るお腹を恥ずかしそうにさすった。
サオトメートでサンドイッチと飲み物を買って、またさっきの泉の方へ行った。
食べながら歌詞をまた2人で考えて、話し合っているとそこに音也と春歌がやってきた。

「那月ー!香ー!」
「あっ、音也くん」
「春ちゃん」
「2人も課題?」
「はい」
「どう?」
「結構順調かな。最後の仕上げって感じ」
「そっか。俺たちもいい感じだよ!早く聴いてもらいたいし、2人のも聴きたいな!」

音也は那月の隣に座って春歌はその隣に座った。

「このギター那月の?」
「ううん。かおりちゃんの」
「へー!香、ギター弾くんだ」
「ギターはそこまで。でも今回のはギターのがいいねってなったから家から持ってきたの」
「ちょっと弾かせて!」
「いいよ」

音也は香のギターを借りて音を鳴らすと「いい音〜」と言って楽しそうに曲を弾いた。

「春ちゃんの曲?」
「ううん!適当!」

音也がそう言って笑うから、みんなクスクス笑ってそれに合わせてみんなで歌った。
歌詞も曲も適当なのに、それがすごく楽しくて笑いながら歌を歌った。

「あははは!超てきと〜!」
「でもすごく素敵な歌になりましたね」
「デビューしたらさ、俺と那月でコラボしてこの歌でCD出そうか」
「いいですね!」
「七海と香で編曲してよ」
「ふふ!楽しみです」
「いいね!カップリングはどうする?」
「カップリングも作ろう!」

話が盛り上がっているうちに、午後の予約時間が来てしまって那月と香は急いで用意をした。

「ごめん、邪魔しちゃって」
「いえ!すごく楽しかったです」
「じゃあお互い頑張ろうね」
「またね」

2人と別れて、さっき歌った歌を歌いながらレッスン室へ行き課題を詰めていった。
やっと満足のいくものが出来て、明日は提出用にレコーディングしようとレコーディングスタジオの予約をしに行った。

「明日はいっぱいですね」
「本当だ。じゃあ明後日の…午後にしようか」
「それまでもう少し良く出来るか粘りましょう」
「うん」

お疲れ様でしたと別れて寮に行くだけだったが、まだ離れがたくてお互いチラッと顔を見ては妙な空気が漂った。

「…夜ご飯まで、まだ時間ありますね」
「そ、そうね」
「…良かったら……それまで、お散歩しませんか?」
「お散歩?」
「はい。僕、学園の周りまだあんまり歩いたことないから」
「私も。…じゃあ、えっと…ギター、置いてこよっかな」
「あっ、そうですね。じゃあ、僕も、これは置いてきます」

荷物を置いたらまたここで、と言って部屋に戻り香は髪を直してからまたさっきの場所へ戻った。
那月はもう先に居て、香が那月の名前を呼ぶと嬉しそうに振り返って手を振った。
2人で並んで学園を出てあっちこっちと気になる方へ歩いては、かわいい雑貨屋さんや本屋さんを覗いていった。

「かわいいです」
「かわいい〜!」
「僕もうぬいぐるみさん買っちゃ駄目って言われてるんですよぉ」
「そんなにたくさんいるの?」
「えへへ。かわいい子を見るとついつい…。おうちからも結構連れてきちゃったから翔ちゃんに叱られちゃって」
「そうなんだ」
「かおりちゃんは集めてるものとかありますか?」
「ん〜…特にこれといったものは…。あっ、でもねチョコエッグはつい買っちゃうかも」
「チョコエッグ?」
「うん。ほら、玉子の形のチョコで中におもちゃ入ってるやつ」
「ああ!」
「あのチョコが好きでつい買っちゃうの」
「おもちゃは?」
「おもちゃも可愛いからちゃんと飾ってるよ。でも結構数が多くて…今度かわいいの出たら那月くんにあげるね」
「本当?嬉しい!」

お散歩しながらお互いの好きなものや嫌いなもの、得意なこと苦手なことを話した。

「那月くん、数学得意なの?」
「はい。数学はずっと一番でした」
「すごーい!」
「かおりちゃんは?」
「勉強は平均的って感じかなぁ。どれも悪くないけど良くもないっていうか…」
「体育は?」
「体育はね……だめなの」
「ふふっ、そうなの?」
「走るのも遅いし泳げないしボールは全然仲良くなれないし跳び箱は怖いし…」
「6月に体育祭ありますよ」
「やだぁ。みんなに笑われちゃう。那月くんは笑わないでね」
「笑わないですよぉ」

那月はそう言いながらクスクス笑うから、香は「もお!」と言ってぺしっと腕を叩いた。
楽しいお散歩の時間もそろそろ終わりで暗くなってきた道をまた歩いて戻った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