長編その2

□夏祭り
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しばらく2人でお喋りしていると4人がたくさん買って戻ってきた。

「わぁ!いい匂い!」
「ありがとうございます〜!」
「飲み物、どれがいい?」
「花火そろそろかな」
「あっ、蚊にくわれた〜」
「薬があるぞ」

真斗は虫除けスプレーも出してみんなに使うように言った。
みんなでスプレーをかけあって、ジュースとお茶で乾杯して買ってきたものを分けあって食べた。

「お祭りの焼きそばってすごい美味しいよね」
「わかります。私も好き」
「あっ、かき氷買ってくれば良かった〜」
「少し歩いたとこにあったぞ。買ってこよう」
「えっ、いいよ。あたし行くから」
「いや、俺も食べたい。お前たちはどうする?」
「食べる!俺ブルーハワイ!」
「私、レモンがいいな」
「食べたいけど全部食べられないしな〜」
「僕と半分こしますか?」
「いいの?私イチゴかメロンがいいな」
「じゃあイチゴ、お願いします」
「ああ。わかった」

真斗と友千香はかき氷を買いにみんなに手を振って離れると、友千香は真斗に「かき氷の半分こはそれ相応の行為になると思わない?」と聞いた。

「うむ…」
「たこ焼き半分ことかパピコ半分ことかじゃないのよ?かき氷よ?」
「まあ、そうだな…同性の友人ならわかるが異性の友人では……やらない、な」
「止めた方がいいのかな」
「下手に止めて意識させてしまってもな」
「あの2人はなーんか危なっかしいわよねぇ。退学にならないといいけど」

友千香はそう言ってかき氷の出店を見つけると「まさやん!あった!」と言って嬉しそうに笑って指をさしてパタパタと出店に小走りをした。
真斗は胸がドキッとしたのを誤魔化すように咳払いをし友千香の後を追いかけた。
かき氷を買って戻ってくると、ちょうど花火が始まるアナウンスが流れた。

「ちょうどよかったな」
「ありがとー!」

かき氷を受け取り那月は最初に香にどうぞと渡した。

「いいの?ありがと」

香が一口食べると、大きな音が響いて空に花火が舞った。

「わぁ…!」
「綺麗ですね」
「すごい!すっごく近く見えるね!」
「キラキラしてます」
「見事だな」
「私ぶわって広がったあとさーって落ちてくる花火好き!上がるかな」
「俺もそれ好き!あとパチパチッてなるやつとか」

みんなで花火が上がるたびに目をキラキラさせて空を眺めた。
那月は時々隣で空を見上げている香を横目でちらちらと見ては、胸をときめかせていた。
いつもとは違う髪型も、花火に照らされてキラキラと光る目も、くるんと上を向いたまつ毛も、少しぽてっとした唇も、紺色の浴衣に咲いた大きな朝顔と、浴衣から伸びた白くて華奢な手の先のイエローのネイルも、全てが那月を夢中にさせていた。
その視線に気がついた香は那月を見てにっこりと笑った。

「すごいね!花火!」

那月はその笑顔に吸い込まれるように、ゆっくりと顔を近づけた。

「え」

香が目を丸くさせると、後ろから手が伸びて那月の頬をべちん!と叩いた。
那月はその衝撃に、はっと正気になり慌てて香から離れた。
那月の頬を叩いたのは真斗の手で、香と那月は真斗を振り返った。

「……すまん!蚊がいた!」

真斗の言葉に、友千香も「そ!そう!そうよ!蚊!蚊がいた!ね!」と頷いた。
何が起きたのかわかってない音也と春歌が「大丈夫?」「蚊が多いですね」と言ってうちわでパタパタと扇いだ。
香は顔を赤くさせて、那月は小さな声で「ご、ごめんなさい」と言って香から少し距離を取った。

「……まさやん、ナイス」
「まさかこの状況で律することができなくなるとは…」
「先が思いやられるよね」
「思いやられるな」

真斗と友千香は小さな声でコソコソ話し、呆れたようにため息をついた。
香は急に隣にいることを意識してしまって、那月のいる右側を見れなくなってしまった。
真っ赤な顔で困ったようにかき氷を食べている香を横目で見て、またやってしまったと頭を抱えてため息をついた。
我慢すると言ったばかりなのに、と自分が情けなくなってしまった。
はぁ、とまたため息をついた那月に、香はドキドキしながら小さく那月の名前を呼んだ。

「…あ、あの。半分…えっと…」

香はかき氷を那月に差し出した。
ちら、と那月を見てからすぐに逸らして、唇をきゅっと結んだ。
那月がかき氷を受け取ろうと手を伸ばすと、少しだけ手が触れて、香はびくっと手を引いてしまった。
バシャッとこぼれたかき氷に、香は「ごめんなさい」と言って慌ててカップを拾ってハンカチを出した。

「ご、ごめんなさい」
「僕は大丈夫です。香ちゃんの浴衣が」
「擦らない方がいい。袖だけなら水で流せば」
「香、あっちトイレあるから、行こ」

友千香が香の手を引いて人混みをかき分けてトイレに連れて行き、水道で袖を洗ってくれた。

「…ごめん、友ちゃん…」
「いいのよ。…ん〜どうかなぁ…落ちた?」
「…うん…ありがと…」
「明るいとこで見ないとわかんないね。帰ったらすぐ洗って…」

友千香がハンカチでポンポン叩いて拭いていると、香はぽろぽろと涙を流していて友千香は驚いて顔をあげた。

「ど、どしたの?」
「……ごめん……迷惑ばっかりかけて…」
「何言ってんの、こんなの迷惑のうちに入んないわよ」
「……意識、しちゃって……恥ずかしい…」

そう言って涙を拭う香に、友千香はよしよしと撫でて抱きしめた。

「恥ずかしくなんかないよ。大丈夫」

友千香は香が泣き止むまで、大丈夫と優しく言ってくれた。
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