桜咲く
□あいうえお・恋のお題11
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この度、書籍の出版を記念して、お世話になった方々を招いての出版記念パーティーを開くことになり、その会に桜生さんも同席する旨が決まっていた。
控え室で編集さんと最後の打ち合わせをして、やっと桜生さんと二人きりになる。
予め用意されたピンクのキャミソールドレスに着替えた。
「桜ちゃん、僕変じゃないかな?」
「全然変じゃないし、とっても似合ってるよ」
桜生さんは普段着なれてない黒のタキシードに身を包んでいる。
それでも彼のスマートな体型を完璧に引き立ててくれ、凄くカッコよくて見惚れてしまう程だ。
「ありがとう。桜ちゃんもピンクのドレス似合ってるよ? まるで妖精さんみたいだ♡」
「あ、ありがとう。何だか照れちゃうかも……」
「大丈夫、桜ちゃんは基本的に何でも似合う体型だから、もっと自信持ってね?」
「う、うん」
控え室で着替えた私達は開催時間に合わせて、招待客が見える前に会場の入り口付近に並んだ。
「桜ちゃん、僕もここに居ていいの?」
「平気だよ、桜生さんは私の恋人で精神的な支えになってくれてるんだから、立派な関係者だよ?」
「そっか、何だか照れるね」
「ふふ、大丈夫」
程なく時間になり、招待客が到着し始め、私は丁寧に挨拶を交わした。
それから、全ての出迎えを終えた私達は照明が落ちた舞台袖に立ち、司会者の合図で関係者の前に姿を見せる。
温かい拍手で出迎えられ、いつもながら少し緊張したけど、主催者としてしっかり挨拶できたと思う。
この場をお借りして、桜生さんの紹介もすると、皆さん関心があったのか、彼の挨拶が終わると拍手で受け入れてもらえた。
ホッと安堵して、無事乾杯を済ませ、歓談タイムに入ると、各々立食パーティーを楽しみ始めた。
私は桜生さんと挨拶回りをして、親睦を深める。
この度の出版は、いつもと同じような内容だから、割とフランクな感じで望めたと思う。
写真も撮られたりと終始、和やかなムードで滞りなく会はお開きとなった。
帰り際、光る階段を数段降りた桜生さんがこちらを振り向いて、右手を差し出される。
「お手をどうぞ、お姫様?」
「ありがとう、桜生さん」
私はそっと手を添えて、優しい彼にエスコートされながら、ゆったり光の階段を降りていく。
こんな風にリードされると、ホントにお姫様になった気分を味わえた。
「疲れてない?」
「少しね、でも平気だよ。桜ちゃんは優しいね」
黒塗りのハイヤーに乗った帰り道、心配で問いかけると、桜生さんはにっこり笑って答えてくれた。
「優しいのは桜生さんだよ。今日はエスコートしてくれてありがとう。とっても頼りになったよ?」
「桜ちゃんのためだからね。一肌脱ぐのは当たり前だよ」
そう告げて、ウインクする姿はアニメのタキシードを着たヒーローを彷彿とさせた。
「今日の桜生さん、いつもに増してカッコよかったよ?」
惚れ直しちゃった、と告げると彼は私を抱き寄せて。
「桜ちゃんも最高に可愛かったよ♡」
頬っぺに可愛いキスをくれる桜生さんの温もりがくすぐったくて、少し身を捩った。
「続きは帰ってから、じっくりね?」
耳元で甘く囁かれ、徐に手の指と指を絡めて、ギュッと握られた。
桜生さんの微熱を感じて、心地好い気分に包まれていた。
二人を乗せたハイヤーは私達の愛の巣へと一路向かうのだった。