長編その2

□梅雨の季節
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次の日、春歌が教室に入ってくると挨拶もそこそこに香に「日曜日空いてる!?」と聞いた。

「日曜日?今週?」
「うん!」
「あ、ごめんね、ちょっと約束があって」
「…そっかぁ…」
「ご、ごめんね。何かあった?」
「あのね!HAYATO様がライブをすることになったの!」
「HAYATO様」
「うん!」

いつもより数段高い春歌のテンションに香は驚いていた。

「友ちゃんも用事があってね…でも仕方ないね。1人で迷わないか心配だけど…でも大丈夫!頑張って行ってくる!」
「ライブってどこでやるの?」
「えっとね、ここ!」

春歌は香に携帯の画面を見せて会場への地図を見せた。
ちょうど最寄り駅が、那月と行くピヨちゃんのショップと同じで、香は春歌にちょっと待っててと言って那月の元に行った。
那月に春歌のことを話すと、那月は「じゃあ一緒に行きましょうか」とあっさり言ってくれた。

「いい?ありがとう!」
「いいんですよ。僕も、ライブ見てみたいし」

快諾してくれた那月にお礼を言って香は春歌に返事をしに行った。
那月はせっかく香と2人でのお出かけだからと楽しみにしていたから、少し残念だったが仕方ないかと諦めて2人の元に向かった。

「あ、那月くん。春ちゃんね、駅までは大丈夫だから3時くらいに駅で待ち合わせにしようって」
「会場までどのくらい?」
「徒歩15分って書いてるけど、私地図苦手で…」
「僕もあんまり得意じゃないんですよね」
「私大丈夫だから、任せて!」
「ありがとう、香ちゃん!頼もしいー!」

春歌は香に抱きついてお礼を言った。

「3時なら、ゆっくりお買い物も出来るね」

香は春歌をよしよししながら那月にそう言って笑うと、那月は少し顔を赤くさせて頷いた。
チャイムが鳴って席に着こうとする那月に、春歌はこそっと「香ちゃんとのデート、邪魔しちゃってごめんなさい」と謝った。

「えっ、あ、いえ、そんな、そういうあれじゃ」

那月は顔を真っ赤にさせて否定しようとしたが春歌はクスクス笑って席に戻り、林檎が教室に入ってきたからそれ以上の言い訳も出来ず黙って自分の席に戻った。

「どうしたの?」
「ううん、なんでも」

春歌はクスクス笑い、香は首を傾げた。
日曜の朝、那月はいつもより早起きして鏡の前で服を合わせていた。

「どっちがいいかな。ねえ、翔ちゃん、翔ちゃん!」
「…ん〜…なんだよ…」
「こっちとこっち、どっちがいいとおもう?」
「あぁ?…どっちでもいいよぉ…」
「翔ちゃん!お願い!」
「……あ〜…青、青い方」
「こっち!?わかりました!こっちにします!」

那月に叩き起こされた翔はまた二度寝するために布団を被って背中を向けた。
晴天、とまではいかなかったが雨は降っていなくて那月はわくわくする気持ちを抑えきれずにいた。
それは香も同じで朝から何度も着替えては鏡の前で悩んでいた。

「これで合ってるのかなぁ」

この日のために練習していた編み込みを何度かやり直して、友千香に教えてもらったメイクをして入学祝いに母親に買ってもらったイヤリングをつけた。

「…気合い入れすぎかな」

ふと冷静になると少し恥ずかしかったが、初めて那月と2人で出掛けるんだから、と頷いてバッグを取ってクップルにいってきますをして部屋を出た。
待ち合わせの時間より10分早かったが那月はもう待ち合わせ場所に立っていて、走ってくる香に気がつくと嬉しそうに笑って手を挙げた。

「ご、ごめん!時間間違えちゃった?」
「ううん。わくわくしちゃって早く出てきちゃった」
「そっか!」
「かおりちゃん、今日、とってもかわいいね」
「えっ」
「あ、いつもかわいいよ?かわいいけど、今日はなんかいつもと違って、あ、そうじゃなくて、えっと」

なんて言ったらいいのかわからなくなってしまったが、香はクスクス笑って「ありがと」と嬉しそうにしていたからホッと肩の力を抜いた。

「那月くんも、素敵。この色かわいい」
「本当?良かった。寝てる翔ちゃん起こしてね、これと白いのどっちがいい?って聞いたの」
「あははは!来栖さん起こしたの?」
「うん。でもすぐ二度寝しちゃった」

2人はいつもの調子でお喋りしながら駅まで歩き始めたが、途中で雨が降ってきて慌てて傘をさした。
傘をさしたせいで少し距離が出来てしまって那月は残念に思っていたが、それでも変わらない笑顔で話してくれる香が可愛くて目を細めた。
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