長編その2

□海水浴
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寮に戻ると、香は部屋の換気をしてからクップルを出してトイレやお水の用意をした。

「久しぶりだから大丈夫かな」

香は心配していたが、クップルはさっさと香のベッドに寝転がり満足そうに目を閉じていた。
香はクップルを撫でてから、音也に帰ってきたよと連絡をして談話室で待ち合わせをした。

「香!久しぶりー!」
「3日前に会ったけどね」
「あははは!そうだった!」
「あれからね、結構進めてねとりあえず完成させたんだ」
「すごーい!聞きたいな」
「那月くんに聞いてもらってからね」
「あはっ!そうだよね」

音也と香が談話室でお喋りをしていると、そこにトキヤが通りかかり音也は大きく手を振って呼んだ。

「トキヤー!」
「…なんですか」
「一ノ瀬さんもどうですか?実家のお土産なんです」

香がトキヤにお菓子を差し出すと、トキヤはお礼を言ってひとつ受け取った。

「ありがとうございます。ご実家はどちらなんですか?」
「都内なんですけど」
「ははっ。そうでしたか」

トキヤが柔らかく笑ったのを香は初めて見て、ドキッとしてしまった。

「では、ありがたくいただきます」
「トキヤ、暇?」
「…今帰ってきたばかりだとわかりませんか?」

トキヤは引いていたスーツケースを見せて呆れたように言った。

「これから!これから暇?」
「今日はパートナーと課題曲の話し合いがあります」
「そっかぁ。暇だったら一緒にお菓子パーティーしよっかなって。これからマサ達も帰ってくるんだ」
「…Aクラスは呑気ですね」
「えー?」
「3月のオーディションでお互いライバルになるんですよ?そんなに仲良しこよしでやっていけるんですか?」

トキヤはそう言うと、しゅんとした音也と香から視線をそらしてコホンと咳払いをした。

「誘っていただいてありがとうございます。…機会があれば……また」
「トキヤ!」
「ふふ!楽しみにしてます」

2人の屈託のない笑顔にトキヤは毒気を抜かれてしまい小さく笑って「では」と部屋に戻っていった。
トキヤはあんなんだけどすごく優しいんだよ、と音也はフォローしていた。

「歌もすごい完璧だし、ダンスもすごいし。勉強もできるし部屋にいる時は難しそうな本読みながら体操してたり」
「ストイックなんだね」
「完璧なのに努力してるんだ。本当そういうところすごいなって思うし、負けられないって思う」
「うんうん!」

2人で話していると真斗と春歌が帰ってきて、久しぶり!と出迎えた。
そして2人が荷物を置きに行っていると那月と友千香が一緒に帰ってきた。

「香〜!久しぶりー!」
「友ちゃーん!おかえり〜!」

香は抱きついてくる友千香を抱きしめて出迎えて、友千香の後ろにいた那月を見ると「ただいま」と言って優しく微笑むからなんだか胸がきゅんとしてしまった。

「お、おかえりなさい。元気、だった?」
「はい。とっても!」

その笑顔に香の胸はドキドキしてしまって、笑ってみたものの顔が赤くなっているんじゃないかと心配になってパッと下を向いた。
頬に手を当ててみるとじわじわ熱くなっていくようで、どうしようと思っていると那月は「荷物を置いてきます」と言って一度部屋に戻っていった。
香はホッとして肩の力を抜くと、友千香に「あんたって子は…すぐ顔に出ちゃうのねぇ」と言われてしまった。

「…だってぇ…」
「そんなとこがかわいいんだけど」

友千香は香の頬にちゅ、とキスをして笑うから香も「やだぁ」と言ってケラケラ笑った。
友千香は一緒に部屋に行こうと言って、香は音也にちょっと行ってくるねと言ってから友千香と笑いながら寮に戻って行った。
そこに真斗がお土産を持ってやってくると音也は「女の子になりたいって初めて思った」と話した。

「なんだそれは」

真斗は笑って音也の隣に座った。
那月もお土産を持ってやってくると「かおりちゃんは?」と音也に聞いた。

「友千香とイチャイチャしながら一緒に行った。また戻ってくるって」
「えーいいなぁ」
「女の子同士の距離感羨ましいよね」
「男同士ではありえない距離だからな」
「僕たちもくっつきますか?」

那月がクスクス笑いながら音也と真斗をぎゅっと抱き寄せると2人は声を出して笑った。

「あははは!」
「やめろ、四ノ宮」
「ふふふっ!男同士でもありですね」
「ありかなぁ〜?」
「嫌ではないが心地良いものではないな」
「ないね〜」

3人で笑っていると、香達も3人でやってきて談話室で実家のお土産を出し合ってお茶会を始めた。
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