Weekness , Strength
□『簡単に終わる仕事なんてない』
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『あー、あの映像は覚えてますよ』
速攻で連絡を取ったテヒョンイの呑気な声がスピーカーを通して聞こえる。
「テヒョンア、こいつは何モンだ?」
『その時のオレの仕事覚えてます?』
「早く言えよ! 身内で駆け引きしてる場合じゃねーんだからよぉ!」
『えー』
「ユンギヒョン、落ち着いてくださいね」
落ち着けるかっ!
俺の首を取ったかのように嬉々とした色を隠さない声にただでさえイライラしていたというのに……なんでこうも今日は上手くいかないんだ。
思えば、これの1つ前の仕事は恐ろしいぐらいに上手く行きすぎていた……反動か、これ。
「別に言わなくてもいい…となると、今まさに潜入中の2人が困るだけだ」
『は? 潜入中? 2人?』
「そうだよ、テヒョンア。ジニヒョンとジミニが今潜入してる」
俺の言葉、そしてホソギの言葉を反芻してる様子がスピーカー越しでも伝わってくる。
『ちょ! 先に言ってくださいよ!!』
「そもそも緊潜中のオマエにこっちから連絡した時点で察しろ!!」
「あー、2人とも落ち着いてください………僕、別に仲介しに来たわけじゃないし」
やれやれと言わんばかりのホソギに一瞥くれてやりながら、別のパソコンのキーボードを叩き込む。
俺だってテヒョンイと一戦交えるつもりなんてねーよ。
ただ、俺の虫の居所が悪いだけだーーー
*******
――― side 🐹
「あ、ジナ! そこ危ない!」
「知ってる! ジミニこそヒールなんだから気をつけて!」
ドタバタと長い廊下を走り抜ける音がやけに響く。
むしろ、その音しか聞こえないのが不気味なぐらいだ。
「ジミナ、こっちおいで」
グイッとジミニの腕を掴んで適当な部屋に入る。
闇雲に走り続けたところで体力を消耗するだけ。
それにーーー
「ジミナ、窓側に行くよ」
「はーい。なんでグギに連絡つかないのかな…インカム壊れた?」
外で待機してるはずのジョングギに連絡がつかない。
呼び出し音が鳴り続けるだけのソレに苛立ちが募る。
ジミニをやたらと分厚いカーテンの横に立たせて、その腰を抱き寄せる。
僕の胸に顔を埋めたジミニが、僕のジャケットの中に手を入れ…腰に位置するガンホルダーに手をかけた。
僕もジミニの腰を抱きながら…その腰に隠された小型ナイフをいつでも抜けるようにしておく。
パッと見はイチャつく恋人同士ーーーその実態はお互いの武器に手をかけていつでも戦闘体制になれるようにしてたりする。
「ジミナ、証拠は持ってる?」
「胸に隠した…あ〜、本当にあのハゲデブ親父、腹立つわ〜」
「表情に出さなかったんだから偉いよ」
「僕を誰だと?」
「そうでした…ーーーっ!」
僕も、ジミニも。
体に緊張が走る。
外の廊下に人の気配を感じたから。
「そんなに急がなくても私は逃げませんわ」
「貴女は逃げなくても、時間は過ぎ去ってしまいます」
秘めやかな情事を連想させるよう、わざとな言い回しを。
ここは2人の世界だと言わんばかりに。
恐らくは聞き耳を立ててるであろう相手に聞こえるように大きめに話す。
「そんなに時間が惜しいのかしら? なら、私が貴方を脱がしてもいいのよね?」
扉をほんの少し開けられた可能性も考えてーーージミニが僕のジャケットの肩口を少しはだけさせた。
ジミニのマニキュアがわざと見えるように…白いシャツに真っ赤な花が散りばめられたかのように僕の肩にそっと指先を這わせてくる。
「えぇ、勿論。それならば貴女の…赤く魅惑的な唇を」
「いいわよ…私だって待てないわ」
ジミニの腕は僕の肩とガンホルダーを掴んでるから空いていない。
そうなるとーーー仕方ないか。
早く外の存在が消え失せるのを願いながら、ジミニに覆い被さる。
細い腰に位置する小型ナイフを指先で確認しながら覆い被されば、ジミニが微かに爪先立ちをする。
ーーーちぅ、っ…
いつまでも埋まらない1センチ。
