未来からの桜

□噂の少女
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−−夢を見た気がした−−

あまり執着していない現世で、いつも大勢のファンに囲まれていた…。

歌っている時だけ、自然と楽しくなってたな。


「…今じゃ、易々と歌えねぇ状況だしなぁ…」

木に寄りかかって仮寝をしていた少女−−桂木さくら−−は目を覚ますと同時に、溜息混じりに呟いた。

数ヶ月前、歌手活動の帰り道にたまたま居眠り運転をしていたであろうトラックに撥ねられ、死んだと思った矢先、不意に目を覚ませば戦国時代に来ていた。

当時は右も左も全く分からず、五体満足を確認したのち、色々と怪しまれぬ様探索をした。

この世界に来たばかりの事を思い出したさくらは、自嘲気味に苦笑を浮かべてから立ち上がり、眠気覚ましに伸びをした。

「…慣れたもんだよなぁ…」

数ヶ月しか経ってないが、それなりに戦国時代に慣れてきたさくらは−地面に突き立ていた−以前野盗を追っ払ってくれたお礼として受け取った大剣を、軽々と片手で持って背部に背負えば、独り言を呟いてから歩き出した。

行く宛は無かった。
唯、放浪する様に各地を渡り歩いた。
馬を使えば楽なのだが、敵兵に見付かればそれなりに面倒な為歩いていた。

彼女は落ち着いて腰を据えれる場所が欲しかった。


日も傾き、取り敢えず今夜の宿をと歩き、城下町らしき場所が有りそうな場所に向かうも、何となく気配を肌に感じれば少しだけ歩みを止めずに警戒した。

夜の刻限に近い為、戦では無いとは思いながら、この刻限だとすれば、野盗か追い剥ぎのどちらかだろう。

野盗も追い剥ぎも似たような物だが…。

さくらの行く手を阻むかの様に、4、5人の野盗が取り囲んだ。

この世界に来てから、1度か2度同じ様な経験が有るのか、さくらは仕方無しに立ち止まり小さく溜息を付いてから、冷たく睨んだ。

「…変な事に頭使うなよな…」

金目の物を置いて行けば命は助けると言われたが、その様な事は有り得ないと判断出来る為、溜息混じりにあしらった。

鋒を向けれるも、全く怯まずに居るさくらは1人の男が自分に向かって振り下ろして来た刀を、蹴りで破壊した。

か弱い女だと見誤っていた野盗達は、怖気付いたのか、逃げ腰になりながらも一太刀だけでもと考え、一斉に斬り掛かった。


3人返り討ちにし、残りは2人とさくらがそちらに目を向ければ、野盗2人は背を向けて逃げ出した。

「……逃がさねぇよ」

背部に背負っていた大剣を片手で構えれば、逃げる2人の目の前目掛けて大剣を投擲し、逃げ道を塞いだ。

狙う相手を間違えたと言わんばかりに、青ざめた顔をした野盗2人の助けを求める悲鳴が微かに聞こえたが、さくらはそれを無視した。
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