詰め込み式

□銀蟲
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蟲師のギンコには、名前があって。
でもそれを思い出すことはできない。

彼の名前を、私はどこかで聞いたことがあった。
どこだったか、思い出せない。


「まぁオレの名前は今はギンコだしな。今更変えたりはしねぇよ」

「でも、なーんか引っ掛かるのよ」


考え込みながら言えば、ギンコはそうかと頷いて会話を終わらせる。

けれど私の思考は終わらない。
いつもなら特に気になんてしない疑問。
けれど妙に気になってしまって。

何だったか。
誰の名前だったのか。
小さい頃、確か、誰かが。
私に教えてくれた。


「……やーめた。ギンコのことで悩むなんて私らしくなーいもん」

「なーいもんとか可愛く言っても可愛くねぇ」


それに酷い言い様だなぉなんて笑いながら、ギンコは言った。
そしていつしかその話題を忘れて、私たちは歩くのだ。



ギンコの記憶と名を奪ったのは、その名をくれたそのものだった。
そんな皮肉な出来事を、彼らは知らないまま生きる。







そして私も、ギンコの過去を知らないまま生きるのだ


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