少し離れた唇の間をタイミングを合わせて繰り返す呼吸とリップ音が代わりに埋めてくれる。
合間に濡れた声なんかも混ぜてリップ音を鳴らせば、そこは乱れた空間に早変わりする。
ーーーっ、ちゅ…
そうしてリップ音を続けながら、外の存在にアンテナを張れば………次第にそれは遠ざかっていった。
「…何処か行った?」
「…多分」
『お取り込み中にすまないね、お2人さん』
「「ーーー!」」
唐突にインカムから聞こえてきた声に思わず飛ぶ勢いで驚く。
口から心臓が出るんじゃないかと思うぐらいに、痛さを覚えるぐらいに心臓がバクバク言う中、その声は呑気に言葉を続けた。
「え、ボス?」
『ジョングギから連絡があってね…2人と繋がらない、と』
「あ…」
『ユンギに調べて貰った所、近距離無線を遮断する電波が出ているらしい』
「あー…」
ボスからの連絡にはびっくりしたが、恋人のフリをしてこの場を切り抜けたとはいえ、結局はここを脱出していないので、状況としては困った事に変わりはない。
とはいえ…だ。
「だからってボスが連絡係にならなくても…」
『今の状況だと私が一番暇だからねぇ…少しは働かせてくれ』
「ボス自ら連絡係になりたがるって…どーなの?」
この場に似つかわしくない…若干呆れも含んだ溜息がインカム越しに伝わったのか、その向こうで苦笑しているのが分かる。
『というわけで、だ…今から3分後にユンギがその屋敷を含む半径1キロを停電させる』
「わーお、派手」
「相当ご立腹だったからな…」
『ジョングギからの伝言だ。2番目の所で待っている、だそうだ』
「「了解」」
屋敷内の見取り図を思い出しながら、ジミニの背中越しに腕時計を覗き見てカウンドダウンを数えたーーー
*******
🐤「ただいまー!」
🐹🐰「「ただいま」」
🐤「ボスー! はい、これお土産ー♪」
幹部しか入れない謁見室(この部屋では皆、素で接してます)に現れたのはまだ変装したままの🐹🐤🐰
お仕事終わりのご機嫌テンションで🐤(一応渡す時だけボス呼び)が🐨に差し出したのはーーーお土産という名の今回の戦利品である。
🐨「お疲れ様、ジミニ。その格好も似合ってるよ」
🐤「そりゃ僕だもーん♪」←クルクルと回ってドレスの裾を翻してドヤ顔
🐭「…ケッ」
🐤「ユンギヒョン、聞こえるように舌打ちするの止めてください」
🐭「わざとだよ」
安定の🐭🐤の喧嘩(と呼ぶには仲が良すぎるトムジェリ会話)を横目に見ながら🐨が戦利品に目を通す。
🐹「ヤー、久々にこういうネクタイつけたなぁ」
🐿「似合いますよ、ヒョン」
🐰「ホソギヒョン、僕は?」
🐿「勿論似合うよ! 気品ある運転手だぞ…少しガタイが良い気もするけど」
🐤「それは思った。また筋トレした?」
🐰「はい」
🐭「お前、筋トレ禁止な。筋肉ウサギまっしぐら」
🐹「今回のようにジミニの援護警護するのにあまりムキムキだと…設定に困るかも」
🐨「グギは筋トレしなくても充分強いじゃないか」
🐰「えー、もっとヒョン達をしっかり守れるようになりたいのに」
🐤「充分じゃないの?」
🐭「充分だろ」
🐰「じゃ発砲許可ください」
🐿「ダメ」←スナイパー闇ホソクの視線
🐹「ダメだね」
🐨「却下だな」
🐰「う〜〜〜〜」←うるうる瞳で口説き落とし作戦実施中
🐨🐹🐭🐿🐤←慣れっこなので可愛いなぁぐらいにしか思わない、結果…効きません
ーーー扉バーン!!(関係者以外は入れないセキュリティ)
🐯「ジミナ! ジニヒョン! 無事!?」
🐹🐤「「っ!?」」←ビビリ中
🐭「は? お前、今…緊潜中…」←目パチクリ
🐯「何かあったらと思って一時的にこっち来た。心配しなくても向こうは大丈夫…あ、ついでに中間報告書どうぞ」←🐨に渡した後🐤に抱きつきに行く
🐯「うわー、流石ジミニ。めっちゃ美人…写真撮っていい?」←既にスマホカメラ起動済
🐤「僕だもん、当たり前でしょ」←ノリノリでポージング
🐰「あ、僕も撮りたいです」←スチャッとガチなカメラ手に持ってる
🐤🐯「「そのカメラ、いつ持ってきた?」」
そうして今日も無事に任務が終わり、平和なひと時を過ごすのでした。